1980年、秋田県生まれ。編集プロダクションを経てフリーに。スポーツ、グルメ、エンタメ、企業・経済など多ジャンルで執筆、編集。自宅に猫2匹。

高橋ダイスケ

<h3><span class="strongInContent">時刻データは、すべての数字を編集部で手打ち入力！……紙の時刻表はまだまだ現役</span></h3>
<p>『JTB時刻表』が’25年３月で100周年を迎える。</p>
<p>『JTB時刻表』は1925年に鉄道省運輸局編纂『汽車時間表』として創刊されており、その歴史は長く、またJRのダイヤ改正となる３月号は毎年約６万部を発行するなど、発行部数でもその存在感を見せつけている。</p>
<p>電車の時刻はインターネットで調べるのが主流となって久しいが、それでも多くの利用者がいる紙の時刻表。その魅力や役割はどんなところにあるのか。現編集長の梶原美礼氏に時刻表の現在について聞いた。</p>
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<p><span class="strongInContent">「現在、紙の時刻表は趣味性が高くなっていますが、その一方で、例えばコロナ禍の『Go To トラベル』キャンペーンの際など、旅行需要が高まると売り上げも比例します。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">やっぱり、旅行に行くときにも、皆さんまだまだ使ってくださるんだなと感じています」（梶原氏・以下同）</span></p>
<p>1925年の創刊で欠かさずに刊行を続けてきた同誌。戦時下では特急・急行列車の大幅削減や紙不足によりたった１枚になったこともあったが、これまで休刊になることもなく、近年ではコロナ禍も乗り越えてまもなく100周年を迎える。</p>
<figure id="attachment_391534" aria-describedby="caption-attachment-391534" style="width: 2669px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="00bead19"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/09/21f771b754884b9285b556f459870fa5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-391534" class="wp-caption-text">’09年に発行された創刊999号では松本零士『銀河鉄道999』とコラボレーションも　©松本零士／零時社</figcaption></figure>
<figure id="attachment_391535" aria-describedby="caption-attachment-391535" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c3bfadd6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/09/cd150a10fa93ef135e2653a4d68b57cd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-391535" class="wp-caption-text">編集長の梶原美礼氏。入社時から時刻表に携わり、’23年に編集長に。『JTB時刻表』初の女性編集長</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">「私たち編集部は目的地までの乗り継ぎは、アプリより時刻表で調べるほうが早いんですよ」</span></h3>
<p>そこにはやはり根強いファンがいることはもちろんだが、紙ならではの“強み”もあると梶原編集長は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「一番の強みは“ひとつの誌面”で列車の時刻が一覧になっていること。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">私たち編集部は目的地までの乗り継ぎは、アプリより時刻表で調べるほうが早いんですよ。もうどこを開けば調べられるか、手が覚えていますから（笑）。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">もちろん、インターネットで『ここからここまで』と検索すれば一発で時刻が出てくるのはありがたいことです。ただ、その次の時刻や前の時刻を調べたいときはもう１アクション必要になります。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">その点、紙の時刻表なら前後の時間が横に記載してあるので一覧ですぐ見られますし、読者ターゲットの『やっぱり紙で見たいんだよね』と言われる方の大半がその点を重要視してくださっていると思います。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">乗り継ぎの面でも、紙の時刻表で見ると乗り継げるポイントがわかりやすく、その時刻に合わせた並べ方をするのが編集の腕の見せどころ。お客様にどれだけスムーズに乗り継ぎをしてもらえるかという点は常に意識しています」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="日常茶飯事だった企業の経理からの問い合わせとは？"></div>
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<p>紙の時刻表を使いこなせる人にとっては、インターネット検索よりも利便性が高く、旅の計画も立てやすいという。</p>
<p>また、台風などの自然災害による運休など、ダイヤが思わぬところで急に乱れてしまう場合でも、時刻表であれば迂回路を検討しやすく、梶原氏も「そんなときは、私も手元に時刻表があると落ち着きます」と言うほど、紙は利便性の面でもまだまだ優位な点は多い。</p>
<figure id="attachment_391536" aria-describedby="caption-attachment-391536" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0654076a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/09/cded1b73029ebfa345c7b135876d3250.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-391536" class="wp-caption-text">1925年に刊行された『汽車時間表』の復刻版</figcaption></figure>
<figure id="attachment_391537" aria-describedby="caption-attachment-391537" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f825feba"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/09/6d1668e4ae41c5c7add893a2246f315d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-391537" class="wp-caption-text">当時はまだ山手線が環状線ではなかったこともわかる（『汽車時間表』の復刻版）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_391538" aria-describedby="caption-attachment-391538" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ff3296c5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/09/57099802fd8525c71b93fce320bafaf5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-391538" class="wp-caption-text">列車の前後の時刻を一覧で掲載。旅程を考えるのに乗車時刻などを検討しやすい仕組みに。列車名「かもめ」などのアイコンも編集部で作成している</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">「運賃が合わないんですけど」……日常茶飯事だった企業の経理からの問い合わせ</span></h3>
<p>このように時刻表を使いこなせるようになるのは編集部にいれば当然と思えるが、入社当時や編集部に配属されたばかりの時期だとやはり難しいもの。</p>
<p>最近こそ少なくなったが、インターネット前夜では、利用者からの問い合わせ対応で多くの新入社員が鍛えられていたという。</p>
<p><span class="strongInContent">「私が入社してしばらくの間、多かったのが企業の経理担当の方からの『社員から申請された鉄道運賃の金額が、時刻表で計算した金額と違うようなのですが、どっちが正しいですか……』というお問い合わせでした。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">とくに４月頃は経理担当になったばかりの方からのお問い合わせも多く、そうなるとゼロベースから運賃表の見方や計算の仕方をお教えするんですね。向こうの会社ではそこまで教えてくれないからって（笑）。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">一方で、時刻表の編集部に配属されたばかりの新人も、そういったお問い合わせや鉄道ファンの方からの質問に鍛えられ、時刻表の見方や運賃の計算方法も覚えていくわけです」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p>そうして鍛えられた時刻表の精鋭である編集部員たちが、もっとも多忙を極めるのが、毎年３月のJRダイヤ改正のタイミングだ。</p>
<p>全国の在来線や新幹線のダイヤが改正されるため、その数は素人が想像しただけでも膨大な量になるのは明白だ。この３月の改正に向けての作業が、編集部にとっては年で一番の大繁忙期となる。</p>
<p><span class="strongInContent">「３月の改正に向けて、12月ぐらいから取り掛かるのですが、月刊誌なので直近号の編集もしつつ、改正を反映した３月号の２冊を並行しながらやっていて。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">鉄道もバスもありますし、バスは４月１日改正が多くて、そこも反映しつつ、あと飛行機もあり、いろいろな会社のデータが入り乱れますので……ちょっと今はあまり想像したくありませんが……、笑っちゃうくらいです（笑）」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="すべての数字を編集部で手打ち入力！？"></div>
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<p>しかも時刻データはPDFや紙で支給され、すべての数字を編集部で手打ち入力しているという。３月の改正号ともなると膨大なデータを入力しなければならず、入力したデータは間違いがないよう何度も確認が繰り返される。そして、最初に支給されたデータからダイヤが変更になることも多々あり……。</p>
<p>もちろん、この他にも多くの作業が必要になるが、この一事だけでも、改正号の制作にどれだけの労力がかけられているのかがわかるだろう。<span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_391539" aria-describedby="caption-attachment-391539" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1203eb64"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/09/04586263aeabfa727bae761fdea140fb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-391539" class="wp-caption-text">作業風景。編集にはJTBパブリッシングが開発した時刻表専用の編集ソフトを使用するほか、厳重なチェック体制など、何重にも誤記を防ぐ対策が施されている</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">“ダイヤ改正”が無かった月は一度も無し</span></h3>
<p>年に１度、３～４ヵ月かけて乗り切る３月のダイヤ改正。ここで気になるのが、JRほか各社の改正時期に刊行すれば、月刊でなくとも３～４ヵ月に１度の季刊という形も考えられるのではないかという点。</p>
<p>しかし、時刻表にはもちろんそうもいかない事情、月刊でなければならない事情があるという。</p>
<p><span class="strongInContent">「JRさんの改正は３月ですが、ほかの会社では８月１日とか９月１日とか、毎月どこかしらで改正は行われていますし、お盆や正月、花火シーズンなどは、臨時列車の運行もあるので、それらに対応するには最低でも月刊でないとできません。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">鉄道、バス、航空などで約900社、そのほかに駅弁の会社の約100社のデータを扱っていますから、それら含めて“改正が無かった月”はこれまでに一度もありません」</span></p>
<p>毎月約1000社の改正や臨時便に対応するには“最低”でも月刊でなければならないという。この壮大でかつ地道な作業の積み重ねが、読者や利用者の信頼を得ている大きな理由だろう。</p>
<p>この信頼感に加え、毎月の巻頭特集もまた、この本のもうひとつの顔である。</p>
<p><span class="strongInContent">「かつては毎回国鉄さんのキャンペーンを取り上げていましたが、国鉄民営化に伴って時刻表が『JR時刻表』（交通新聞社）と『JTB時刻表』に分かれてからは、表紙に鉄道だけでなくバスや飛行機を載せたり、季節に応じた旅を意識して幅広く特集を組むようになりました。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">今年の８月号では花火、９月号では駅弁の特集を組んでいます」</span></p>
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<p>最新の’24年９月号では読者アンケートを実施。全国の人気駅弁を巻頭特集で取り上げた。その結果も興味深いものになったという。</p>
<p><span class="strongInContent">「今回、アンケートをとってみてわかったのが、『峠の釜めし』や『牛肉どまん中』など人気の駅弁は本当に王道ということ。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">『峠の釜めし』が１位だったので、かつて信越本線横川駅で登山仕様のアプト式への接続を待つ間に『峠の釜めし』が食べられていたことに由来して、９月号では現役車両の走行風景ではなく、横川-軽井沢間を鉄道が走っていた頃の写真にしています」</span></p>
<p>鉄道ファンからのマニアックな投票が多いかと思いきや、王道の駅弁が人気。こういった結果も編集部の想定外であり、ファンの声を聞く面白いところだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="歴代の編集長の間で語り継がれているエピソード"></div>
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<h3><span class="strongInContent">歴代の編集長の間で語り継がれている「あるエピソード」</span></h3>
<p>JTB時刻表では読者からの投稿を紹介する「たいむたいむてぇぶる」や欄外に読者の一言コメントを掲載する「グッたいむ」などもあり人気だ。「グッたいむ」は梶原氏たっての希望で復活させたものだという。</p>
<p><span class="strongInContent">「『グッたいむ』は一時期、読者投稿ページへの掲載にしていた期間もあったのですが、もともと私が編集部に配属されてからずっと好きなコーナーだったということもあって時刻表の欄外に復活しました。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">うちではSNSやネットでの投稿よりも、ハガキで頂くことがずっと多いんですよ」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_391540" aria-describedby="caption-attachment-391540" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1e09d36d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/09/676addd6c5b769bfd1198408a5a95b07.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-391540" class="wp-caption-text">「当時を懐かしむことができる」とマニア以外にも人気なのが、広告を除いた当時のままを復刻している『時刻表復刻版』。その12弾、1986年11月号（写真右・７月22日発売）は、分割・民営化を翌年に控えた、国鉄として最後の全国ダイヤ大改正号</figcaption></figure>
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<p>編集長の肝入りで復活した「グッたいむ」だが、このコーナーには、歴代の編集長の間で語り継がれているエピソードがある。</p>
<p><span class="strongInContent">「『グッたいむ』に投稿されている方同士が結婚されたことがあったんです。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">まだ文通が盛んな時代で、その方たちも文通をしていたそうなんです。そこでJTB時刻表の話題になり『実は私、けっこう、投稿しているんです』『え、僕もです！　ペンネームはなんですか!?』という話で盛り上がって。お二人が実際に会われて、ご結婚なさったと。そのご結婚のいきさつとご報告が編集部にもあったんですよ！」</span></p>
<p>100年の歴史の中で、全国の鉄道の運行時刻を網羅するだけでなく、人との縁までつないでしまったJTB時刻表。</p>
<p>無数のダイヤ改正や臨時便、駅の増減など次から次へと対応を迫られる中「限りあるスペースですので、情報がうまくページ内で収められて、ズバッとハマった時が本当に気持ちいいですね。そして、これからも引き続き変わらず刊行し続けたいっていう思いが一番です」という梶原氏のもと、JTB時刻表はこれからも多くの人の旅を導き、また人と土地、人と人との縁をつないでいく。</p>
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<p>JTB時刻表100周年を記念して、’25年３月から「JTB時刻表100周年キャンペーン～旅は続くよ、どこまでも」を実施。’24年10月にオープンする特設サイトにて順次情報をアップ予定だ。</p>
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<p><a href="https://x.com/jtbp_train" target="_blank" rel="noopener">■<span class="strongInContent">『JTB時刻表』公式X</span>はコチラ</a></p>
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各務あゆみ

「JTB時刻表」が‘25年３月で100周年を迎える。電車の時刻はインターネットで調べるのが主流となって久しいが、それでも多くの利用者がいる紙の時刻表。その魅力や役割はどんなところにあるのか。

ダイヤ改正号の部数は今も約６万部…来年で100周年！『JTB時刻表』が毎月刊行される意外すぎる訳

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