世帯視聴率トップを独占 テレ朝ドラマ「勝利の方程式」の落とし穴

『緊急取調室』『特捜9 season2』『科捜研の女』でぶっちぎりだが 「春ドラマ」決算報告

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春ドラマの世帯視聴率では、テレビ朝日の3番組がトップ3を独占した。

ただしこれらは世帯の話で、個人視聴率では異なる風景が見えてくる。
男女65歳以上では、同局ドラマはぶっちぎりのトップだが、他の世代では全て最下位に転落する。視聴者層のこの極端な偏りは、敢えて狙った戦略の結果でもある。

ではこの戦略は本当に正しいのだろうか。

テレ朝ドラマの見られ方

4月クールのテレ朝ドラマは、ビデオリサーチの世帯視聴率(関東地区)では、天海祐希主演『緊急取調室』の平均が13.2%(全10話)でGP帯(夜7~11時)民放ドラマのトップ。2位は井ノ原快彦主演『特捜9 season2』で13.0%(全11話)。3位は沢口靖子主演『科捜研の女』の12.5%(4月期・全8話)だった。

トップ3をテレ朝が独占した格好だが、スイッチ・メディア・ラボが調べる個人視聴率(関東地区)では、全く異なる風景が見えてくる。
C層(4~12歳)からT層(13~19歳)・1層(20~34歳)・2層(35~49歳)までは、男女とも全て日本テレビの3ドラマ平均が全体のトップ。3-層(50~64歳)ではTBSの3ドラマがトップとなった。

テレ朝はC層から1層で、トップ日テレの2分の1から3分の1しかない。2層でも半分から4分の3。3-層でもトップTBSの7~8割しかとれていない。
つまりテレ朝の世帯視聴率トップは、65歳以上の高齢層での、他局を寄せ付けない圧倒的な支持で保たれているのである。

テレ朝ドラマの特徴

14年頃まで、各局の平均視聴率は大きな差がなかった。米倉涼子主演『ドクターX』が20%超を獲る秋クールのみテレ朝の圧勝だったが、他のクールは混戦状態だった。

ところが16年頃から、テレ朝の常勝が続くようになる。
14年の年間平均では、2位日テレとの差はわずかに0.7%。ところが16年には2位TBSとの差は2.4%に開き、以後17年2.2%・18年2.7%と大きくなったまま。
19年は半期が終了した時点で、2位TBSに3%以上の差をつけている。同局の盤石ぶりがますます際立っているにように見える。

実はテレ朝ドラマには、勝利の方程式がある。
まずは枠の固定化。水曜夜9時は「刑事ドラマ」枠、木曜夜8時は「木曜ミステリー」枠、木曜夜9時の「木曜ドラマ」はジャンル自由となっている。ただし「木曜ドラマ」の実態も刑事ドラマが圧倒的で、他に医療モノなど数字が獲れるドラマが大半だ。
4月クールも、『緊急取調室』『特捜9』『科捜研の女』と全て刑事・事件モノ。3ドラマ平均12.9%は、2位TBSに3.1%もの差をつけた。

2番目の方程式がシリーズ化。

今年は開局60周年記念で、1年間の放送が決まっているのが『科捜研の女』。1999年に始まり、既にSEASON19となっている。また2000年スタートの『相棒』はseason17。他に4月クールの『特捜9』は、06年に始まった『警視庁捜査一課9係』がseason3まで放送され、『新・警視庁捜査一課9係』となってseason12まで続き、その後継となってseason2となった。つまり全体では、既に17クールも放送されている。

『緊急取調室』も4月クールで3rd SEASONを迎えた。
他にも7月クールで始まる『刑事7人』は第5シリーズ。10月クールでの放送が予定されている『ドクターX』は第6期となる。つまり同局がGP帯で放送するドラマの大半がシリーズ化されているのである。

シリーズ化のメリットは幾つかある。
まず大枠がかっちり決まっているので、新たなシナリオライターや監督に挑戦させる余地がある。ドラマの質を保ちつつ、制作者・スタッフの育成・新陳代謝の促進が容易で、結果としてシリーズを長く続けられるという考え方だ。

次に視聴率対策。
シリーズではあるが、1話完結に徹している点がミソ。都合がつかず途中の回を見そびれた人も、その後の回から戻って見続けやすくしてある。 実際にクール中の数字は、安定的に推移する場合が多い。

そして3番目が、第2シーズン以降の初回の視聴率が高くなる点。
既にドラマ自体の認知度は高いので、再び立ち上げる際の宣伝がしやすい。特にテレ朝の場合は、平日午後にドラマの再放送枠が3時間もある。新シリーズの放送開始直前に旧シリーズを流せば、そのまま新シリーズの宣伝になるというメリットがある。

世帯視聴率と広告収入の関係

良いこと尽くめに見えるが、実はテレ朝ドラマには落とし穴がある。
64歳以下、特に若年層が獲れないため、スポンサー集めで課題を抱えるという点だ。広告主は新製品の認知度を上げるために、広く多くの生活者に広告を届けたいと考える。特に広告に影響されて商品を購買しがちな若年層は、重要なターゲットとなっている。

ところが65歳以上の高齢者に特化したドラマだと、同じ高齢者が何度もCMを見るだけで、より多様で幅広い層に商品情報を届けにくい。
テレビ広告の実際の取引現場では、若年層の視聴率でCMの値段が決まることも多い。中には、世帯視聴率が低くても若年層の含有率が高い番組を好むスポンサーもいる。若年層が少ないのに世帯視聴率が高いと、広告費が高いのにターゲット層に届かないからだ。
この数年、広告効果を厳しく査定するスポンサーが増えている。去年4月からは、スポットCMの取引の基準も、世帯視聴率から個人視聴率に変更された。この10年でテレビの視聴者は、中高年の割合が実際の人口構成以上に増えている。ところが肝心の広告費を支払うスポンサーは、高齢者の視聴率を重視しなくなっているのである。

日テレとテレ朝の現実

この2年の世帯視聴率と広告収入の関係を、日テレとテレ朝で比べると興味深い状況が垣間見られる。
この間、日テレのP帯における世帯視聴率は、下降傾向が続いている。17年度上期は前年同期比で3%近い増加。17年度下期は微減。18年度上期で2%強の減少。そして18年度下期は5%ほどと大幅減少だった。
ところが広告収入をトレースすると、この2年はほぼ横ばいが続いている。全日(6~24時)の世帯視聴率との関係でもほぼ同様だ。つまり世帯視聴率は、広告収入との相関関係があまりないように見える。

一方テレ朝は、17年度1年間のP帯世帯視聴率が大幅マイナス。そして18年度は大幅プラスとなった。ところが広告収入は、17年度でマイナスだったものの、世帯視聴率ほど悪くはなかった。それが18年度になると、視聴率が大幅プラスにも関わらず、広告収入は逆に大きく減少し始めていた。
やはり相関関係が全く見られない。

やはり広告収入の多寡を決めるのは、もはや世帯視聴率ではなく、若年層や40~50代の視聴率がより大きく影響を与えるようだ。
テレ朝はGP帯ドラマに限らず、他の番組枠でも高齢層の割合の高い番組が多い。朝帯のニュース・ワイドショー枠、昼間の『徹子の部屋』『やすらぎの刻~道』、平日夜10時台の『報道ステーション』などだ。バラエティでも『ポツンと一軒家』『名医とつながる!たけしの家庭の医学』など、極端に高齢者比率の高い番組が少なくない。これらの結果、世帯視聴率が好調でも、広告収入で苦戦している可能性が高い。

一部のメディアでは、テレ朝ドラマの盤石ぶりを喧伝する記事が幾つか書かれている。
ところが民間放送である以上、広告収入は経営の根幹だ。スポンサーを納得させる番組になっていないとすれば、世帯視聴率を追い続ける姿勢は何のためだろうか。

ここしばらく同局は、高齢者向けドラマや番組を続けるようだが、それは本当にテレビ文化や同局の経営にとってプラスなのだろうか。世帯視聴率好調という恍惚は確かにあるのだろうが、広告収入苦戦という不安を抱き始めている職員も増えている。
同局の戦略が続くのか、見直されるのか。しばらくは目が離せそうもない。

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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