1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）など。

田幸 和歌子

<h3>華麗なる「特撮脚本家一族」</h3>
１月21日、特撮ファンの間で非常に胸アツな注目のトピックがあった。
それは、現在放送中の『仮面ライダーガッチャード』（テレビ朝日系・毎週日曜午前９時～）第19話「りんねの夜明け！変身・マジェード！」の脚本を井上亜樹子さんが担当したこと。
というのも、井上亜樹子さんの祖父は「仮面ライダー」脚本に多数参加してきた伊上勝さん、父は『仮面ライダー555（ファイズ）』や『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』など数々の作品を手掛けてきた脚本家で、特撮ファンの間では“井上大先生”と呼ばれる井上敏樹さんで、昭和・平成・令和と三代にわたって携わる“華麗なる特撮脚本家一族”なのだ。
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<figure id="attachment_358099" aria-describedby="caption-attachment-358099" style="width: 6148px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c742d2e4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/fe951841fd73be1a6ad56ff4bf7fd526.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358099" class="wp-caption-text">現在放送中の『仮面ライダーガッチャード』第19話「りんねの夜明け！変身・マジェード！」の脚本を「井上亜樹子さん」が担当したことがSNSで話題に。その訳は？　©2023 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映</figcaption></figure>
そこで、注目の“三代目”井上亜樹子さん（以下　亜樹子さん）にインタビュー。仮面ライダーシリーズ脚本デビューの思いや、特撮との関わり、井上家のことなど、いろいろ聞いてみた。
「オファーをいただいたときは、おこがましい話ですが、『ついに来たか』と思いましたね。特撮シリーズの脚本を書くのは、いつの間にか自分の人生の中でも成し遂げなければスッキリしないことリストの中に入っていましたから、すごく気合が入りました」（井上亜樹子さん・以下同）
亜樹子さんは、鐘弘亜樹名義で『小説　仮面ライダーディケイド　門矢士の世界～レンズの中の箱庭～』（講談社キャラクター文庫/’13年）を手掛けて以降、『魔法つかいプリキュア！』（’16年）、『HUGっと！プリキュア』（’18年）や『ゲゲゲの鬼太郎』（第６作/’18年～’20年）などをはじめとした多数のアニメ脚本や小説を手掛けてきた。実はこれまでも井上敏樹さんの娘であることを明かしたことはあったが、「アニメ界隈ではそれほど話題にならなかったんですよ」と笑う。
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<h3>SNSでは「さすが井上家」「井上節を感じる」といった声が…</h3>
仮面ライダーシリーズデビュー作となった今回、『仮面ライダーガッチャード』第19話は、女性ライダーとなるりんね（松本麗世）が、裏切り者と言われてきた父・風雅（石丸幹二）との約束と、自身が守ってきた掟の間で揺れ、葛藤の末、変身を遂げる展開が描かれた。
「食事シーンの多さ」や「屋台」など、父・敏樹さんの作品を連想させるシーンが散りばめられていた上、これまでの放送回で登場した要素を拾い上げ、盛りだくさんの情報を盛り込み、１話の中で成長まで描いてみせる情報整理能力や構成力には、SNSで「さすが井上家」「井上節を感じる」といった声が多数あがっていたが……
「19話は、縦軸として、りんねが変身する話ということは最初から決めていました。その上で、18話までのシナリオをじっくり読ませていただいて、それぞれのキャラクター性を理解するところから始めました。 
途中から参加する脚本家のセリフって、どうしてもそれまでとイメージがどこか変わってしまうことがあると思うんですけど、それは私が一視聴者の側だと、すごく困惑してしまうところなので、これまでキャラクターたちがどんな気持ちの流れでやってきたかは大切にしたつもりです」 
<div data-friday-nextpage-lead="話題になった「食事シーン」…"></div>
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そんな中、19話メインのりんねのイメージは、「お化け屋敷で大笑いするなど、すごく明るいところがある一方、自分の殻を破り切れていない印象があった」と亜樹子さん。
「だったら、りんねが自らの意志で変身するのは、自分の殻を破ることができた時だろう、りんねにとってそれは何だろうと思ったら、物語の最初から提示されていた『ルールを守る』ということなのかなと思ったんですね。 
りんねは真面目が故に、風雅の教えである『ルールを守ること』を杓子定規にとらえていたけれど、実はそのルールは他人が決めることじゃなくて、自分が決めるものだった。危機に際して初めて風雅の本当の教えを理解し、自分の殻を破ることができるんじゃないかと。 
私もあまり社交的ではなくて、りんねももともとは人と壁があるような印象だったので、親近感がありましたね」 
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<figure id="attachment_358126" aria-describedby="caption-attachment-358126" style="width: 828px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="51931de8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/8f503de859b19ded4b8b261914f034b7.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358126" class="wp-caption-text">「食事のシーンが多いという指摘にも驚きましたね」と井上亜樹子さん</figcaption></figure>
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<h3>話題になった「食事シーン」…</h3>
ちなみに、りんねと父親の関係性が軸となる話を担当した理由について、東映の松浦大悟プロデューサーは
「単純にタイミングの問題でしたね。 
実は、亜樹子さんに最初にコンタクトを取りたいと思った際、共通の知り合いがそれこそ（井上敏樹）大先生ぐらいしかいなかったので（笑）、恐れ多くも松浦が大先生から直接連絡先を伺ったんです。 
その場で大先生にもご快諾いただけてコンタクトをとったのですが、それが結構前の話で。こちらの年末年始展開の都合などがあったため、参加が遅れてしまったんです。だから、りんねと風雅、お父さんの敏樹さんと亜樹子さんの“父娘”という点をあざとく狙うつもりはありませんでした」（松浦大悟プロデューサー）
と説明する。
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『ドンブラザーズ』でも記憶に新しい屋台が出てきたことに、視聴者はザワついたが……
「そこは脚本ではなく、監督とプロデューサーの湊（陽祐）が付け足したんです。『ドンブラザーズ』の田﨑（竜太）監督ですからね。でも、それでファンも盛り上がるだろうと思っていたのかもしれません（笑）」と松浦Pが言えば、亜樹子さんも「まさか食事シーンにあんなに反響があるのかと驚きました」と笑う。
「食事のシーンが多いという指摘にも驚きましたね。 
父のシナリオに食事シーンが多いという話は、知識としてはありましたが、『食事シーン＝敏樹』みたいな構図が特撮界ではこんなにも強いんだな、と。私自身、プリキュアなど別の作品でこれまで食事シーンは何回も書いてきたけど『敏樹の娘だから食事シーンを入れている』という声は、全然なかったんですよ。 
今回も宝太郎（主人公）の実家は定食屋だし、面白い創作料理を作るという属性もあるので、食事シーンを何回か入れる構成にたまたまなっただけ。父を引き合いに出されて、『さすが親子だね』みたいな楽しみ方をしていただくのは、ありがたいことですが、中には『こいつ、わざと寄せにいってる』みたいな声もあって。 
わざわざ敏樹っぽいホンを書くのなら、父は現役だから、父に書いてもらえば良いじゃないですか」（井上亜樹子さん・以下同）
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すかさず松浦Pが「まず敏樹さんだったら、あんな可愛い感じじゃない（笑）。それに、そもそもヒーロー番組に食事のシーンっていうのがあまりないんですよね」と補足すると、亜樹子さんはこう語る。
「もしかしたら、無意識のレベルなのかな。私は食事シーンに対する強いこだわりみたいなものはないんですが、便利ではあるなと思っていて。 
２人並んでご飯を食べていたら、なんでもない会話をしていても、２人が仲良く見えたりするじゃないですか。食事シーンは、２人の関係性を表すのに便利なものなのかなという認識程度なんです」
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ちなみに井上家の食事はどういう感じなのでしょう。
「今は１ヵ月に１回ぐらい家族で集まってご飯を一緒に食べるくらいですが、父は昔からグルメで、私も幼き頃から数々の美味しいものを食べさせていただきました（笑）。 
なぜか毎年、井上家ではお正月は餃子を食べるという習慣があって。子供の頃は、私も手伝っていましたが、もちろん父は手伝いもせず、今は私も『お正月だけは絶対に何もしない』という強い決意で実家に行くので、手伝わないんですけど（笑）。手を合わせて『いただきます』をみんなで言うようなこともありません（笑）。 
あ、でも、父は料亭とかでは言います。『いただきます。神様！』と（笑）。母の料理に対しては言わないです（笑）」
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<h3>脚本家になったきっかけ</h3>
幼い頃は小説家を目指し、大学時代に出版社への就職も考えたという亜樹子さんだが、脚本家になったきっかけとは。
「文章に関わる仕事がしたくて、とりあえず出版社に履歴書を出してみたんですが、説明会に行ったとき、周りの就活生がすごい『大人』だったのがショックで。 
私はいつまでも子どもでいたいという思いが強かったので、学生のノリで行った説明会でも、スーツ姿の大人たちの語る話を隣の席の就活生たちとこっそり笑いたかったんですけど、みんな全然そんなテンションじゃなくて。 
それで、『私は社会不適合者なんだ』と思って、同じく社会不適合者の匂いがする父と同じ道に足を踏み入れてしまいました」
就活に違和感を覚えた亜樹子さんが敏樹さんに自身の作品を見せたところ、それが評価され、小説版『仮面ライダーディケイド』に携わることに。
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「父は『今は流行りに乗ったものや売れそうなものを書く人が多いけど、ちゃんとあなたらしさがあっていい』と言ってくれた気がします（笑）。 
ちなみに、初めて父に作品を見せたのは小学校低学年ぐらいのとき。高学年くらいに恥ずかしくなるまではいろんな物語を両親に見せていたんですよ。父からもらった200字詰め原稿用紙に話を書いて、白い紙で表紙をつけてパンチで穴を開けて自分で製本もしていました。当時書いていたのは、女児向けっぽい魔法とかファンタジー系の話でしたね」
さらに、こんなちょっとイイ話も披露してくれた。
「小学生の頃にクラス全員の作文集があって、その中にすごく大人びた文章を書く子がいて、母はその子の作文を『すごいね』と褒めたんですよ。でも、父は『いや、亜樹子が一番良かったよ』と言ってくれたのが、すごく嬉しくて。今思えば、父は私の作文しか読んでないんじゃないかという気がするんですけどね（笑）」 
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<h3>「父が教えてくれたのは…『寿司は出されたらすぐに食え』（笑）」</h3>
おじいさんやお父さんから英才教育を受けていたことはある？
「全くないですね。私を脚本家にしようという気はなかったと思うし、実際、私自身、脚本家になるという選択肢は不思議なほどなくて。 
それに、脚本家って、出社することもなく、ずっとパジャマで家の中にいるじゃないですか。『なんで他の家のお父さんは働きに行っているのに、うちのお父さんは一日中パジャマでゴロゴロしているんだろう』と、子どもの頃はすごく心配でした。 
中学生くらいになると、クラスの友達から『お父さん、仮面ライダー書いているの？』みたいに言われることは増えましたが、だからといって、サインをもらってきてとか言われることもなかったですね」
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「英才教育」どころか、驚いたことに、「戦隊もライダーも観てこなくて。今になって必死に過去のライダーを勉強しているところです」という亜樹子さん。
19話には「父が教えてくれたこと」「私のルールは私が作る！」というセリフが登場したが、亜樹子さん自身が敏樹さんに教えてもらったことや、ご自身のルールといえば？
「父が教えてくれたのは……『寿司は出されたらすぐに食え』（笑）。私のルールはまず『睡眠時間を削らないこと』。『子供っぽい気持ちを恥ずかしがって捨てないで、こっそりとっておくこと』ですかね」
ちなみに、亜樹子さんが再登板するのは、２月11日放送分の第22話。“大先生”のファンも、特撮ファンもプリキュアファンも、必見だ。
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田幸和歌子

１月21日、特撮ファンの間で注目のトピックがあった。それは、現在放送中の『仮面ライダーガッチャード』の第19話の脚本を井上亜樹子さんが担当したこと。というのも、彼女は、“華麗なる特撮脚本家一族”なのだ

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