マネーライター、ファイナンシャルプランナー／証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資１年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる！ キャッシュレス決済で絶対得する本 』。

松岡 賢治

<h3><span class="strongInContent">「円安」になるほど「価格は上昇」…知っておきたい「為替」と「インデックスファンド」の関係</span></h3>
<p>国内外の株式は軟調となっているが、NISAで大人気の『S&amp;P500』や『オルカン』といったインデックスファンドの値動きは堅調を維持している。<span class="strongInContent">その最大の理由は、為替相場での円安の進行だ。「為替ヘッジなし」の場合、円安になるほど価格は上昇する。</span>しかし、<span class="strongInContent">逆に円高に振れると下落に転じる。では、円相場の価格への影響度は、実際はどのくらいなのか？　</span>海外インデックスファンドの基準価額の仕組みについて、専門家が解説する。</p>
<figure id="attachment_372542" aria-describedby="caption-attachment-372542" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e308db7b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/05/3131e13e3ae37da89ed99f2bac3f770c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-372542" class="wp-caption-text">「円高」になったらどのくらい下げるのか？</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">株式市場の不調を尻目に</span><span class="strongInContent">『</span><span class="strongInContent">S&amp;P500</span><span class="strongInContent">』や『オルカン』は絶好調</span></h3>
<p>米国の株式市場は、３月下旬にピークを付けた後、下落に転じ、調整局面が続いている。日経平均株価も、同じく３月下旬に４万1000円を超えた後、さえない展開に。ネットニュースやSNSなどでは、「新NISAスタート後の初めての試練」といったテキストが散見されるが、痛みを感じている人はそれほど多くないのではないか。</p>
<p>というのも、NISAで圧倒的人気を誇る、『S&amp;P500』や『オルカン』といったインデックスファンドは、最高値近辺での動きとなっているからだ（オルカンとは三菱UFJアセットマネジメントの『eMAXIS Slim』シリーズ「全世界株式」【オール・カントリー】の通称）。</p>
<p>その理由は円安の進行だ。ほとんど個人投資家は、為替相場の変動リスクをすべて負う「為替ヘッジなし」なので、投資の際には、円をドルなどの外貨に両替することになる。そのため、円安が進めば進むほど、外貨建て資産であるS&amp;P500やオルカンの価格が上昇するのだ。</p>
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<h3><span class="strongInContent">指数を超える「円安」による上昇率</span></h3>
<p>円安の影響は想像以上に大きい。米株式市場に上場する約500の米企業で構成されるS&amp;P500は、’23年の年末から’24年４月末まで約７％上昇しているが、円換算ベースのインデックスファンドは約19％上昇した。<span class="strongInContent">この約</span><span class="strongInContent">12</span><span class="strongInContent">ポイントの差が円安の影響と言える。</span></p>
<p>オルカンはどうか。原指数である「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」（「MSCI ACWI」）の現地通貨ベースの上昇率は、同じく昨年末から’24年４月末まで約５％上昇している。円換算ベースでは約17％上昇で、S&amp;P500と同じ約12ポイントの差。こちらも円安によって12％上昇と、原指数の上昇率を超えている。</p>
<h3><span class="strongInContent">ファンドが連動するのは運用会社が算出する円換算ベースの指数</span></h3>
<p>S&amp;P500やオルカンといった、<span class="strongInContent">海外市場に投資するインデックスファンドに対する、為替レートの影響は、一般的に思われているよりも大きい</span>。それは、ファンドの基準価額が決まる仕組みを把握すればよく分かる。そこで、改めて、海外に投資するファンドの基準価額について解説をしよう。</p>
<p>『eMAXIS Slim』シリーズの月報や運用報告書をみると、値動きが連動するのは「配当込み・円換算ベース」となっている。S&amp;P500やMSCI ACWIの原指数ではない。S&amp;P500やMSCI ACWIの原指数にも「配当」は反映されるので、違いは「円換算ベース」になる。そして、この円換算ベースのS&amp;P500やMSCI ACWIというのは、運用会社が〝独自〟に算出している。『eMAXIS Slim』シリーズであれば、三菱UFJアセットマネジメントが算出する。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="1ドル＝140円になったら…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">基準価額の算出には為替の「仲値」が使われる</span></h3>
<p>算出方法は、〝前日〟の海外市場で確定した原指数の終値に、当日の国内市場の為替レートを掛け合わせる、というものだ。ここで使われる為替レートは、「仲値（なかね）」あるいは「TTM」と呼ばれるもので、通常午前10時くらいに決定される。</p>
<p>例えば、S&amp;P500の場合、前日の米国市場のS&amp;P500の終値に、当日の国内の為替市場の仲値を掛け合わせた数値が、その日の基準価額になる(『eMAXIS Slim』の場合は、’18年７月３日の前営業日のS&amp;P500の終値を「10000」として指数化しているので、原指数と数値は異なる)。</p>
<p>オルカンの場合は、前日の海外資産の確定した終値に当日の国内の仲値を掛け合わせ、さらに、当日の国内市場の対象資産の終値を加味する、という手順になる。すべて終わった後に、その日の基準価額がようやく決まるのだ。</p>
<p>このように、<span class="strongInContent">原指数と為替レートのそれぞれの変動分の足し算ではなく、掛け算となるので、原指数の上昇しているときに円安が進むと、ファンドの基準価額の上昇幅が増幅される。逆に、原指数が下落しているときに円高が進むと、基準価額の下落幅も増幅されてしまう。</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">「オルカン」へのドル円レートの影響度は９割弱か</span></h3>
<p>【S&amp;P500】は構成銘柄が米企業なので、資産価格はすべてドル建て。したがって、ドル円のレートをみれば為替の影響度は把握できる。</p>
<p><span class="strongInContent">５月</span><span class="strongInContent">10</span><span class="strongInContent">日の基準価額は２万</span><span class="strongInContent">9170</span><span class="strongInContent">円、仲値は</span><span class="strongInContent">155.70</span><span class="strongInContent">円だった。仮に、</span><span class="strongInContent">S&amp;P500</span><span class="strongInContent">の数値は同じで、仲値が</span><span class="strongInContent">10</span><span class="strongInContent">％円高水準の</span><span class="strongInContent">140</span><span class="strongInContent">円になった場合、基準価額は</span><span class="strongInContent">10</span><span class="strongInContent">％下落して２万</span><span class="strongInContent">6200</span><span class="strongInContent">円ほどになる。</span></p>
<p>では、【オルカン】はどうか。先進国23ヵ国と新興国24ヵ国の企業計約2900銘柄で構成されており、そのうち、米企業の占める割合は時価総額ベースで60％強。米企業の占める割合は高いが、４割近くは他の先進国や新興国の企業なので、通貨も分散されている。</p>
<p><span class="strongInContent">これまでのデータから得られた結果をみると、オルカンへの為替変動の９割弱はドル円レートの影響、と推定される。１割以上は他通貨の影響を受けているのだが、意外にも、他通貨が円に対してドルよりも上昇しているため、オルカンの価格をさらに上に押し上げる作用を及ぼしている。</span></p>
<p>なぜ意外だったのかというと、一般的に、通貨が分散されていれば資産価格の変動の度合いは小さくなる。にもかかわらず、ドルの上昇以上に、オルカンの基準価額が上がっているのだ。<span class="strongInContent">おそらく、これまで円との取引量の少なかった通貨に対して、オルカンの大ブームによって大量の円売り注文が持ち込まれたため、ドル以上に上昇したのではないだろうか。</span></p>
<p>こうした点を踏まえれば、<span class="strongInContent">今後、円高方向にトレンドが転換すると、ドル円レートの下落率以上にオルカンの基準価額が下落する可能性があるものの、積立投資などで、継続的に円売り需要が発生することから、円高局面では通貨分散の効果が発揮されて、ドル安・円高による価格下落にブレーキをかける作用を及ぼすことも、十分、考えられる。</span>この辺は、ドル以外の通貨と円との取引状況にかかっているといえよう。</p>
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<p>したがって、円安局面では、これまで同様、オルカンの基準価額に対する為替の影響は、ドル円レートの上昇率を上回ると考えられる。一方、円高局面では、継続的な円売り需要のブレーキ効果を想定して、為替の影響はドル円レートの下落率の９割程度、と構えておくのがよいのではないだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">５月</span><span class="strongInContent">10</span><span class="strongInContent">日の基準価額は２万</span><span class="strongInContent">4737</span><span class="strongInContent">円だったので、現状から</span><span class="strongInContent">10</span><span class="strongInContent">％円高の</span><span class="strongInContent">140</span><span class="strongInContent">円のとき、基準価額は９％下落すると２万</span><span class="strongInContent">2500</span><span class="strongInContent">円ほどになる。</span></p>
<p>なお、これは、’24年４月末から過去１年間、２年間、３年間……とさかのぼってみた結果で、オルカンの運用開始が’18年10月からとデータのサンプルが少ないため、とりあえずの結論である点には留意してほしい。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「オルカン」通貨分散の効果が低い理由は？"></div>
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<h3><span class="strongInContent">通貨分散の効果が低い理由とは？</span></h3>
<p>そもそも、投資先の国や地域、通貨が分散されているのに、ドル円レートの影響が９割近くに上る理由について、補足しておきたい。</p>
<p>円を、ドル以外の通貨と取引するとき、基本的には、まず円でドルを買い、そのドルを使ってもともと買いたかった通貨を買う。例えば、円でユーロを買う場合、円でドルを買って、そのドルでユーロを買うという手順だ。したがって、<span class="strongInContent">オルカンで日本以外の先進国や新興国に投資する際は、いったんドルを買うことになる。</span></p>
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<p>何でこんな手順を踏むのかというと、円とドル以外の通貨の取引量は多くないので、直接、大量の買い注文を出すとレートが大きく変動してしまうからだ。流動性が高く、売買時の値幅が狭い基軸通貨のドルなら、どの通貨とも一定の取引量があるので、取引が安定しやすい。</p>
<p>なお、円→ドル→現地通貨と両替をして、現地通貨を保有することになっても、ドルの影響は受け続ける。為替市場では、例えば、「１ユーロ＝165円」といったように、「ユーロ円」のレートは表示されるが、それは「ユーロ／ドル」と「ドル／円」を掛け合わせて算出した数値。ドル以外の通貨と円の組み合わせは「クロス円」と呼ばれるが、クロス円のレート自体がドル円レートに影響される。通貨を分散していても、ドル円レートの影響が強い背景だ。</p>
<p>オルカンの運用報告書（全体版）には、外貨建て資産の期末評価に使う通貨が記載されている。興味のある方は参照してほしい。</p>
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<h3><span class="strongInContent">長期投資のために知っておくべき投資信託の知識</span></h3>
<p>最近、「NISAでオルカンに投資してます」という人が、身近にも目立って増えてきた。だが、為替相場の影響など、肝心の中身について理解している人は非常に少ない。たしかに、仕組みが分かったからといって運用成績が良くなるわけではないが、大事な資産を振り向けている商品として、最低限知っておくべき内容はある。</p>
<p>今後、過度の円安が修正されて円高方向に振れ、S&amp;P500やオルカンの予想外の下落に直面することになっても、慌てないために必要だろう。</p>


松岡賢治

国内外の株式は軟調となっているが、NISAで大人気の『S&P500』や『オルカン』といったインデックスファンドの値動きは堅調を維持している。その最大の理由は、為替相場での円安の進行だ。

『S&#038;P500』『オルカン』絶好調は「円安」のおかげ…「円高」になったらどのくらい下がるのか？

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