<h3>「私たちの血税が“殺傷兵器の開発”に使われているなんて知らなかった」</h3>
「（共同開発を進めている殺傷兵器が）その先、どのような使われ方をするかということについても議論をしておりません。まずは今、与党での議論が行われています。議論の行方を注視したうえで、政府としての判断をしたいと思っています」
これは、11月１日の参議院・予算委員会での山添拓議員の質疑に対する岸田文雄首相の答弁だ。
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この日、同議員の質疑では、消費税減税、雇用、男女の賃金格差、非正規ワーカー、PFAS、イスラエルのガザ進侵攻等の問題が追及されたが、中でも国会中継の視聴者たちを騒然とさせたのは、「武器輸出」の問題である。
<figure id="attachment_347335" aria-describedby="caption-attachment-347335" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2e16d0e9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/40c5ec3af97c4c987bef0166826175d0.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347335" class="wp-caption-text">なぜ重大なことが、いつも「密室」で決まるのか…（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
この問題がSNSで投稿されると、たちまち拡散。以下のようなコメントが続出していた。
<ul>
<li>「殺傷兵器の使われ方が全く議論されていないって……」</li>
<li>「私たちの血税が殺傷兵器の開発に使われているなんて知らなかった」</li>
<li>「こんな重大な問題が閣議決定で決まるなんて」</li>
</ul>
武器輸出の問題は、今どんな状況にあるのか。改めてこの問題について聞くべく、山添拓参議院議員を訪ねた。
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<h3>「兵器」で途上国支援？</h3>
「日本とイギリス、イタリアで共同開発を進める次世代戦闘機の問題を含め、武器輸出を拡大していこうという動きは、昨年12月の安保３文書の閣議決定が大転換のきっかけになっていると思います。 
次世代戦闘機に加えて、兵器のライセンス生産、主として米軍需産業からライセンスを受けて日本で生産する兵器を第三国に輸出できるようにしようとしています。また、ODAでは非軍事協力だと言ってきた途上国への支援に対して、OSA（政府安全保障能力強化支援）という仕組みをつくり、途上国支援と称して装備品を提供しようとしています。
いずれも『我が国にとって望ましい安全保障環境を創出するため』として進めようとしているのが、現状です」 
山添拓議員はそう説明する。
1967年の「武器輸出三原則」以降、憲法９条のもと、国際紛争を助長することになる武器輸出はしないという立場をとってきた日本だが、それが大きく変わったのが、安倍政権の’14年。武器輸出三原則が全面的に見直しされ、「防衛装備移転三原則」と変わり、これまで国是とされてきた原則が180度転換することになったという。
<figure id="attachment_347336" aria-describedby="caption-attachment-347336" style="width: 745px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="31b39390"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/b6ba32729075bcaeea5913582651cad5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347336" class="wp-caption-text">11月１日の参議院・予算委員会での山添拓議員の質疑に対する岸田文雄首相の答弁は、SNSで投稿されると、たちまち拡散され話題に（PHOTO：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>「密室協議」で国民に説明されることなく大転換された「武器輸出のルール」</h3>
「防衛装備移転三原則では、武器輸出が禁止される対象国は極めて例外的で、原則可能になりました。しかしそれでも、例えば戦闘機のような殺傷兵器まで輸出することは当時考えられていませんでしたし、政府もそのようには説明していませんでした。 
ところが、武器輸出を大々的に進め軍需産業を成長産業にしていこうという大転換が、国民に説明されることなく、“密室協議”によって、今まさに進められようとしているわけです」
日英伊で共同開発する次期戦闘機の開発・輸出計画や、イスラエルの軍事企業と日本の商社が提携し、日本に武器を販売する動きがあること、自公によって武器輸出のルールが見直されていることなどは、多くの人が知らない事実だったろう。
なぜ重大なことが、いつも密室で決まるのか。
「それは知らせたくないからでしょう。 
春先から６～７月にかけて、殺傷能力のある武器輸出を認めることへの賛否を尋ねた各報道機関の世論調査では、反対が６～７割という結果になっていました。国会の参考人質疑では、武器を輸出し、儲けようとするのは『死の商人国家への堕落』だという指摘もなされました。 
ところが、私たちが国会でこの問題を質問しても、『今与党で協議中なので』といって回答しない態度です。 
それで、閣議決定で決めたら、すでに決まったことなのでと言い、変えないことが予想されます。民主主義の場である国会を軽視した対応ではないかと思います」 
<div data-friday-nextpage-lead="「お答えは差し控える」「指摘には当たらない」…"></div>
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<h3>「お答えは差し控える」「指摘には当たらない」→「閣議決定」が常態化</h3>
では、国会はなぜ軽視されるのか。「支持率低下」は抑止にならないのか。
「私が初当選したのは’16年で、国会論戦は安倍首相、菅首相、岸田首相と３人しか経験していません。そんな中、安倍さんは私が議員になる前からひどいと思っていましたが、岸田さんはそれに輪をかけてひどいです。 
以前の政治家は、少なくとも官僚が作ったペーパーを読むだけではなく、少しは質問と噛み合った論戦ができたと、先輩議員などは言いますね。 
質問内容について、私たちは事前に通告し、答弁の準備を求めます。同時に、特にテレビ中継が入るような質問の場合には、時々に焦点になっているテーマを問うわけですから、本来はそれに対して政治家としての姿勢や考え方、基本的な立場を答えれば良いわけですが、今は間違えないようにペーパーを読むだけの場面が多いです。 
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どれだけ不誠実な答弁姿勢で国民的なウケが悪くても、最終的には数の力で押し切れると思っているからこその対応だと思います。 
さらに以前との違いで言えば、’94年から衆議院が小選挙区制になり、３割の得票で７割の議席まで可能になった、圧倒的多数をとれるようになったことがあるでしょう。政策が民意とかけ離れていても、選挙で勝てば何を言っても構わないという認識だと思います」
<figure id="attachment_347337" aria-describedby="caption-attachment-347337" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="617d2b16"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/afabba3bd99f86c4cdeb7ec987d2220b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347337" class="wp-caption-text">「以前の政治家は、少なくとも官僚が作ったペーパーを読むだけではなく、少しは質問と噛み合った論戦ができたと、先輩議員などは言いますね」と山添氏（PHOTO：各務あゆみ）</figcaption></figure>
今は国会で「お答えは差し控える」「指摘には当たらない」→「閣議決定」というのが、残念ながら常態化している。何でも密室協議して「閣議決定」の流れは、いつからなのか。
「昨年12月の『安保三文書』の閣議決定などは本当に酷い話ですが、これまでで最悪の閣議決定は、’14年の安倍政権の『集団的自衛権の行使容認』（自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することを正当化する理屈）だと思います。 
日本の平和国家としてのあり方を180度転換するものです。同時に、当時の安倍首相は、戦後最長の95日間国会を延長し、安保国会として中身はともかく議論の場はつくりました。 
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ところが、岸田さんの場合は、閣議決定で決めただけで突き進んでいます。変えたとも言わない。 
『専守防衛は変えない』『他国に脅威を与える軍事大国にはならない』と言いつつ、敵地攻撃能力を持つ、憲法解釈に変わりはないと言い張るのですから、一層タチが悪いですね。 
閣議決定による大転換という手法は安倍政権でもありましたが、それを文字通り閣議決定のみで説明なくやっていく、議論もせず、世論が反対してもお構いなしというのは、岸田政権がより悪質なんじゃないかと思います」 
<div data-friday-nextpage-lead="岸田首相の「聞く力」の正体…"></div>
 
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<h3>“大きな力”を持っているところにだけに発揮されている岸田首相の「聞く力」</h3>
SNSでは「マシかと思っていた岸田首相が、実は史上最低の首相だった」と評する声も続出している。なぜなのか。
「岸田さん自身には熱意を持ってやろうとしていることがあるとは思えません。 “聞く力”はある意味持っているので、アメリカから求められたら軍事費を増やす、経済界から求められたら原発の延命・新設を決める、マイナ保険証もごり押しするといったことがどんどん進められています。 
自身の中に理想の国家像や理念があり、そのために突き進んでいくのではなく、アメリカの要求や大企業、財界の要求に聞く力を発揮して、言われるがままに素直にやるわけです。 
自らの保身と延命のためだと言われます。“聞く力”がないのではなく、大きな力を持っているところにだけ発揮されているということです」
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今後、「大きな力には聞く耳を持つ岸田内閣」は、どこに向かおうとしているのか。
「１つは私が国会で質問した日英伊で共同開発を進める次世代戦闘機について、来年はそのための条約を出し、予算もつけ、結論ありきで進めようとすることが考えられます。 
もう１つは、アメリカのウクライナ支援との関係です。アメリカだけでは対応しきれないから日本にも足りない弾薬を提供してくれ、兵器をライセンス生産してくれと要求してきます。
日本でつくった兵器がアメリカに輸出されれば、少なくとも間接的には日本もウクライナへの武器支援を行うことになります。 
これらのために、防衛装備移転三原則そのものを見直すのであれば閣議決定になるでしょうし、運用指針の見直しであれば国家安全保障会議での決定です。いずれにしても、国会での議論とは関係なく進んでいくことが懸念されます」 
<figure id="attachment_347338" aria-describedby="caption-attachment-347338" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b65e25a1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/6031cf6118b726c6e13b289c6d7bc9b3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347338" class="wp-caption-text">「軍事費をどんどん拡大することに力を入れる人たちが、外交のために努力をしないのはおかしい。力の入れる先を変えるべきじゃないかと思います」と山添氏は言う</figcaption></figure>
<h3>「声をあげること、行動し世論を動かすことが大事です」</h3>
では、今、私たちができることとは。山添議員は言う。
「数で押し切られる、何をやっても無駄と諦める向きもありますが、政権与党も支持率の低下や反対論の強まりは気にしているはずです。 
だからこそ、声をあげること、行動し世論を動かすことが大事です。 
軍事が必要だという論調は確かに広まってきていますが、だからこそ、その危険性を主張し続けることが必要です。 
そうでなければ、日本は普通の国になってしまう。憲法９条や平和国家というのは名前だけの、嘘つきの国になってしまいます。 
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兵器は、輸出した先で何に使われるかわかりません。与党協議では『歯止め』が議論されているようですが、その保証はない。実際に中東では戦争に使われた例があるわけですから。 
そもそも、軍事力を強化しても平和になるわけではありません。相手を脅せば、脅された相手はもっと脅す必要を感じますから、エスカレートするだけです。 
軍事力を拡張し、緊張関係を高め、台湾海峡有事のようにアメリカの戦争に巻き込まれる形でのリスクを負う道でいいのでしょうか。日米同盟が外交の基軸だと政府は言い、多くの人もそういう認識だと思いますが、むしろアジア全体で見れば軍事同盟は少数派です。アメリカと軍事同盟がないと攻撃されるというのは、幻想なんです。 
政治の話に戻すと、軍事費をどんどん拡大することに力を入れる人たちが、外交のために努力をしないのはおかしい。力の入れる先を変えるべきじゃないかと思います」

田幸和歌子

各務あゆみ

消費税減税、雇用、男女の賃金格差等の問題が追及された11月１日の参議院・予算委員会。その中で国会中継の視聴者たちを騒然とさせたのは、山添拓議員の「武器輸出」に関する質疑に対する岸田文雄首相の答弁だった

なぜ、いつも密室で…国会質疑で明らかになった「殺傷兵器の開発・輸出」に日本が加担している深刻事態

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