「大起水産」の74歳マグロ王 魚に触れないけど売上230億円
回転寿司業界の勢力図を塗り替える風雲児。連日の解体ショーで客の心をワシ掴み!
「お客さんに喜んでもらうために工夫すること、営業してモノを売ることは誰にも負けない自信があった。だからこそ、何とかここまでやってこれたんちゃいますかね」
そう語るのは、「大起(だいき)水産」の創業者で代表取締役会長の佐伯保信(やすのぶ)氏(74)。ライバルひしめく回転寿司チェーン業界の勢力図を塗り替えつつある、注目の人物だ。
’75年の創業以来、成長を続け、いまでは大阪を中心に57店舗を展開、グループ全体の売上高は約230億円にまで上る。だが、そんな急成長中の会社を引っ張る佐伯会長には、ある秘密が……。
「実は、魚に触れないんです。30歳で大起水産を設立する前は、友人の魚屋で働いていたんですが、その頃からずっと苦手で……」
触れずとも、食べるのは大好き。佐伯氏はアイデアで勝負した。創業当初からとにかくこだわったのが、マグロだ。
「冷凍ではなく、生のものを提供することにしたんです。コストは掛かるが、品質は比べものにならない。生の本マグロはもっちりとした食感に加えて臭みもない。子どもや女性は特に味や臭いに敏感なので、冷凍と生の相違に気づくと確信し、勝負に出ました」
生の本マグロの取扱量は日本一。年間1万本以上を売りさばく。昨年8月、大阪府堺市にオープンした日本最大級の体験型食施設「まぐろパーク」の名物「生・本まぐろ丼」は、中トロ・トロ・赤身が入って980円だ。
「まぐろパーク」では毎日解体ショーを開催しており、多い時には一日に22本ものマグロを客の前で解体する。鮮度を保ったマグロをその場で調理して販売するのだ。
「人を呼び寄せる力を持つ魚といえば、昔はクジラで今はマグロです。解体ショーでは提灯を掲げて太鼓をたたき、お祭り風に仕上げている。パフォーマンスをしながらモノを売ると、お客さんにわかってもらえやすい」
良いものをより安く――。創業以来のモットーに徹底的にこだわり、いまでは「関西のマグロ王」と呼ばれるまでの存在になった佐伯会長。だが、確固たる地位を築いた現在も、社員への感謝は欠かさない。
「何せ魚に触れへんからね。僕が出したアイデアを実現してくれたのは、すべて社員です。今後も社員と一緒に、『自分で食べたいと思うものを提供する』という気持ちを大切にやっていきます」
74歳の「マグロ王」は、これからもこの業界を泳ぎ続けるのだろう。




『FRIDAY』2019年7月12日号より
撮影:加藤慶