<p>２年という長い歳月をかけて〝灰色〟のヒロインに突きつけられたのは「ノー」という答えだった――。</p>
<figure id="attachment_359110" aria-describedby="caption-attachment-359110" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c94ce17d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/3e32c3958af755d76834e6b2104a29d5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-359110" class="wp-caption-text">’23年12月、ロシア選手権で演技するワリエワ</figcaption></figure>
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<p>１月29日、スポーツ仲裁裁判所（CAS）は、’22年北京冬季五輪でのドーピングが発覚したフィギュアスケート女子のカミラ・ワリエワ（17・ロシア）に、４年間の資格停止と’21年12月以降に出場した大会の失格処分を科すと発表した。</p>
<p>「フィギュア女子史上最高の選手」。そんな大きな期待を寄せられた天才少女がもたらした災厄とは何だったのか。</p>
<p>’22年２月７日。’14年ソチ五輪以来、２大会ぶりとなる団体優勝に貢献したワリエワのフリー『ボレロ』はまさに至高だった。女子では五輪史上初となる４回転ジャンプをトーループとサルコーの２種類で成功。抜群の柔軟性を生かしたスピン、指先まで神経の行き届いたステップも非の打ちどころはなかった。シニア１年目ながら、世界最高得点を連発する圧倒的な強さで「誰もが勝つことを諦める」ことから〝絶望〟と名付けられた。</p>
<p><span class="strongInContent">「３歳の時から五輪のチャンピオンになりたいと言い続け、いま実現できた」</span></p>
<p>仲間と満面の笑顔で表彰台に立ち、溢れんばかりの感情をそう表現した。輝かしいキャリアの第一歩。誰もがそう信じて疑わなかったが――この後、ワリエワがメディアの前で言葉を発する機会はなかった。</p>
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<p>翌８日、メダル授与式の取材に向かう記者に待ったがかかった。延期ではなく、中止との連絡。ストックホルムの検体分析機関から、衝撃の報告が関係者にもたらされていたのだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="『ボレロ』はまったくの別物に"></div>
<p><span class="strongInContent">「昨年12月25日のロシア選手権で採取したワリエワの検体から、禁止物質のトリメタジジンが検出された」</span></p>
<p>ロシア有力紙が２月９日にそう報じると、五輪史に残るスキャンダルが一気に火を吹いた。トリメタジジンは狭心症や虚血性心疾患の治療に用いられるが、血管拡張による血流促進効果があり、アスリートが使用すると持久力向上が期待できる。ワリエワは暫定資格停止となったが、即座に不服申し立てをしたのを受けて、ロシアのアンチドーピング機関（RUSADA）の規律委員会が暫定資格停止を解除した。</p>
<figure id="attachment_359112" aria-describedby="caption-attachment-359112" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cb8a9c23"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/373e9d9767803809191bb0a886e43c21.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-359112" class="wp-caption-text">北京五輪フリー直後に涙を浮かべるワリエワ</figcaption></figure>
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<p>すると今度は国際オリンピック委員会（IOC）などがRUSADA規律委員会の決定を不服としてスポーツ仲裁裁判所（CAS）に提訴。問題をさらにややこしくしたのが、世界アンチドーピング機関（WADA）の規定だった。16歳未満は処分の軽減など柔軟に対応する「要保護者」と明記されていたのだ。</p>
<p>CASがIOCらの申し立てを却下し、ワリエワの出場継続を認める判断を下したことで賛否両論が渦巻いた。ワリエワは２月９日の練習を欠席したが、個人種目に向けて10日から練習に参加。報道陣が待つミックスゾーンでは無言を貫いたが、海外メディアの記者から「Did you take Drugs？」と問われ、激怒したロシア人記者と質問者がもみ合いになる場面もあった。</p>
<p>平静を保っているように見えたが、当時15歳の少女は心身ともに壊れていた。ショートプログラム（SP）１位で迎えた２月17日の女子フリー。ワリエワがリンクに入る直前、米国選手団が一斉に観客席から立ち上がり、会場を後にした。異様な雰囲気の中で演じた『ボレロ』は10日前とは全く別物。精密機械のように４回転ジャンプを決めていた姿は、そこにはなかった。演技終了直後から泣き崩れる様子は痛々しく、出場容認の裁定は一人の天才を〝さらし者〟にしただけだった。</p>
<figure id="attachment_359113" aria-describedby="caption-attachment-359113" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="92a47c67"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/93a50b80ddba7882dba4d9b545f1136d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-359113" class="wp-caption-text">キスアンドクライでも涙は止まらず、泣き崩れた</figcaption></figure>
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<p>その後、批判と疑惑の矛先はコーチ陣に向かい、国際大会出場の年齢制限を引き上げる議論に発展した。４ヵ月後のISU総会では「骨格や筋肉が発達し、精神的に成熟する時間を確保すべき」と、五輪参加年齢を17歳以上に引き上げることが提案された。ロシア連盟は反対したが、賛成多数で可決された。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="ロシア側は強く否定"></div>
<p>これにより、昨季の世界ジュニア選手権女王で１月のユース冬季五輪も初制覇した15歳の島田麻央（木下アカデミー）は’26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪のシーズンに出場できなくなってしまった。</p>
<p>今月７日にCASが公表した裁定文書によると、ワリエワ側は「心臓手術を受けたワリエワの祖父が用意したイチゴのデザートに常用薬のトリメタジジンが混入した可能性がある」と主張したが　CASは「証拠にあまりにも多くの欠点がある」と指摘。今回のCASの裁定を受け、北京五輪団体の順位は米国が金メダル、日本が銀メダルに繰り上がった。</p>
<figure id="attachment_359114" aria-describedby="caption-attachment-359114" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="74414706"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/388502600d32888b3432c363a2b49c86.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-359114" class="wp-caption-text">順位の繰り上がりが認められた、日本代表の選手たち</figcaption></figure>
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<p>団体メンバーだった坂本花織（23・シスメックス）は<span class="strongInContent">「２年間待っただけあった。自分は個人（の銅メダル）があるだけいいが、団体はみんなで取ったもの。早く欲しいなという気持ちはあった」</span>と率直な思いを口にし、樋口新葉（23・ノエビア）は<span class="strongInContent">「早くメダルが欲しいという気持ちが一番大きい」</span>と迅速な表彰式の実施を求めた。</p>
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<p>しかし――選手たちの思いとは裏腹に、騒動はいまだに終わりが見えない。ロシアのペスコフ大統領報道官はISUの判断を<span class="strongInContent">「受け入れられない」</span>と批判。ROCも<span class="strongInContent">「必ず異議を申し立てる」</span>と対決姿勢をあらわにした。これらの動きが収束しない限り、選手たちのもとにメダルが届くことはない。冬季五輪の花形種目を舞台にした狂騒曲は、今なお続いているのである。</p>


秦野大知

共同通信

2022年北京五輪で巻き起こされた狂騒曲は、未だ終わりが見えない。カミラ・ワリエワのドーピング騒動が起こした余波とは。

いまだメダルは届かず…北京五輪でドーピング騒動！天才少女・ワリエワの悲しき「狂騒曲」

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