東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』（講談社）、『片付けが生んだ奇跡』（小学館）、『車いすのダンサー』（PHP研究所）など。

中川 いづみ

<h3><span class="strongInContent">「スピード感をもって」「緊張感をもって」も政治家言葉</span></h3>
<p>岸田首相がよく使う「丁寧な説明」。でも、同じことを何度も繰り返していて、「丁寧な説明」って、こういうこと？　と思うことがしばしば。明治大学大学院で日本語の史的研究を専攻している小野正弘教授によれば、</p>
<p><span class="strongInContent">「『丁寧な説明』とは、聞いている人にわかりやすく、細かく、説明を尽くすこと。同じことを繰り返して、長く説明することが『丁寧な説明』ではありません」</span></p>
<p>そうですよね。誰もがそう思うのに、どうして本来の「丁寧な説明」にならないのだろう。</p>
<p><span class="strongInContent">「細かいこと、具体的なことを言うと、突っ込まれるからでしょう」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_354307" aria-describedby="caption-attachment-354307" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f1c182e0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/01/cef9f2a2e730f36b62c77b95a07a2ae6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-354307" class="wp-caption-text">「スピード感をもって」ではなく、具体的に復興計画を述べてほしいものだ。避難所になっている石川県珠洲市の中学校で、被災者と言葉を交わす岸田首相（PHOTO：共同通信）</figcaption></figure>
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<p>“突っ込まれないための言葉”を、政治家はたくさん持っているという。</p>
<p><span class="strongInContent">「たとえば『スピード感をもって』は、よく使われる言葉です。聞いたほうは、『急いでやるんだな』と思うかもしれませんが、いつまでに何をやるとは言わない。何も約束されていないのです。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">『緊張感をもって』も同じです。また、『○○したい』とも、よく言いますが、これも希望を述べているだけなので、実現しなくても嘘を言ったことにはなりません」</span></p>
<p>はっきり言わないのは、言質をとられて、できなかったとき責められるからではないかと、小野教授は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「言葉はコミュニケーションの手段ですが、政治家の言葉はコミュニケーションになっていない、あるいはコミュニケーションを拒絶する“ディスコミュニケーション”の宝庫。言語学者として非常に興味深く聞いています」</span></p>
<p>曖昧な表現とは別に、ディスコミュニケーションとして小野教授が挙げるのは、“はぐらかし”。</p>
<p><span class="strongInContent">「たとえば『○○へ行ったんですか？』とYES・NOで簡単に答えられる質問に『職務をまっとうしたい』などと、方向違いの答え方をするのは、その代表例です」</span></p>
<h3><span class="strongInContent">代々受け継がれて…政治家の言葉は「ディスコミュニケーション」に</span></h3>
<p>小野教授によると、言葉は30年くらいで使われ方が変わってくるという。</p>
<p><span class="strongInContent">「たとえば『かわいい』という言葉。もともとは目下の人の愛らしさを現す言葉として使われていたもの。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">ところが最近は目上の人に対しても、その仕草や態度が愛らしいと感じたときにも使われています。本来の意味を残しつつ、使い方が変わる。言葉はそういうものなのです」</span></p>
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<div data-friday-nextpage-lead="政治家は、こういう言葉遣いをするもの！？"></div>
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<p>だとしたら、政治家のディスコミュニケーションも時代の変化の中で生まれてきたのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「時代というより、代々政治家というものは、こういう言葉遣いをするものだと培われてきたような気がします」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<figure id="attachment_354308" aria-describedby="caption-attachment-354308" style="width: 5760px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="76fca407"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/01/e8d6bcaf98419cb2388a8481b77745a3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-354308" class="wp-caption-text">「火の玉となって」「異次元の少子化対策」とインパクトの強い単語を使うけれど、実際は……？　火の玉となって、どういうことをするのか見ていかなくてはならない（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p>コミュニケーションを拒否しているような政治家の話を我々はどう聞けばいいのだろう。</p>
<p><span class="strongInContent">「常にどこに本音があるのか、気をつけて聞く。そして行動を見て、言行が一致しているか確認する。それしかないと思います」</span></p>
<p>具体的な数値目標を出して、万一それが達成できなくても、その理由を率直に述べてもらえば、嘘つきだなんて思わない。政治家にはぜひ正しいコミュニケーションを身につけていただきたいものだ。</p>
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<p><span class="strongInContent">小野正弘</span>　明治大学文学部教授。日本語学会副会長・日本近代語研究会会長。専門は日本語の史的研究（文字・語彙・意味）。著書に『日本語オノマトペ辞典』（小学館）、『現代新国語辞典　第七版』（編集主幹・三省堂）など。</p>


中川いづみ

「『丁寧な説明』とは、聞いている人にわかりやすく、細かく、説明を尽くすこと。同じことを繰り返して、長く説明することが『丁寧な説明』ではありません」と、日本語の史的研究を専攻している小野正弘教授は言う。

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