中川 いづみ

<h3><span class="strongInContent">日本からスギ花粉がなくなる日は来るのか…</span></h3>
<p>花粉症には悩ましい季節が続く。</p>
<p>昨年、岸田首相は花粉症対策の関係閣僚会議を開き、スギの人工林を今後10年で２割減らし、30年後には花粉の発生量を半減させるという目標を掲げた。その先陣を切って無花粉スギの植栽を行っているのが富山県だ。</p>
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<figure id="attachment_366919" aria-describedby="caption-attachment-366919" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a9ffc333"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/04/361faa0c3d2aa7fd1a5ce8fe59963659.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-366919" class="wp-caption-text">「花粉症は社会問題」と岸田首相（PHOTO:アフロ）</figcaption></figure>
<p>’92年、花粉飛散の調査中に偶然富山市内の神社で無花粉スギを全国で初めて発見。20年後の’12年には、無花粉スギの実用化に成功した。それにしても発見から20年もかかったのはなぜ？　挿し木なら、見つかった無花粉スギの枝をちょっと切って土に植えれば、それでいいような気がするが……。</p>
<p><span class="strongInContent">「単に無花粉だからいいというわけではありません。林業で使う場合、成長速度が速く、材質がすぐれ、雪害などに対して抵抗性がある品種でなくてはなりません。見つかった無花粉スギをほかの優れたスギと交配して、納得できる品種を作り出すために20年かかったということです」</span></p>
<p>こう言うのは、富山県農林水産総合技術センター森林研究所の森林資源課長・斎藤真己さん。</p>
<p>無花粉スギといっても、雌花はある。全国からスギの花粉を集め、無花粉スギの雌花と交配させ、成長・材質にすぐれた無花粉スギになるよう、品種改良していったのだとか。集めた花粉は330種！</p>
<p>生まれた品種は「立山　森の輝き」と呼ばれている。</p>
<p>では、これで挿し木をして、どんどん増やせるようになったかといえば、そうではない。</p>
<p><span class="strongInContent">「親木を育てるのに時間がかかるんです。10万本単位で挿し木をするためには、少なくとも１万本の親木を育てなければならない。必要な親木が育つまでは種と挿し木の２本立てで行っていました」</span></p>
<p>種で育てると無花粉スギになるのは半分。それをより分けるなど手間をかけ、３年育ててやっと植栽できるようになるのだとか。挿し木なら１年で出荷できる。</p>
<p><span class="strongInContent">「親木が成長して、この１～２年でやっと挿し木だけで増やすことができるようになりました」</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">10年後にスギ人工林２割減は、問題山積</span></h3>
<p>現在、富山県で生産されている無花粉スギは年間10万本。これまでに福井県、新潟県、石川県に約２万8000本の無花粉スギの苗木を出荷しているという。</p>
<p>富山県だけでなく、森林総合研究所林木育種センターが都府県と連携して’23年度末までに小花粉スギ147品種、小花粉ヒノキ55品種を開発している。その結果、年間1500万本が無花粉スギ、小花粉スギに植え替えられているとか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="ここでも人材不足問題が…"></div>
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<p>全国では毎年2800万本～3000万本が植え替えられているから、そのだいたい半分が無花粉スギ、小花粉スギということになる。政府は、あと数年で植え替えるスギの70％を無花粉スギ、小花粉スギにするという目標を立てている。これはかなり花粉症対策に期待がもてるのでは。</p>
<p><span class="strongInContent">「いえいえ、スギ人工林の面積が莫大なので、これくらいではまだまだです」</span></p>
<p>国内のスギ人工林は約440万ha。１haに植栽する本数は、だいたい2500本。それから計算すると、1500万本なんて約0.14％に過ぎない。</p>
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<figure id="attachment_366924" aria-describedby="caption-attachment-366924" style="width: 957px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0634a07b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/04/7f5147f1862fca735d590805727ece14.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-366924" class="wp-caption-text">親木からとった“穂”を挿し木にして育てる。種から育てると出荷できるまでに３年かかるが、挿し木なら１年で出荷できる大きさに</figcaption></figure>
<figure id="attachment_366921" aria-describedby="caption-attachment-366921" style="width: 2592px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="80f5f6c8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/04/5a4e5919e1dccdf0ab147d74064c63e6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-366921" class="wp-caption-text">育った無花粉スギを収穫。造園業者や農家が無花粉スギを栽培している</figcaption></figure>
<p>無花粉スギの先駆者・富山県では、これまでに220haに無花粉スギを植えたが、富山県のスギ人工林の面積は、約４万8000ha。その割合は0.5％に過ぎないという。</p>
<p>これは、あまりに少なすぎる……。</p>
<p>果たして10年後にスギの人工林を２割減らすことは可能なのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「２割減というのは、莫大な数字。いろいろ問題が出てくると思います。まず伐採したあとをそのままにしておくと、土砂崩れが起こりますから、苗を植えなくてはならない。</span></p>
<p><span class="strongInContent">伐採や苗を植えるための人手をどうやって確保するのか。苗木をどのように確保するのか。それらを全部解決しなくてはいけないから、たいへんだなと思います」</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">生産者を確保して、２年後以降の目標は年間20万本の無花粉スギ生産</span></h3>
<p>スギが盛んに植林されたのは’50年から’70年の間。戦後の復興期に木材の需要が高まったためだ。しかし、その後海外から安価な木材が輸入され、国産の木材の需要は低下するばかりだ。今、スギを植林する必要があるのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「よく広葉樹を植えたほうがいいと言われますが、広葉樹は成長に時間がかかります。ある程度大きくなるまでは下刈りをするなど、手間がかかる。また、広葉樹はまっすぐ育たないので、木材として使いにくい。スギは成長が早く、土砂崩れ防止機能や二酸化炭素の吸収機能が高い。林業を次の世代に引き継ぐためにもスギの植林は必要です」</span></p>
<p>50～60年前に植林されたスギは、現在大きく成長し、まさに伐採の時期を迎えているとか。</p>
<p><span class="strongInContent">「その時期に合わせたように無花粉スギを挿し木だけで増産することが可能になりました」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>富山県では、２年後には20万本を生産することが目標だ。今の課題は、</p>
<p><span class="strongInContent">「苗木の増産に向けた生産者の確保です」</span></p>
<p>少しでも花粉を少なくするために、ぜひがんばってもらいたい。</p>


中川いづみ

昨年、岸田首相は花粉症対策の関係閣僚会議を開き、スギの人工林を今後10年で２割減らし、30年後には花粉の発生量を半減させるという目標を掲げた。その先陣を切って無花粉スギの植栽を行っているのが富山県だ。

「無花粉スギ」の発見から20年…岸田首相の目標「30年後には半減させる」は実現可能か？

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