ライター・編集・インタビュアー。学生時代よりライター活動を開始、現在はウェブや雑誌などで主にエンタメ系記事やインタビューなどを執筆。

太田 サトル

いよいよ年末年始も近づく。帰省やさまざまな挨拶等の場で、買ったりいただいたりする機会が多いお菓子、それが今や東京みやげの顔ともいえる存在、『東京ばな奈「見ぃつけたっ」』だ。
しっとりふんわりとしたスポンジケーキの食感、甘さもほどよいバナナカスタードクリームの風味。いつ食べてもおいしい。
しかしこの「東京ばな奈」、ずっと変わらぬおいしさであることは間違いないのだが、失礼ながら、そもそも自分のために買う機会はほぼなく、「もっていくもの」「いただくもの」としてのポジションでずっとあり続けている気がする。
われわれは長年、東京ばな奈という存在や味はよく知っていても、実は意外に細かいことは知らない。いや、身近すぎて、当たり前すぎて、知ろうとしていなかったのではないか。商品を買ったりもらったりする機会が増えそうないまだからこそ、この身近な存在のことを、もっと知ってみたくなった。
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<figure id="attachment_348435" aria-describedby="caption-attachment-348435" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d3e4110f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/cd79895cf07501309f468d9a93610cbc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348435" class="wp-caption-text">『東京ばな奈「見ぃつけたっ」』が正式な商品名（PHOTO：我妻慶一）</figcaption></figure>
<h3>“東京のおみやげ”じゃない！　32年間呼びかけ続けてきた「東京みやげ」のフレーズ</h3>
東京・阿佐ヶ谷。いつも買い物客でにぎわうパールセンター商店街の一角にある菓子店「ぶどうの木&amp;鎌倉座」。今から32年前の’91年の11月22日、ここで『東京ばな奈「見ぃつけたっ」』は、この世に生を受けた。
出迎えてくれたのが、同店やデパ地下などでおなじみのブランド「銀のぶどう」を運営するグレープストーン企画開発本部の三島さん、山中さん、村上さん、山田さん。
雷おこしに人形焼、老舗の洋和菓子……“東京銘菓”“東京のおみやげ”はもちろん存在したが、“東京みやげ”と単語化し定着させたのが、東京ばな奈なのだという。
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「販売当初は新参者ではありますので、自分たちから積極的にアピールし、足を止めてもらわないといけない。『東京みやげに東京ばな奈、いかがですか？　バナナカスタードクリームいっぱいのスポンジケーキです』と販売員が元気いっぱいに呼びかけているんです。 
決して“東京のおみやげ”と言わず、“東京みやげ”と呼びかけました。 
おみやげ何にしようかなと空港や駅を歩きまわるなか、同じトーンでの呼びかけを何度も耳にすることでCMのフレーズのように耳に残っていったのではないかと思います。それは、32年たつ今も変わりません」（山中さん・以下同）
<figure id="attachment_348440" aria-describedby="caption-attachment-348440" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f6653788"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/73f92e6666be9e37eaf7ecd9e56e9afc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348440" class="wp-caption-text">ズラリと並ぶ、歴代「東京ばな奈」シリーズ（※ハート柄やヒョウ柄のものなどは、現在発売されていない商品）</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="なぜ、「バナナ風味」！？"></div>
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<h3>なぜ、「バナナ風味」！？</h3>
そんな東京ばな奈、なぜバナナ風味のお菓子となったのだろうか。
「おみやげというものは、たいていその土地の特産品のようなもの。東京らしさ、東京の特産品とは何なのか、そこから始まったそうです。 
そう考えると、東京とは全国いろいろなところから多くの人が集まる場所、そんなみんなにとって共通して懐かしく感じる味、誰からも親しまれる味とは何なんだろうと。 
それがバナナ、みんなの思い出に残るバナナなのではないかということになりました」 
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<figure id="attachment_348442" aria-describedby="caption-attachment-348442" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="53e09dee"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/c5b5174aaaef1dff83a11ce6438291a9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348442" class="wp-caption-text">知っていそうで意外に知らない「東京ばな奈」の秘密を紐解いてもらいました（右：山中さん、左：山田さん）</figcaption></figure>
開発がスタートした時期がまだバブル期だったことも影響したという。
「バナナがぜいたくな時代だったからこそ、昔は憧れの高級な味、その後、親しみ深く身近な存在となったバナナの味は、あたたかな時代を思い出してもらえ、老若男女に愛される味なのではないか。そんな思いを込めたそうです」 
『東京ばな奈「見ぃつけたっ」』、「見ぃつけたっ」までが正式な商品名だが、当初は「バナナ物語」という名前で開発が進んでいた。
「当時は『東京○○』というストレートな名前のおみやげ菓子はなく、消極的な声もあったのですが、やっぱり東京を代表する存在として打ち出したいと、社長が決断しました」
おみやげ菓子という前提ゆえの試行錯誤は当然ある。
「カスタードクリームが入ったスポンジケーキということで、いわゆる生菓子にあたります。 
しかし、おみやげですからある程度日持ちもしないとけない。味も香料ぽくないものにしたい。クリームが入っていて、常温で日にちがたってもずっとふわふわしている。 
とくに海外の方などに、この技術は『ワンダホー！』と言われます（笑）」
<figure id="attachment_348443" aria-describedby="caption-attachment-348443" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cada7405"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/35b7e1a5cc32f7d7d423c59d00f15c28.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348443" class="wp-caption-text">発売直後の’91年12月に掲載された新聞の全面広告。このような広告展開をしたのは32年の歴史で１度だけだという</figcaption></figure>
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<h3>東京ばな奈にも「ガングロアニマル柄ギャル」時代があった！？</h3>
年間販売個数は公表していないが、年間の販売個数をパッケージで並べると、
「東京からハワイまで行けちゃいます（笑）」
という人気ぶり。現在も不動の人気はやはり定番の「東京ばな奈」だというが、これまでの30年以上の歴史の中で、定番のバナナ味だけでなく、キャラメル味やハチミツ味、ストロベリー味、レモン味、そしてスポンジの素材も米粉のものがあったり。スポンジケーキばかりではなく、ゴーフレットやクッキー、バームクーヘンなども登場し、現在までに157種というバリエーションをシリーズで送り出してきた。
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その代表格のひとつがチョコバナナ味だ。縁日などでおなじみのチョコバナナ、クレープやパフェなどでも馴染み深く、言うまでもなく“鉄板”の組み合わせである。
「絶対に合う味ということもあり、開発自体はすでに進んでいました。それだけに、どこでどのタイミングで発売するかということを狙い続けていたかたちです」 
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それが’12年の東京スカイツリーの開業だった。その開業に合わせ、併設する商業施設「東京ソラマチ」の店舗（現在は閉店）で満を持したかたちで登場した。このチョコバナナ味、なぜか豹柄というルックスだった。なぜ豹柄だったのかというと……
「ギャルブームが背景にありました。みんなスカートが短くて、豹柄で。私自身、その時代は渋谷の109に通っていました（笑）」
と山中さん。東京ばな奈にもガングロアニマル柄ギャル時代があったのだ。
そもそも「東京ばな奈」という名前の“奈”という文字、
「女の子の名前で人気が高かった、“○奈”ちゃんとかの名前です、女の子なんです！」
美奈とか加奈とか里奈とか玲奈とか愛奈とかの“奈”ってことだったのか!?　 「ばな奈ちゃん」っていう女の子だったのか!?
「ですから、パッケージにあるばな奈のイラストも、必ずリボンがついているんです。ちょっとおしゃれな東京の女の子です」
！！！！！！
……長いこと食べてきたのに全然そんなこと気づかなかった。
<figure id="attachment_348444" aria-describedby="caption-attachment-348444" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a94bd910"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/d17c98a1c83dd23de6b6c67f56772dca.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348444" class="wp-caption-text">ネーミングからも実は女子、という東京ばな奈には、かわいいリボンがついています</figcaption></figure>
<figure id="attachment_348445" aria-describedby="caption-attachment-348445" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cd3cc4eb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/d6a63904c57a3cc47e49f3c7604ce56b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348445" class="wp-caption-text">ギャルブームにのって発売されたという豹柄のチョコバナナ味（※現在は発売されていません）</figcaption></figure>
<h3>売れ行きが伸びるのは、実は３月</h3>
東京駅一番街に開店したフラッグシップショップとなる「東京ばな奈s」では、シェイクやカレーパン、クリームあんドーナツといった店舗限定の商品も販売し、人気を集めている。
「八重洲というオフィスも多い場所ということもありますので、仕事帰りにご自宅、ご家族用にカレーパンを複数買って帰られる方も多いです」 
<figure id="attachment_348446" aria-describedby="caption-attachment-348446" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ea49505b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/190dc5b7cc57375b0d7dee4ce1e3214c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348446" class="wp-caption-text">社内の人気投票で１位を獲得した「東京ばな奈のレーズンサンド」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_348447" aria-describedby="caption-attachment-348447" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="97c4c5f0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/94f2cd276cfc434882ca6520052d7a05.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348447" class="wp-caption-text">それぞれ“推しばな奈”を持ってもらった、株式会社グレープストーン企画開発本部のみなさん。左から三島さん、山中さん、村上さん、山田さん</figcaption></figure>
東京みやげの大定番、売れ行きが伸びるのは、お盆や年末年始以上に実は３月だという。
「新しい生活が始まり、多くの人が移動する時期ということで、挨拶のためにお買い求めくださる方が多いです」 
もらってうれしい、自分で買ってもうれしい東京ばな奈。冷やしたり凍らせて食べるのもおすすめ、逆に少しあたためて食べれば普通は食べられない出来立ての雰囲気を感じることもでき、定番の新たな魅力が発見できる。ちなみに凍らせても生地のふんわり感は損なわれないそうだ。
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最後に「東京ばな奈」が長く愛され続ける理由を自己分析してもらった。
「やはり一番は、何度食べても美味しいと感じていただけるこの味であると、自信を持って言えます。 
そこにデザインや、あと10分で飛行機や新幹線に乗らなくちゃというときのお買い求めやすさや販売員の対応、それらが発売当初から変わらないことが、東京ばな奈を支え続けてきたという気がします」
知ってるようで知らない友人のことを、たくさん知れたような気分。
年末年始、これらのうんちくを披露しながらみんなで食べれば、絶対より美味しく、楽しくなるはずだ。
<figure id="attachment_348448" aria-describedby="caption-attachment-348448" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="940c0c1f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/01e4c6b29cf38d1b86549384374d6615.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348448" class="wp-caption-text">カプセルトイ用に発売されたミニチュアも人気となった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_348449" aria-describedby="caption-attachment-348449" style="width: 1772px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4266ea8c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/2137a4d57953766d4bb02bdbdd813181.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-348449" class="wp-caption-text">東京駅一番街にある直営店「東京ばな奈s」（PHOTO：グレープストーン提供）</figcaption></figure>

太田サトル

我妻慶一

東京みやげの顔ともいえる存在、『東京ばな奈「見ぃつけたっ」』。その存在や味はよく知っていても、実は意外に細かいことは知らない。商品を買ったりもらったりする機会が増えるこの時期、もっと知ってみたくなった

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