WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。

安倍川 モチ子

<h3>前田政二さんが、’23年のM-１グランプリを振り返る </h3>
<figure id="attachment_380999" aria-describedby="caption-attachment-380999" style="width: 3000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="acac1e40"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/2dc36923b408917a2900f9486f64f3f2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-380999" class="wp-caption-text">’22年までM-１の制作スタッフと準決勝までの審査員を務めた前田政二さん（PHOTO：川戸健治）</figcaption></figure>
６月26日、ついに20回目となる「M-１グランプリ2024」のエントリーがはじまった。大きなルール変更はないものの、今年は選考エリアに新潟が加わることとなったため、さらなる激戦が予想される。
毎年、さまざまなドラマを生む本大会への期待が高まるが、昨年度を振り返ってみると、’01年の第１回大会ぶりに出順１組目の令和ロマンが優勝するなどの明るい話題がある一方で、ネタ選びに翻弄されたコンビが多かった印象も強く、昔からささやかれている「ネタ選びの重要さ」を痛感した年でもあった。
M-１の第１回目から制作スタッフ・予選審査員として関わる一方で、放送作家で養成所講師を25年以上勤めてきた前田政二さんも、X（旧Twitter）で同様のつぶやきをしていた。 
<h3>盛り上がったのはいいけれど……</h3>
<figure id="attachment_381000" aria-describedby="caption-attachment-381000" style="width: 1290px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="28cae02a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/db3639b6f6c340926ca3bd470505ecec.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-381000" class="wp-caption-text">共感を呼んだ、’23年の大会中のつぶやき</figcaption></figure>
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「あくまでも僕個人の感想ですが、昨年のM-１は、最終決勝に残った３組だけが勝ち残れるネタをしていて、それ以外はネタ選びに失敗してましたね」
そう話すのは、M-１グランプリの第１回から第18回大会まで、制作スタッフと準決勝までの審査員を務めた前田政二さん。「スタッフの若返りを図りたい」というテレビ局の意向から、’23年度の大会から離れた古株スタッフの一人だ。
「敗者復活戦は３つのブロックに分けたトーナメント方式で、各ブロックから１組が勝ち上がり、その中からプロの芸人が１組を選ぶスタイルでした。 
実はこれ、昔からM-１の制作に関わっている数人の作家と『絶対にやらない』と決めていたスタイルなんです（苦笑）。理由は、最終に残るべき複数のコンビが、１つのブロックに集まる可能性があるからです」 
<figure id="attachment_381001" aria-describedby="caption-attachment-381001" style="width: 3000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cdc79670"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/b0f7aea5e83b949334de3a5817e53cd0.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-381001" class="wp-caption-text">「スタッフもいろいろ考えて頑張ってくれたんだと思いますが、『果たして芸人にとってはどうだったのか？』と考えると……」</figcaption></figure>
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NSC吉本総合芸能学院の１期生として入学し、「銀次・政二」というコンビで活動していた前田さん。同期のダウンタウンらと共に在阪の賞レースで競い合い、『笑っていいとも！』の前身番組にあたる『笑ってる場合ですよ！』や「今宮こどもえびすマンザイ新人コンクール」ほかでも優勝した経験も持っている。自然と、発する言葉には重みを感じる。 
「あと、敗者復活会場は大きすぎましたね。確かに、たくさんのお客さんに来ていただいて盛り上がったのはいいんですが、お笑いは会場が大きすぎると、後ろのお客さんから芸人の表情が見えません。 
そのため、昔からお笑いの会場は小さすぎず大きすぎず、全身が見えて、なおかつ表情もわかるのが理想とされています。身振り手振りや表情も、笑いの大事な要素なんです。大きなスクリーンに上半身のアップを映しても、マイクで拾った音声が会場の後ろに伝わるには微妙に時間がかかるから、漫才を楽しむ妨げになる可能性があります」
厳しい指摘を入れるのは、意図せずM-１の制作スタッフを離れたからではない。第１回大会から参加し、芸人ファーストな大会となるように真剣にM-１と向き合い、M-１を育ててきたからだ。
「’01年にM-１をやると決まった時に、発起人でプロデューサーの谷（良一）さんがすぐに声をかけてくださいました。『元漫才師やし、NSCで講師も務める構成作家やから、参加する芸人の気持ちがわかるやろう』という理由だったので、生意気にいろんな意見を出させてもらいました。 
『１回戦はアマチュア参加者のためにもネタ時間は２分がいい』、『予選の審査員席は芸人の目に入らない客席の後ろ側に、決勝戦ではステージの右横がいい』とか、実はいろんな所で僕の意見が採用されてるんですよ」 
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<h3>ネタ選びに翻弄されるようになったのは、ネット配信が原因？ </h3>
制作スタッフを離れたことは、マイナスだけではなかった。というのも、長年NSCの講師を務めてきたため、準々決勝・準決勝に残るほとんどが教え子という状態。
「それまでは、公平を期すために、自分の中で出場者とスタッフという線引きをしていました。 
例えば、可愛がっていた教え子から声をかけられても、大会がはじまったら、準々決勝・準決勝・決勝に残りそうな実力派とはご飯にも行きませんでした。それぐらい徹底してました。 
でも、今回はそういうことも気にしなくてよかったので、テレビを見ながら素直に応援できましたし、その気持ちをXで自由に発信できました。だから今、『あいつら、もっとええネタあったのに』みたいなことが言えてるんです（笑）。今後は、何も気にせずに教え子たちにアドバイスしていくつもりです」
<figure id="attachment_381002" aria-describedby="caption-attachment-381002" style="width: 3000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3961ec0b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/d351ccb4e8a695433a36aa332034fd61.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-381002" class="wp-caption-text">「サンドウィッチマンを決勝戦に残したくて、大先輩の構成作家と言い合いになったこともありました。結局、彼らは敗者復活戦を勝ち上がって優勝しました！　内心、一番喜んでいたのは、僕かもしれません（笑）」</figcaption></figure>
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冒頭のように、昨年の大会では最終決戦の３組以外のコンビは、ネタ選びに翻弄されてしまったと語るが、特に残念だったのがダンビラムーチョだという。
「たぶん昨年のダンビラは、３年前のネタをやっていれば最後の３組に残れたでしょう。３年前はめちゃくちゃいいネタをいくつも持っていたんですよ。 
それこそトップ３ぐらいのレベルで駒を進めてたんですが、’21年は準々決勝で、’22年は準決勝でネタ選びを間違ってしまった。ここを間違ってなかったら、その年の決勝まで行ってたんじゃないかと思います」 
上記のように、芸人がネタ選びに翻弄されるようになったのは、10年ほど前に始まったネット配信が原因ではないかと前田さんは分析する。 
「その頃から、前評判が良かったり、話題になったりして再生回数が伸びたコンビから、ネタ選びを気にするようになりました。『配信でたくさん見られた＝手の内がバレた』と思ってしまうのでしょう。 
でも、予選のネタを配信で見るのは、コアなお笑いファンばかり。テレビで決勝戦を楽しみにしているお茶の間の人たちは知らないはずなのに、芸人側は『もう世間にネタがバレている』と勘違いして、まだバレてないネタに変えてしまうんです」 
<figure id="attachment_381003" aria-describedby="caption-attachment-381003" style="width: 3000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a4c1a9cf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/e133198a5f7bf181cdebac5a933a0a31.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-381003" class="wp-caption-text">「芸人の気持ちもわかるので、何度か会議で『ネタ配信をやめられないか』と議題に挙げたこともありましたが……大人の諸事情があり、やはり難しかったようです」</figcaption></figure>
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「大事なのは、『決勝に残ること』。言いかえれば、『その他のコンビの中に埋もれないこと』です。絶対に笑いをとれる強いネタが２本あるんなら、配信の視聴回数は気にせず、準々決勝・準決勝にぶつけて決勝に残ることを優先するべきです」
<div data-friday-nextpage-lead="ネタを捨てられる「潔さ」も……"></div>
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<h3>ネタを作る「粘り」とネタを捨てられる「潔さ」を</h3>
もし、絶対に笑いをとれる強いネタが２本なければ、どうしたらいいのだろうか？
「NSCの授業でよく話すのが、『普段から印象的なボケやフレーズを最低２～３入れたネタ作りをしろ』です。 
あと、みんながやり尽くしてるような題材でネタを作らないことです。数年前にマッチングアプリが流行した時、それを題材にしたネタをするコンビがめちゃくちゃいたんですが、そんな誰もが思いつくようなものでは、その他大勢の中に埋もれてしまいます。 
でも、『これまであったマッチングアプリのネタの中で、一番面白いものができた』という誰にも負けない自信があるなら別です。『とりあえずウケてるし、このネタでいいか』というレベルでは、予選通過はできません。 
あと、アマチュアの方へのアドバイスとしては、せめてちゃんと舞台衣装に着替えて出てほしいですね。舞台衣装ひとつにも、意味があるので」 
<figure id="attachment_381004" aria-describedby="caption-attachment-381004" style="width: 3000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="093a9d5f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/5ab4ca5dcb3aac5eaf8e9c80ff6cd3de.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-381004" class="wp-caption-text">「気にするなら『ネタ選び』ではなく『ネタ作り』です。準決勝や決勝に残るような実力派は、負けた次の日から翌年の大会に向けてネタ作りを始めているでしょう」</figcaption></figure>
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17歳でNSC１期生として入学した時点で、すぐ上には’80年代の漫才ブームを牽引した世代（紳助・竜介、ツービート、B&amp;B）がいた。かたや同期には、ダウンタウン、トミーズ、ハイヒールといった面々が並ぶ。手強いライバルたちに囲まれる中を「銀次・政二」で戦った。
「もちろん、同期には勝たなアカンかったし、すぐ上の先輩の『紳助・竜介』『明石家さんま』さんたちに追いつかないと仕事がもらえない、食べていけない。そんな状況やったんで、お客さんが100%笑うっていう自信のあるネタしか作りませんでした。『これでええわ』とテキトーな所で手打ちにしたネタはなかったです。 
今は芸人の数が増えているので、頭ひとつ抜けるのは簡単ではないでしょう。だからこそ、埋もれないネタを作らないといけません。 
何ヵ月も『今よりウケるボケはないか』と探し続けるのは当たり前ですが、一方で、イマイチ自信が持てないネタはあくまでも暫定１位で、それよりも面白いネタができたらボツにする勇気も必要です。どこに出しても恥ずかしくないネタが２本ないなら、お客さんを笑わせる100%の自信が持てるネタ作りをしてほしいですね」
<figure id="attachment_381005" aria-describedby="caption-attachment-381005" style="width: 3000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ff0ae041"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/dd302cf971fc2262e8bd64c3a0cdecd1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-381005" class="wp-caption-text">ヨシモト∞ドームⅠでは、原作・脚本・演出を務める「吉本養成所物語」というお芝居やネタライブを企画・プロデュースしている。今年からは事務所の垣根を越えて、お笑いやネタのワークショップを開催予定</figcaption></figure>
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安倍川モチ子

川戸健治

「M-1グランプリ2024」のエントリーがはじまった。第1回目から制作スタッフ・予選審査員として関わる一方で、放送作家で養成所講師を25年以上勤めてきた前田政二さんに昨年のM-１を振り返ってもらった。

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