'76年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で'02年と'07年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍

<h3><span class="strongInContent">「sio」は、“一つ星”から“セレクテッドレストラン”に</span></h3>
<p>’23年12月５日に『ミシュランガイド東京2024』の発表会が国立新美術館で行われた。12時からはメディア向け説明会、14時からは掲載店発表セレモニー、15時30分からは懇親会という流れになっており、私も参加している。掲載店発表セレモニーからは、セレクテッドレストランを除くレストラン関係者を招待。総勢600名が参加していたので、とても活気に溢れていた。</p>
<p>今年から、星やビブグルマン、ミシュラングリーンスターといった評価がつかない、新たなカテゴリー「セレクテッドレストラン」194軒が加わっている。そのため、掲載軒数は全部で504軒（新規168軒）と過去最多の軒数に。東京の星つきレストランは183軒となり、今年も「世界で最も星が多い都市」となった。</p>
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<figure id="attachment_347606" aria-describedby="caption-attachment-347606" style="width: 1800px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0c5b61d3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/e8eae7d67ee1a7703ba952bca1f7faab.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347606" class="wp-caption-text">東京の星つきレストランは183軒となり、今年も「世界で最も星が多い都市」に（PHOTO：東龍氏提供）</figcaption></figure>
<p>毎年この時期、新規掲載店、星の増減があったレストランについて、飲食業界はしばらくこの話題でもちきりとなるが、飲食業界ではない人々も、先行きを気にかけたレストランがあったのではないだろうか。</p>
<p>代々木上原にある「sio」は、女優である広末涼子とダブル不倫をしていた鳥羽周作氏が代表を務めていたレストランだ。</p>
<p>騒動の最中にオープンした長野の新店について「今年もこの不倫がどう影響するかわかんないけど、しなかったらもう一個新しい店もミシュラン取るし。内定はきてるから」と、“ミシュランガイドの星内定”発言で物議を醸した。</p>
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<figure id="attachment_347607" aria-describedby="caption-attachment-347607" style="width: 4138px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e29138bc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/cde6c4187f1e515c3ed3545ea036ba1b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347607" class="wp-caption-text">「内定はきてるから」と、“ミシュランガイドの星内定”発言で物議を醸した鳥羽周作氏だったが…（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p>『ミシュランガイド東京2024』で、「sio」が属する料理ジャンルの現代風料理は、全部で37軒。その内訳は、三つ星４軒、二つ星８軒、一つ星11軒、ビブグルマン１軒、評価のないセレクテッドレストランが13軒となっている。残念ながら、「sio」は昨年の一つ星からセレクテッドレストランに降格され、星を落としてしまった。</p>
<p>ビブグルマンでもないので、２段階下げられたと考えられる。シェフが変わったり（本年度も事件でシェフがいなくなったケースがある）、店が移転したりするなどして、いきなり２段階以上落ちることはあるが、非常に稀なことだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="“星内定”はあったのか？"></div>
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<h3><span class="strongInContent">重要視される「公平性」と「公正性」…“星内定”はあったのか？</span></h3>
<p>なぜ、このような事態が起きてしまったのだろうか。</p>
<p>ミシュランガイドの評価基準は世界共通であり、料理のカテゴリーに関係なく次の要素を厳正に審査している。</p>
<ul>
<li>素材の質</li>
<li>料理技術の高さ</li>
<li>味付けの完成度</li>
<li>独創性</li>
<li>常に安定した料理全体の一貫性</li>
</ul>
<p>毎年ミシュランガイドは発表会でこの５点を強調。「独創性」には提供方法などプレゼンテーションも含まれるが、基本的には“皿の上”にある料理だけの評価となっている。掲載可否や星の評価については、複数の調査員、編集長、ガイドブックの総責任者による合議制。</p>
<p>空間やサービス、酒類の品揃えは関係がないが、酒類の品揃えが優れているレストランには「興味深いワイン」「興味深い日本酒」といったピクトグラムが付く。また、評価の有効期限は、次年度版の発行まで、もしくは、書籍の発行から１年までだ。</p>
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<figure id="attachment_347608" aria-describedby="caption-attachment-347608" style="width: 1800px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="eb176d47"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/baaa3fbf72e4ec90557c2c7abaf8fe40.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347608" class="wp-caption-text">ミシュランガイドが最も重きを置く価値「公平性と公正性」を毀損してまで、いちレストランに星の内定を告げることには何のメリットもない。写真は、発表会が行われた国立新美術館（PHOTO：東龍氏提供）</figcaption></figure>
<p>現代では、様々なレストランの評価が存在している。日本であれば、ランキングでは「世界のベストレストラン50」や「アジアのベストレストラン50」、「ラ・リスト」、評価では「食べログ」や「Googleマップ」、「ゴ・エ・ミヨ」などが挙げられるだろう。</p>
<p>多くのレストラン評価が存在している中で、ミシュランガイドが最も重要視しているのは、「公平性」と「公正性」だ。調査員はミシュランの正社員であり身元がしっかりしている。</p>
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<p>一般客と同じように予約してお金を支払っているので、完全に匿名。調査員であることがバレることはなく、かつて調査員であったという話もほとんど聞かない。１人の調査員だけでレストランを評価することはなく、複数人によって採決されるので、透明性と客観性が担保される。</p>
<p>ミシュランガイドが最も重きを置く価値「公平性と公正性」を毀損してまで、いちレストランに星の内定を告げることには何のメリットもない。ましてや、調査すらしていない新しいレストランに星を確約することは、調査機関としての致命的な欠陥をはらんでいる。</p>
<p>先の“星内定発言”は、長野の新店についてだが、鳥羽氏の本丸は「sio」に他ならない。もしも、この「sio」が星を維持し続けていたとしたら、第三者はどう思うであろうか。調査さえされていない新店でさえ星が確約されているのだとしたら、毎年星を獲得している「sio」も星が内定していると訝られるのは当然だ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="鳥羽シェフ復活の可能性"></div>
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<h3><span class="strongInContent">歴史ある名店が再注目された『ミシュランガイド東京2024』…鳥羽シェフ復活の可能性</span></h3>
<p>一般的には知られていないが、ミシュランガイドの発表会では、招待されたレストラン関係者にも評価は知らされていない（メディアはセレモニー直前に知らされる）。最低でもビブグルマンであることは確かだが、星である確証はないのだ。何度も星の常連シェフや三つ星の料理人に確認したことがあるが、誰一人として何も知らされていないという。</p>
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<p>実際のところ、「sio」は素晴らしいレストランで、私も好印象をもっている。様々な食材を用いたフレンチとイタリアンベースの料理で、最後は食事で〆るという、10皿程度の多皿コース。ワインペアリングはフランス各地を中心にしながらも、日本酒を取り入れたりしている。</p>
<p>店内はゲストの活気に溢れており、サービスは堅苦しくなくてフレンドリーだ。駅からのアクセスも抜群で、普通に利用していれば、ディナーでもコースとワインを合わせても２万円台となる。星つきレストランとしては非常に良心的な価格なので、予約も簡単ではない。</p>
<p>したがって、ミシュランガイドの調査員が、一つ星以上のクオリティがあると判断するのは納得できることだろう。ただ、星として掲載するには大きなリスクが生じる。かといって、レストランとしてクオリティが低い訳ではない。その“落としどころ”が、’23年から創設されたセレクテッドレストランではないだろうか。<span class="strongInContent"> </span></p>
<p>ミシュランガイドにおける「sio」の料理ジャンルは、’22年発表の『ミシュランガイド東京2023』ではイノベーティブ、’23年発表の『ミシュランガイド東京2024』では現代風料理となっている。しかし、鳥羽氏が紡ぐ料理のベースはフランス料理とイタリア料理だ。</p>
<figure id="attachment_347609" aria-describedby="caption-attachment-347609" style="width: 1761px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7417a696"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/bb754b72f8d08a3760337a1ded50f954.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-347609" class="wp-caption-text">最近のミシュランガイドの傾向としては、シェフが実際にいないレストランに対しては手厳しい（PHOTO：東龍氏提供）</figcaption></figure>
<p>『ミシュランガイド東京2024』では、名店フランス料理の再評価が行われた。「銀座レカン」「モノリス」が一つ星に、「アラジン」「サカキ」「ポンドール・イノ」「アピシウス」「ブーケ・ド・フランス」「ラ・ロシェル南青山」「ル・ブルギニオン」「ボンシュマン」がセレクテッドレストランにと、多くのゲストに愛され、歴史ある名店が新しく登場したのだ。</p>
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<p>ミシュランガイドの調査員は毎年、レストランをリストアップして厳正に審査している。それ故に、流行のレストランだけではなく、一度星を落としたり、かつては隆盛を誇っていたりしたレストランにも引き続き訪れているので、再び掲載されることがあるのだ。</p>
<p>最近のミシュランガイドの傾向としては、シェフが実際にいないレストランに対しては手厳しい。先に挙げた評価項目の中で「安定した一貫性」があるが、この重要性が高まっているように感じられる。</p>
<p>鳥羽氏が、プロデュースシェフや芸能人シェフとしての役割を控え、自身の大切な旗艦店で実直にフランス料理やイタリア料理の本質を追求しながらも、クリエイティビティを発揮し、“星内定”を公言さえしなければ、「sio」が一つ星として復帰するのは、かなり早いのではなかろうか。</p>
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<p><a href="https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/aa375956dedd1baf49b763e830fd49b0aa29e872" target="_blank" rel="noopener noreferrer">■東龍さんのコラム<span class="strongInContent">『「ミシュランガイド東京2024」の読み方　発表会に参加したグルメジャーナリストの視点』</span>はコチラ</a></p>
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『ミシュランガイド東京2024』が発表された。「内定はきてるから」と、“ミシュランガイドの星内定”発言で物議を醸した広末涼子とダブル不倫をしていた鳥羽周作氏。しかし、結果は「２段階の＂降格＂」だった。

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