<h3>100年後の日本は、世界で一つの “内向的な民族ばかりのよくわからない不思議な国”になる可能性</h3>
「日本人は話し下手でコミュニケーション能力が低い」。以前からこうした厳しい評価があるのは多くの日本人が知るところ。
とくに初対面の相手を前にすると、能力の低さは顕著にあらわれる。外国人の多くは相手が知らない人であろうと気さくに応じられるが、人見知りの日本人は真逆。気さくどころか緊張して思ったように話せなくなる人も少なくない。
<figure id="attachment_358781" aria-describedby="caption-attachment-358781" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e9018b59"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/87ea2d0613ce033840403f713d354850.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358781" class="wp-caption-text">よく知らない人が相手だと、言葉一つ出てこない日本人は実に多い</figcaption></figure>
こんな興味深い調査結果がある。
’19年に「エクスペディア・ジャパン」が行ったフライト内コミュニケーションに関する意識の国際比較調査（１年以内に飛行機に乗った、かつ、ホテルに宿泊した、世界23ヵ国の男女18237名を対象としたもの）によると、機内で、隣席の知らない人に話しかけると答えた人の割合は、１位のインド人60％に対し、日本人はたったの15％と最下位。
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さらに、頭上の棚に荷物を入れるのを手伝うと答えた人の割合は、１位のオーストラリア人50％に対し、日本人は24％とこちらも最下位。４人に１人しか手伝わないことがわかった。
<figure id="attachment_358782" aria-describedby="caption-attachment-358782" style="width: 620px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6824a277"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/0d27d4e3ab8d0e44d2ab560763162621.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358782" class="wp-caption-text">機内で、隣席の知らない人に話しかけると答えた人の割合は、１位のインド人60％に対し、日本人はたったの15％と最下位（エクスペディア・ジャパン’19年４月の調査より・計18237名／ インターネットリサーチ）</figcaption></figure>
例えば、街中で困っている人を見ても声をかけられない、逆に見知らぬ人から親切を受けたときでも御礼の言葉が出てこない、同じマンションの住人でもよく知らない相手とは挨拶できない。
飲食店を出る際の「ごちそうさまでした」のひと言が伝えられない……。機内という特別な空間でなくても、こうした日常での体験なら思い当たる人も多いのではないだろうか。
悲しいかな、これが“人見知り大国ニッポン”の現実なのかもしれない。
この現実に目を向けると、ひとりの日本人として危機感を覚えるのだが、コミュニケーション講座などを主宰する公認心理師の川島達史さんによれば、人見知りを自覚している日本人は多くても、危機意識を持つ人は実に少ないという。
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「何年も前から度々聞くようになった『ダイバーシティ』『多様性』という言葉が、『何でもあり』を許容しているようなところがあります。 
例えば、会社の飲み会に参加しない人がいても、“人は人、自分は自分”。個を尊重すべき多様性の時代だから他者は意見を言ってはいけない、といった空気がある。 
私が行っている企業研修の場で、『隣の人と会話をしてみてください』とお願いすることがあるのですが、多くの人が抵抗感を示します。 
会社に言われて仕方なく研修を受けている人は “やらされている”感が全面に出てしまっている（笑）。会話はしたい人とすればいいのであって、したくない人とまで挨拶や会話を強要するのは踏み込みすぎだろう、というのが本音なのだと思います」（川島達史さん・以下同） 
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しかも現代は、仕事はメールのやりとり、飲食店でのオーダーや会計はタブレット、買い物はインターネットで済ませられる。さらにコロナ禍を経て他者と接する機会は激減。それでも日常生活に支障がないことがわかり、他者と関わる必要性自体が薄れている。
ある意味、人見知りが生きやすい時代になったと言うべきかもしれない。
<figure id="attachment_358783" aria-describedby="caption-attachment-358783" style="width: 3370px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ec231d49"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/83edf93f01d23d9ae2f77b51f7e507ed.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358783" class="wp-caption-text">スマホ一つで買い物ができる今、店員との会話は無用に。“一人が気楽”と思って一人時間ばかりが増えていくと、社交スキルは一向に身につかない（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
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これでは危機意識を持てるはずもない。
「内向的な日本人が急に外国人のようにアグレッシブになるのは難しいですが、他者との会話の機会を増やし、社交スキルを身につけることで、できるという安心感が芽生え、さらには成功体験が増えれば、人と話すことへの不安も少しずつ減っていくはずなのです。 
ところが日本の場合、親にもコミュニケーションが苦手な“コミュ障”が多いので、子どもに挨拶や会話の仕方を教えられませんし、学校でも、社会に出てからも教えてくれる人がいない。 
私は会社でコミュニケーションの教育をするべきだと思うのですが、日本にはそうした仕組みもありません」
果たしてこの先“人見知り大国ニッポン”はどうなるのか。川島さんはこう警鐘を鳴らす。
「孤立する人は増え、“コミュ障”ばかりになり、人々の攻撃性が上がり、犯罪が増えていくと思います。 
人は孤独感を抱えると、犯罪に走りやすくなるという研究結果があります。人間関係が充実していると守るものがあるので、犯罪は起こりにくい。極端な例ですが、住人全員が明るく挨拶するマンションと挨拶とは無縁のマンションとでは、前者のほうがマンション内で起こる犯罪率は低いと思いませんか？ 
個人的には、このままいくと、日本国内の犯罪件数は増える一方だと危惧しています。そして100年先の日本は、諸外国から“内向的な民族ばかりのよくわからない不思議な国”と言われているのではないか、そんな気さえするのです」
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<h3>日本人は遺伝的に不安になりやすい民族だった</h3>
ところで、日本人に人見知りが多いのはどうしてなのか。
実は遺伝的要因があり、日本人はもともと不安になりやすい民族なのだという。
「精神の安定に不可欠な神経伝達物質“セロトニン”の伝達量を調整している“セロトニントランスポーター”という遺伝子があります。米国の研究ですが、この遺伝子を日米で比較したところ、日本人は不安、神経質、悲観的になりやすい『S遺伝子』の保有率が高く、楽観的、ポジティブになりやすい『L遺伝子』が少ないことがわかっています」 
また、人見知りはその度合いが強く、日常生活に支障を来すほどだと、性格の問題ではなく、「対人恐怖症」（※１）や「社交不安症」（※２）といった神経症である可能性も考えられるが、実は「対人恐怖症」は日本人特有の疾患だと言われてきた。
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「日本人には『人に迷惑をかけてはいけない』と考える人が多いと思うのですが、昔からこの日本人特有の性格傾向が対人不安を招きやすいと考えられてきました。 
世界で親しまれている治療法“森田療法”は、森田正馬という心理療法家が開発した世界初の対人恐怖の治療法だと言われています。 
その後、対人恐怖症はどんな人種にも似た症状が起きることがわかり、現在では社交不安症として扱われることが多くなりましたが、対人恐怖症にあって社交不安症にないのが、この『人に迷惑をかけてはいけない』という性格傾向なのです。 
こうした神経症は思春期に起こりやすいと言われていますが、親が子どもの病気に気づけず、大人になってから医療機関やカウンセラーのもとを訪れる人も少なくありません。相談の遅延が症状を悪化させる場合もあるのです」 
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<figure id="attachment_358784" aria-describedby="caption-attachment-358784" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="23fac802"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/34e2ee6b034f9d5bb6fc0ccbbd889c6b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358784" class="wp-caption-text">子どもの人見知りが激しいときは、専門家に相談することも視野に入れたい</figcaption></figure>
<h3>このままではコミュ障の社員ばかりになるという危機意識を</h3>
少しでも人見知り大国の将来に危機感を抱いた人は、まず、日常生活のなかで会話の機会を増やす環境づくりをしてほしいと川島さんは言う。
「会社のトップが、このままではコミュ障の社員ばかりになるという危険性を理解することが必要だと思います。トップに危機意識があれば、社内で雑談の時間を意識的につくるといった取り組みもできます。 
仕事中は雑談禁止という会社もありますが、そうした文化を育てるのは社員のメンタルを考える上でマイナスでしかありません。 
家庭では、夕食の時間を有効に使うといい。忙しくても、家族全員で食卓を囲める時間を決めて、その間はテレビを消して、スマホも近くに置かない。そして子どもたちにその日、起きたことを報告させる。 “１日30分の報告”を続ければ、確実に家族間の会話が増えていく。実はうちの家庭も実践しています」
また、「住人同士が挨拶をしない」マンションに暮らしている人であれば、勇気を出して “ファーストペンギン”になってほしいとも。
「初めのうち反応は乏しいかもしれませんが、心のなかでは声をかけてくれたことを喜んでいるかもしれない。 
挨拶されて嫌な気がする人はいません。続けているうちに、10人中３人くらいは挨拶するのが当たり前になり、マンションに挨拶の文化が生まれるかもしれません。誰かがファーストペンギンになることで、変えられると思うのです」 
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川島達史（かわしま・たつし）公認心理師、精神保健福祉士。’81年、鳥取県生まれ。目白大学大学院心理学研究科現代心理学専攻。’06年、株式会社ダイレクトコミュニケーションを設立。首都圏を中心にコミュニケーション講座を開講している。著書に『結局どうすればいい感じに雑談できるようになるんですか』（サンマーク出版）など。
※１＿対人場面において耐え難い不安・緊張を抱くために、対人場面を恐れ・避けようとする神経症の一型。（『精神医学事典2011』）
※２＿比較的少人数の集団内で、他人の目を気にする心理を中核とし、社交場面を普通回避する。青年期に好発する。（国際疾病基準ICD‐10）

辻啓子

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