サニブラウンを覚醒させた「フロリダ大学のバイオメカニクス」
9.97の日本記録を樹立した天才の「強さの根源」
2019

「高校時代のサニブラウン選手は、才能だけで走っているという印象でした。卒業後、フロリダ大学の秋入学までの期間にオランダでトレーニングを行い、そこでバイオメカニクスによる分析を利用してスムーズに走るフォームに変わった。さらに今回は動きに”アクセント”が加わって地面に力を伝えられるようになっています。あのレベルでこれだけフォームを変化させられることがすごい。体を動かす神経回路的な能力が優れているのでしょう。まだまだタイムは伸びる」
バルセロナ五輪100m日本代表で、法政大学教授の杉本龍勇(たつお)氏はこう感嘆する。
6月7日、全米大学選手権100m決勝で、サニブラウン・ハキーム(20)が、9.97の日本新記録を樹立した。10秒の壁を破った年少記録として、サニブラウンの20歳2ヵ月5日という日数は世界歴代6位。あのウサイン・ボルトでさえ初9秒台を出したのは21歳8ヵ月の時だったのだ。
短距離の世界では、西アフリカにルーツを持つ選手が長らく君臨してきた。東京大学の石井直方教授が言う。
「トップスプリンターを調べた複数の調査で、彼らは瞬発力を発揮するタンパク質『αアクチニン3遺伝子』を持つと報告されている。また西アフリカ系はこの遺伝子を持つ人が極めて多いのです」
サニブラウンは父が西アフリカのガーナ出身でトップスプリンターになる遺伝子を受け継いでいるといえる。が、杉本氏は、それは大きな要因ではないと言う。
「実際、世界トップレベルで競っているのはアフリカの選手ではなく、練習環境の整ったアメリカやジャマイカの選手です。現代の短距離走は科学的なトレーニングや技術的な要素のほうが断然大きい」
フロリダ大学は、全米有数のスポーツ名門校。その一員となったことは計り知れないプラスをもたらしたのだ。
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『FRIDAY』2019年6月28日号より
写真:AFLO