スポーツライター　1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』（双葉社）がある

向 風見也

<figure id="attachment_374992" aria-describedby="caption-attachment-374992" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="08079849"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/05/7cabfc9a16bbf19c1eb55fec4b1fc513.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-374992" class="wp-caption-text">今季、リーグワンのレギュラーシーズンは16戦全勝だったが、現役最後の試合に敗れ、涙をぬぐおうと目元に手をやる堀江</figcaption></figure>
<p>試合終了が近づくなか、何度も味方をサポートして、何度もパスをさばいた。最後の最後に、逆転トライをもたらしたかに映った。</p>
<p>５月26日、東京・国立競技場。国内リーグワンの決勝で、埼玉パナソニックワイルドナイツの16番をつけていたのは38歳の堀江翔太だった。今季限りで引退するこの人は、この日も人のためにプレーしていた。</p>
<p>６－10と４点差を追う後半開始からピッチに入り、的確に指示を飛ばして防御ラインに微修正を加えた。さらに、20－24で迎えた最終局面でも持ち前の技術を発揮。ハーフウェー付近で相手にタックルを受けながら味方選手にパス。その味方選手がトライした直後、ビデオ判定が起こった。堀江のパスが、前に投げるスローフォワードの反則と判定され、逆転トライは幻と消えた。</p>
<p>直後の相手ボールのスクラムを押し、ペナルティーキックを獲得も、逆転できないままノーサイドを迎えた。</p>
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<p>今季のワイルドナイツはレギュラーシーズン、プレーオフ準決勝まで全勝だった。５万人超の観衆を前に、堀江は仲間を讃えた。</p>
<p><span class="strongInContent">「唯一、いっこ、負けたのが最後（だけ）で…。いままで勝ち続けたのは誇りでありますし、メンバーも、（試合に）出られないメンバーも、胸を張っていいと思います」</span></p>
<p>’13年にはオーストラリアのレベルズに入り、日本人フォワードとして初めて国際リーグのスーパーラグビーでプレー。日本代表としては４度のワールドカップに出場し、’19年の日本大会では初の８強進出を果たした。</p>
<p>その間はずっと、人のためにプレーした。人のために動いた。</p>
<p>まだ日本代表の選手として有名になるずっと前のことだ。帝京大の３年生だった’06年度、最上級生になってからのチームづくりについて話し合っていた。堀江は自ら学生コーチをやると、申し出たのだ。</p>
<p>学生コーチとは、帝京大がその時代から採り入れ始めていた新しい制度。現役選手の一部が首脳陣に入り、部員100人超の大所帯のチームへ目指すプレーやスキルを隅々まで浸透させるのが狙いだ。</p>
<p>いまでは’09年度以降の大学選手権９連覇、昨年度までの３連覇を支えるスキームのひとつとして知られ、学生コーチをしながらレギュラーとして活躍する選手も定期的に出現する。</p>
<p>しかし当時は、導入の初期段階だった。就任してしまえば、主力選手として活躍することをあきらめ、「裏方専念」を意味するようにも映る役回りだった。やりたがる部員はなかなか現れなかった。そんななか、１年時から主力格だった堀江が「やる」と言い出したのである。</p>
<p>結局は周りに止められ、主将として選手権４強入り。この国を代表するプレーヤーになってから、青春時代のジャッジについて堀江はこう振り返る。</p>
<p><span class="strongInContent">「『誰がすんねん』となって、『別にいいかな』みたいな感じで。僕がもしコーチになっても、（卒業後に）社会人でラグビーをやって（ブランクを）取り返せるくらい自分のプレーには自信があった。その時は僕、</span><span class="strongInContent">結構、強気やったんで。だから、やろうか？　って」</span></p>
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<div data-friday-nextpage-lead="サンウルブズ結成前の消滅危機も救った"></div>
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<figure id="attachment_374993" aria-describedby="caption-attachment-374993" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="89620ee8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/05/c1e7811ff95cac3c45139d37c90ef0f5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-374993" class="wp-caption-text">ラグビーリーグワン決勝 、埼玉－BL東京。後半、堀江は、日本代表として一緒に戦った（左から）BL東京のリーチマイケルや埼玉ワイルドナイツの松田力也とともにビデオ判定の結果を待つ</figcaption></figure>
<p>他者の利益を考える気質は、帝京大卒業後、プロになってからも変わらなかった。</p>
<p>サンウルブズができた頃もそうだ。’16年より日本からスーパーラグビーへ挑むことになったサンウルブズは、発足前の準備に難航。日本代表の主力やその予備軍を集める予定も、練習スケジュール、指導体制、チームに帯同した場合の補償に関する説明が不安視されて、チームを結成できるだけの選手が揃わなかった。</p>
<p>挙句の果てには、統括団体から<span class="strongInContent">「日本時間の’15年８月31日の午前０時までに選手契約などの問題がクリアしなければ、加盟許可を取り消す」</span>といった趣旨でメールが届いたほど。チームができる前から消滅しかねない危機にあって、ひと肌脱いだのが堀江だった。</p>
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<p>堀江自身は世界的に注目される選手として各国からのオファーを受けていたなか、自分でも「泥船」と称してしまうほど危機的な集団であるサンウルブズと契約。加えて、初代主将になったのだ。</p>
<p>締め切り直前に一定数のプレーヤーを揃えたものの、経験値の高い選手は限られていた。黒星先行を強いられ、四苦八苦した。</p>
<p>それでも堀江は、翌年度以降も主将を退きつつ計４シーズン、サンウルブズへ関わった。その間、多くの日本人選手が国際経験を積み、’19年のワールドカップで成功を掴んだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「僕にとってプラスになって周りがマイナスになること（方向）はまず、選ばないです。で、自分がプラスになって誰かがプラスになるやつ（チョイス）を、選ぼうとするんです。けど、それでは無理な時があって、その時は周りがプラスになって自分がマイナスになるということに出くわす瞬間がある。そういう時は、先を見ます。はじめは僕にとってマイナスの部分が多いとしても、いつかはそれがプラスになって僕に返ってくると思って…と」</span></p>
<p>こう語る堀江は、引退後も人のために働く。</p>
<p>’15年から師事する佐藤義人トレーナーの教えに倣い、選手の身体を見るトレーナーとして、それぞれに合った身体動作やトレーニングの方法を伝え広めたいという。</p>
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向風見也

共同通信社

日本代表で歴代６位の76試合に出場した堀江翔太はリーグワン決勝で敗れ、現役最後の試合を勝利できなかった。無名時代から裏方に徹しようとする姿勢を厭わなかったからこそ、チームに必要とされ続けた。

帝京大時代に学生コーチを志願…現役引退のラグビー元日本代表・堀江翔太の「裏方を厭わなかった」人生

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