<figure id="attachment_351088" aria-describedby="caption-attachment-351088" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="921868bd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/b37de76b21ff8b82a4047d2b4c7033a7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-351088" class="wp-caption-text">アングルを変えながら、自信を持ってリングを支配した井上</figcaption></figure>
12月26日に行われた統一スーパーバンタム級タイトルマッチで、井上尚弥(30)は、大方の予想通り、マーロン・タパレス（31）をKOで下し、122パウンドの主要4団体タイトルを統一した。
WBC/WBOチャンピオン、井上尚弥が、また一つ白星を付け加え、自身の戦績を26戦全勝23KOとした5時間後、私はペンシルバニア州ベンサレムに住む元世界ヘビー級チャンピオン、ティム・ウィザスプーンに電話をかけた。
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アメリカ合衆国東部でESPN＋による「井上vs.タパレス戦」の中継が始まったのは、現地時間26日の午前5時55分。クリスマスの翌日、そしてウィザスプーンにとっては、66歳のバースデイの前日であった。共に暮らす13歳の五女は寝息を立てていたが、元世界ヘビー級王者は、4冠統一スーパーバンタム級タイトルマッチを自宅アパートで目にした。
ウィザスプーンは開口一番「凄えな、イノウエ！ いい試合だった」と弾んだ声を出した。
「正直、過去の映像を見比べて、イノウエが5ラウンド以内にKOすると俺は見ていた。そういう意味では、タパレスを仕留めるのにちょっと時間を要した。でも、その分、イノウエのボクシングを堪能出来て良かった。いやぁ楽しませてもらったよ」
1984年にWBCタイトル、1986年にWBAタイトルを獲得したウィザスプーンは現在、プロ、アマ、老若男女問わずに、ボクシングを教えている。彼の”打たせないボクシング”には定評があり、45歳までリングに上がり続けることができた。その年齢にして、引退直前までIBF9位にランクされていたことからも、ウィザースプーンがいかに類い稀な才能に恵まれていたか、お分かり頂けるだろう。
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「イノウエは自信に満ち溢れているな。立ち上がりから落ち着いていたし、一発目の鋭いジャブで、メンタルの充実度を感じさせた。フェイントをかけ合い、頭の位置を微妙に変えながら、次に右アッパーをボディーに放っただろう。あれでタパレスは、腹を警戒せざるを得なくなった。距離もイノウエのものだった。そして、遠目からワンツーを打った。当たればタパレスがひっくり返る重いパンチだ。もう、出足からペースを握ったね。
イノウエはタパレスのパンチがしっかり見えていた。いきなりの右フックも効果的だった。ジャブも顔面、胸、腹と打ち分けていた。タパレスが出てくると、バックステップで躱（かわ）したね。攻守ともに穴が無かった。サウスポーと戦う時のセオリー通り、間断なく鋭い右ストレートを見舞った。非常に完成度の高いボクシングをしていたよ」
<figure id="attachment_351090" aria-describedby="caption-attachment-351090" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="10c7d621"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/dfaa94acfc9aef30991461bf5f39b689.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-351090" class="wp-caption-text">タパレスもよく食らい付き、ハートの強さを見せた</figcaption></figure>
タパレスの左ストレートが井上の顔面を捉えたこともあったが、日本の至宝は問題なくポイントを取る。試合前は、両者の実力差を指摘する声が多かった。
「確かにな。ただ、統一戦ではあっても、同じレベルのファイターって訳じゃなかった。俺はボクシングを指導する折、ディフェンスの重要性を繰り返し説く。これまでのイノウエについても、そう語ってきた筈だ。今回の立ち上がりは、文句が無かったよ。ガードも高いし、足の運びも見事だった。
それと『いつでも強打をぶち込んで、眠らせてやるぜ』っていう、あの姿勢がいい。好きだねぇ、彼みたいなタイプ。2ラウンド頭のタパレスのスリップも、俺の目にはイノウエのジャブが当たったからのようにも見えたな……。右ストレート、右フック、右アッパーと、様々な角度から上にも下にもパンチを出した。スピードもあって、スナップも効いている、イノウエは本当に素晴らしいファイターだ」
<div data-friday-nextpage-lead="タパレスに”攻めさせた”「高等技術」"></div>
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<figure id="attachment_351092" aria-describedby="caption-attachment-351092" style="width: 4608px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="802027e3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/926b8d34681ba30e707e4b681e56045a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-351092" class="wp-caption-text">ボディブローを何発もヒットさせて、タパレスを削っていった</figcaption></figure>
3ラウンドに入ると、井上の動きはハッキリとKOを意識したものとなる。手数が増し、コーナーを背負ってはタパレスを誘った。
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「あの気の強さには惚れ惚れしたね。ただ、タパレスもボディーショットで応戦したり、粘りを見せた。なかなかやるな、と思ったよ。4ラウンドもだ。イノウエの攻撃を紙一重で躱してコンビネーションを打ったり、ボディーに左ストレートを入れてから顔面に右フックを返したりと、コンディションの良さを示した。ヤツにとっては、これ以上ない大舞台。かなりのトレーニングを積んだんだろう。心身共に、今までにない最高の自分を築き上げた点を評価したい。それでもイノウエのパンチの精度の方が上だったな。左フックからの連打でダウンを奪ったところで、結末が見えたよ」
第４ラウンド終盤。タパレスは両膝をつく。ゴングに救われたが、勝負あったかに見えた。
「翌5ラウンド、イノウエは試合を決めにかかった。しかし、タパレスも耐えたし、何度もコンビネーションを出して反撃した。イノウエはそこでも冷静だったね。深追いはせずに、削っていく策を選んだ。慌てずに、ダメージを蓄積させてフィニッシュする形さ。余裕を持って、タパレスをコントロールした。
イノウエはタパレスに攻めさせながらも、きちんと芯を外していた。そして、カウンターの右アッパーを何度も顎に見舞ったね。ハードパンチをグローブの上から叩いてガードを開けさせる。そしてステップインして、また同じ場所を打つという攻撃を見せた。実に巧かった。タパレスは疲弊していった。当たり前だよな。そして、第10ラウンドの前半に右ストレートで仕留めた。美しいノックアウトだった」
5回以降のタパレスの粘りも、見応えがありましたね、と私はウィザスプーンに告げた。
「そうだな。タパレスの良さって我慢強さだよ。ムロジョン・アフマダリエフに判定勝ちしてWBA/IBFタイトルを奪取した試合も、愚直に戦って、自分のペースにもっていった。今回もずっと劣勢だったけれど、何度も何度もコンビネーションを放っただろう。イノウエには通じなかったけれど、あのメンタルの強さがあったからこそ、世界王座に就けたんだろう。敗者にも拍手を送りたい」
<figure id="attachment_351093" aria-describedby="caption-attachment-351093" style="width: 3060px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="46ba45f5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/e4aa52e4638f9605a34c5d71778de0d8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-351093" class="wp-caption-text">バンタム級で4冠統一してから僅か1年でスーパーバンタムでも4本のベルトを束ねた</figcaption></figure>
タパレスの戦績は37勝（19KO）4敗となった。
ウィザスプーンは朗らかに話した。
「現役の世界王者のなかで最も完成度が高いのは、イノウエじゃないかと俺は感じる。本当に、圧巻のファイトだったよ」
現在のパウンド・フォー・パウンド論で、各メディアが選ぶ1位は、大方、WBA/WBC/WBO統一ウエルター級チャンピオンのテレンス・クロフォードで、2位が井上尚弥となっている。
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「だとしても、俺が選ぶナンバーワンはイノウエだな。クロフォードはディフェンスに問題がある。時々、不用意に相手のパンチを喰らう点が気になるよ。今日のイノウエは、防御も良かった。俺がパウンド・フォー・パウンドは誰か？ を論ずるなら、イノウエを推すね」
今の井上尚弥に課題は見当たりませんか？ と訊くと、元世界ヘビー級チャンプは応じた。
「敢えて述べるなら、ヘッドスリップしながら距離を詰めることも覚えるといい。ジョー・フレージャー（モハメド・アリのライバルだった元世界ヘビー級王者。1964年東京五輪の金メダリスト）が得意だっただろう。俺もあれは良く真似たよ。
イノウエは4階級を制している男だ。パワーもスピードも申し分ないが、今後、自分よりデカい相手、リーチのある選手との戦いが増えるだろう。ヘッドスリップしながら相手の懐に入って、あの強打を炸裂させるシーンを見てみたいね」
ウィザスプーンは結んだ。
「イノウエは30歳か。122パウンドで戦うなら、敵無し状態が続きそうだな。その後、更にフェザー級に上げるんじゃないか。また、ハイレベルな戦いを見せてくれるだろう。彼のファイトをこれからも楽しみにさせてもらうよ」
井上尚弥は、どこまで上り詰めるのか。
<figure id="attachment_351100" aria-describedby="caption-attachment-351100" style="width: 2589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0188f34c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/850656f81ab58a27e32987349666570b-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-351100" class="wp-caption-text">1957年12月27日生まれのティム・ウィザースプーン©林壮一</figcaption></figure>
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<a href="#" data-ident_hash="b4ae73e8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/12/a14668f0b640f5bfaaa9666c45da69e0-1.jpg" alt=""></a>
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1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』（全て光文社電子書籍）『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』（全て講談社）などがある。

林壮一

AFLO

KOまで10ラウンドかかったことで苦戦との声も上がったが、とんでもない！　元ヘビー級世界王者・ウィザースプーンは守りを固めたタパレスをキッチリ仕留めた井上尚弥の高等技術に唸った。ＰＦＰ1位に推す、と

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