マシンガンズ滝沢 「豪邸から出るゴミ」「アパートから出るゴミ」
本業は、ゴミ清掃員。ときどき、草野球ならぬ“草お笑い”やってますーー。日々、ゴミ収集車で街を回って得た知見をエッセイやコミックで発表し、お笑い芸人としての新しいスタイルで注目されているマシンガンズ・滝沢秀一氏。当サイトでもその肩の力の抜けた生き方を紹介し、反響を得た。
『ゴミ清掃員が本業』芸人・マシンガンズ滝沢に共感が集まる理由
平成から令和へ年号をまたぎ、史上最長の10日間というゴールデンウィーク中も勤務していたという彼。ゴミから見える地域と社会の実情について聞いてみた。
バカンスに出かける人、身辺整理をする人
「ゴールデンウィーク中も普通に収集はありましたが、やっぱり量的に多かったのは休み明けですね。心配していたフードロス(=食べ残した食材などのゴミ)もまあまあありましたけど、いつも以上に大量というほどではありませんでした。多いなぁと思ったのは、衣替えの時期のせいか、衣服類ですね。あと、タンスなど家具の粗大ゴミも多かった気がします。春の引越しシーズンの余韻が、まだ残っていたのかもしれません」
取材当日も粗大ゴミ回収に当たっていたという滝沢氏は、史上最長のゴールデンウィークのゴミ事情をこう振り返った。興味深いのは「地域によって、多少差がありました」との発言。
「どちらかというと高級住宅地は少なめ。たぶん長期間、海外旅行にでも出かけられていたんじゃないでしょうか。逆に、そうでもない地域のほうでは多めで、連休中は家で片付けをされていたのかな、と。新しい時代に向かって整理整頓で気持ちを切り替える……みたいなムードだったのかもしれません」
ゴミは「地域格差」を映す鑑
ゴミにも地域差があり、そこにはある種の格差が見て取れるというのが、清掃員としての滝沢氏の実感。5月30日発売のコミックエッセイ本『ゴミ清掃員の日常』(講談社刊)にも、そうした様子が描写されている。分別や出し方が概してきちんとしているのは高級住宅街、そうでもない地域では酒やタバコのゴミが多いほか、ポテトチップスの袋や栄養ドリンクの瓶など特定の傾向のゴミが大量に出る……等々、その考察は微に入り細に入りだ。
「お金持ちの方が多く住む地域は、基本的に一軒ごとの戸別収集なんですよね。だから、ゴミも責任を持って分別して捨てている印象です。分別しないゴミを自宅の前に置いて行かれたら、やっぱり恥ずかしいじゃないですか。それに、ひょっとしたらお手伝いさんがいるのかもしれないし。高級住宅地らしいゴミというと、たとえばワインの箱とか、老舗和菓子店の高い羊羹がまるまる一本出るとか……。
自己投資にお金をかける方が多いせいか、ひところは腹筋マシンとか乗馬型のダイエット器具なんかも、たくさん出ましたね。ああいうの、なぜか一斉に出るんです。皆、痩せようと思って飛びつく時期が同じで、たぶん諦めるタイミングも同じなのかも(笑)」
対して、アパートが立ち並ぶ地域ではゴミは共同の集積所に。その集積所の状態から、町の治安などの状況がある程度読めるというのが、清掃員としての滝沢氏の実感だ。
「集積所が汚れていると、そこにまた分別されていないゴミや不法投棄のゴミが集まってくるんです。ゴミのないところにゴミを捨てるのはけっこう勇気がいりますが、ゴミのあるところになら捨てたってかまわないと思うんでしょう。治安がよくないといわれる地域は、そういう状況になりがち。やっぱり、近所の繋がりがないせいでしょうね。チェックする周りの目がない、集積所を片付ける人もいない、結果、ゴミだらけになってしまう、という」
ゴミ捨てがいい加減な会社は潰れる!?
ゴミは、その地域に暮らす人の生活と人生を映す鏡。その法則は、実は家庭ゴミだけに当てはまるものではないらしい。会社などの事業所や団体から出るゴミにもその組織の有り様が表れると、滝沢氏は言う。
「ゴミ清掃を始めて6年になるんですが、分別しないでグチャグチャにゴミを出している会社って、いつの間にかゴミが出なくなるんですよ。あれ? と思うと、その会社が潰れていた……そんな経験が、今までに何度かありました」
ゴミの捨て方の悪い会社は潰れる! 衝撃的な事実ではあるが、でも、何となく頷けるような……。
「そうですよね。愛社精神のない社員が多くて、『どうでもいいや』『世の中からどう思われたって』と思っていれば、やっぱりゴミ捨てもいい加減になるだろうし、細部まで気を配ろうという気になりませんよね。逆に、ゴミの分別に専門の部署を設けたり、専門業者を中に入れてきちんと分別していたりする会社は、それなりにゴミに対してお金をかけているわけですから、本業もきちんとしているんじゃないでしょうか。
表ではすごくサービスがよかったりしても、裏ではゴミ出しが適当で、回収する側のことなんか何も考えていない……僕ら清掃員は、そこを見ていますので。やっぱりゴミは嘘をつかないんだな、と思いますね」
最近、生ゴミを処理する家庭用コンポストを導入し、ゴミ減らしの実践に励んでいるという滝沢氏。実は先日、自身にとって身近な某会社に潜入し、ゴミ事情をチェックしたばかりである。

その会社とは、何を隠そう、新刊『ゴミ清掃員の日常』の版元である講談社だ。数々の雑誌、書籍を製作する組織としてのゴミ分別の実情を、専門家としての目でくまなくチェックした。

「全体的な印象としては、かなりちゃんとされている、といってもいいと思います。とくに、印刷物を扱う会社だけあって、紙の分別の徹底ぶりにはすごいものがありましたね。中には、謎のゴミもあるにはあったんですが……まあ、6年以内に潰れるってことはないんじゃないでしょうか(笑)」
滝沢氏が太鼓判を押した、講談社のゴミ分別システムとは? そして、滝沢氏を当惑させた「謎のゴミ」の正体とは? コミックルポは、6月6日発売の『月刊少年マガジン』に掲載予定だ。
滝沢秀一 1976年東京生まれ。東京成徳大学人文学部卒業。98年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年、ゴミ収集会社に就職。18年9月にエッセイ集『このゴミは収集できません』(白夜書房)を刊行。小説の執筆も手がけ、14年3月にはホラーサスペンス小説『かごめかごめ』(双葉社)を上梓している。
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取材・文:大谷道子撮影:田中祐介