<h3>働いている会社のグループ企業が、パレスチナ虐殺を主導する企業と業務提携を結んでいた…</h3>
２月５日、総合大手商社・伊藤忠はイスラエル最大の軍需企業「エルビット・システムズ社」との協力関係の覚書について、２月中をめどに終了すると発表した。
事の発端は、’23年３月に伊藤忠とグループ会社の伊藤忠アビエーション、日本エヤークラフトサプライの３社が、「エルビット・システムズ社」と業務提携を結んだこと。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
そこから昨年12月15日に伊藤忠アビエーション前で抗議デモが実施され、Ｘ（旧Twitter）などで学生など若者を中心に抗議の声が広がると、伊藤忠に取引中止を求める署名が広がった。しかし、伊藤忠は約２万5000筆もの署名に対し、１月15日に対面での受け取りを拒否。これが火に油を注ぎ、批判がますます拡大、結果的に伊藤忠は取引中止の判断を下すことになったのだ。
ところで、こうした抗議の声の拡散に、伊藤忠グループの「中の人」が関わっていたことをご存知だろうか。
<figure id="attachment_360365" aria-describedby="caption-attachment-360365" style="width: 2800px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a18c1a53"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/14d20656097d1cde593ea88ca1a49bd5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-360365" class="wp-caption-text">「私が伊藤忠グループに惹かれたのは、『三方よし』という理念だったんですね。これは、『商売において売り手と買い手が満足するだけでなく、社会に貢献できてこそ良い商売といえる』というもの」と「よん」さん（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<h3>グループ企業の「中の人」が会社を批判する声明文を発表</h3>
Ｘアカウント名「よん」さん。伊藤忠のグループ企業社員であることも明かした上で、Ｘで度々発信したり、伊藤忠アビエーションへのFAXでの一斉アクションをしたり、声明文も発表。１月19日にはこんな発信を行い、話題を集めた。
《（拡散希望）このままではダメだと思うけれど、どうしたらいいか分からないという伊藤忠グループ企業に勤める社員の方々。イチ平社員として思いを書いたので、賛同頂ける方はＤＭ下さい　家族に誇れる会社で働きたい。＃伊藤忠グループ社員として抗議します　＃三方よし　＃伊藤忠はエルビットと手を切れ》
それにしても、グループ企業の「中の人」が会社を批判するというのは、かなりリスキーで勇気の要ることだろう。なぜこうした発信をしたのか。「よん」さんにインタビューした。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
「私自身は、毎日ニュースでなんとなく世界情勢を見ていた程度で、これまでデモや抗議に参加したこともなかったんですね。 
でも、ガザのジェノサイドについてメディアなどを通して見るうち、小さな子供の命がたくさん奪われていることを見るに堪えないビジュアルとともに知ってしまったことで、我が家にも保育園児がいるので、何もせずにはいられなくって。 
それで、Xでガザの情報や抗議のアクションについて発信されている方をフォローしたり、渋谷で行われた血の涙のアクションに１粒涙を描きに行ったりしました。単なる自己満足かもしれないけれど、何かやらなきゃいけない気持ちになったんです」 
<div data-friday-nextpage-lead="「企業理念と全然違うんじゃないか」…"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<h3>「企業理念と全然違うんじゃないか」…</h3>
実はその時点では、伊藤忠とエルビットの関わりは全く知らず、Xももともと日常のつぶやきなどが主だったという。
「私が伊藤忠グループに惹かれたのは、『三方よし』という理念だったんですね。 
これは、『商売において売り手と買い手が満足するだけでなく、社会に貢献できてこそ良い商売といえる』というもので、グループ企業にもその理念は浸透していましたので、エルビットとの話を初めて聞いたときは『企業理念と全然違うんじゃないか』というのが率直な印象で。罪悪感や気まずさを感じました。 
特にXで厳しい論調で伊藤忠が非難されているのを見るうち、自分が何か悪いことをしているわけではないけれど、自分も非難されているような気持ちになってきて。伊藤忠は学生にも人気の企業ですし、海外投資家にも注目されているのに、本当にこのままで良いのかと疑問を感じたんです」
<figure id="attachment_360403" aria-describedby="caption-attachment-360403" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c69c6700"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/89f57df8575f5ab53e467aff282994d9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-360403" class="wp-caption-text">ガザ地区では、今も多くの子供たちが苦しんでいる（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
伊藤忠がSNSで批判を浴びる中、身の回りの反応はどうだったのだろうか。
「正直、その状況を知っている人は当初少なかった気がします。実際に抗議の声の広がりを感じたのは、１月15日に署名を伊藤忠が受け取り拒否したときあたりからでしょうか。 
その頃から同じ伊藤忠グループの一員であるファミリーマートなどのボイコットの動きが出てきて、グループ会社の中でも認識されている方がそれなりに出てきた気がしました。 
ただ、それで何かアクションしようという人に会うチャンスはなかったですね。身の回りの反応を見ても、デモとか署名活動をするアクティビストの方々に対して、“過激な活動家”みたいなイメージを持っている人が多いようでした」
社内での反応とは別に、よんさんの「中の人」としての発信はSNSでは大きな反響を呼んだ。
「すごくびっくりしました。伊藤忠という会社に対してネガティブなイメージが湧いている中で、関係者と名乗ると、すごく叩かれるんじゃないかなどと少し思っていましたから。 
もちろん中には『企業に勤めていれば、いろいろあるよね』とか『嫌なら、会社辞めればいいじゃん』といった声もありましたが、そうした声は２～３件程度で、驚くほど皆さんが好意的に『応援します』とか『勇気を出してくれてありがとう』と言ってくださったんです。 
それだけ皆さんが危機感を持っているということでしょうけど、中から声をあげることの重要性を、私が思っていた以上に皆さんが感じられたのかなと思います」 
とはいえ、本来呼びかけた対象の「中の人」で、よんさんに賛同し、DMをくれた人はグループ企業の一人だけだったという。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<div data-friday-nextpage-lead="正しい方向に軌道修正できる会社だとわかり…"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
「その方は私以上にアクションを起こしている方で、社内のサステナビリティ関係の部署に問い合わせをしたり、本社前で行われた抗議デモに参加されたりしているんですよ。お互いの状況や思いを共有でき、一人でも仲間がいることがわかり心強かったです。 
私自身はずっと匿名での投稿ですし、社内で『このビジネスは良くないよね』と影響を説明することを試みたりしたものの、本質について議論できるような仲間はリアルには見つけられませんでした。反論もされず、『早く平和になると良いよね』くらいの反応が主流でしたね。 
でも、それなりの大手企業で働いている人たちは、会社の方針や社会における立ち位置をある程度認識していますし、自分がその一部であることもわかっているので、社会からネガティブなことを言われる会社というのはきまりが悪いと思うのです。家族に誇れる会社で働きたい。だからこそ、何かあったときに社員が声をあげられるといいなとは思います」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
社内で話題になったり、犯人探しされたりするリスクはなかったのだろうか。
「私も最初はIPアドレスみたいなもので会社にバレるんじゃないかと思ったんですが、今のところ何もないです。 
バレると、いろいろ聞かれたりするだろうとは思っていましたが、間違ったことや悪いことをしているわけではないので、そこには自信がありました。 
それに、平社員なので、降格もないですし、左遷とかもないだろうし。そこは開き直りもありましたね」 
<h3>「正しい方向に軌道修正できる会社だということがわかり、ほっとしました」</h3>
かくして、伊藤忠がエルビットとの取引を中止するという悲願が達成されたわけだが。
「びっくりしました。でも、こういう判断をしてくれるだろうなと信じていた部分もあったので、諦めて黙っておくとか、諦めて転職するとか、そういう選択をしなくて良かったと思いました。 
私も最初は良い方向に行かないのであれば、会社をやめていいやと思っていたんです。伊藤忠の発表を読むと、我々市民の抗議ではなく、もっと大きな力が影響しているということですが、外部からの影響であっても変われること、社会・世界を見て正しい方向に軌道修正できる会社だということがわかり、ほっとしました」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
最後に、今回のアクションを通して変わったことを聞くと、よんさんはこう語った。
「私が今回、中から声をあげたから伊藤忠がそのような判断をしたとは全く思ってないですが、判断の理由の0.001％ぐらいは、もしかしたら私の声や私の署名も影響していたかもしれないと思うと、一市民が大きな会社を、社会を、世界を変えるというのは、小説などの中だけの話じゃなくて、現在進行形で作られていく歴史なんだなと感じました。 
一市民が何か言っても無駄だと揶揄する声もありますが、それが無駄じゃないと感じられたのがすごく大きいです。中から声をあげたことだけじゃなく、署名をしたこと、SNSでいろんな人とつながったこと、涙を１粒描いたこと全部含めて、自分の中では大きな変化であり、世界の見え方が変わりました。 
残念ながら４ヵ月以上経過した今も、イスラエルによる虐殺は続いています。伊藤忠グループが手を引いたから終わりではなく、１秒でも早くこの悪夢が終わるよう、引き続き自分ができるアクションを行っていくつもりです」 
ガザでの虐殺を止めるため、あらゆる差別に反対するため、よんさんは今もXで様々な発信を続けている。

田幸和歌子

２月５日、伊藤忠はイスラエル最大の軍需企業「エルビット・システムズ社」との協力関係の覚書について、終了すると発表した。抗議の声の拡散に、伊藤忠グループの「中の人」が関わっていたことをご存知だろうか。

「家族に誇れる会社で働きたい」…伊藤忠のイスラエルへの協力にNOを突きつけた！　ある社員の思い

あなたへのオススメ

関連記事