北九州保険金殺人事件 「夫溺死計画」の生々しいやりとり | FRIDAYデジタル

北九州保険金殺人事件 「夫溺死計画」の生々しいやりとり

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第19回

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05年福岡県北九州市で起きた保険金殺人事件。犯人の藤田博美は、車ごと海に沈めるという大胆な方法で夫を殺害した。翌年、裁判で明らかになった殺害に至るまでの杜撰な計画と共犯者との生々しいやりとり。小野一光氏が事件の全貌をレポートする。

8月6日公開の前編「北九州保険金殺人事件 夫を車ごと海に沈めた妻『逮捕直前の姿』」はこちら

 

藤田博美が気に入っていたホストに送っていたメール。事件後には「ダンスホールを(経営)してみたいな」という脳天気なメールを送っていた
藤田博美が気に入っていたホストに送っていたメール。事件後には「ダンスホールを(経営)してみたいな」という脳天気なメールを送っていた

2005年10月に福岡県北九州市で発生した保険金目的の夫殺害事件。翌06年1月に逮捕された同市の藤田博美(逮捕時42)は、夫で郵便局員の藤田徹さん(仮名、死亡時43)に、総額1億3000万円もの生命保険と損害保険をかけていた。

博美が逮捕された際には、彼女に徹さん殺害について相談され、共謀したとして、保険代理業の男A(逮捕時47)、建設業の男B(逮捕時49)も殺人容疑で逮捕されている。

じつは博美はAならびにBと、殺害計画についてそれぞれメールで頻繁にやり取りをしており、すべての文面が捜査機関によって復元されていた。そのため06年4月に福岡地裁小倉支部で始まった裁判では、事件に至る流れが詳細に明かされた。

博美とAは、00年にスナックのホステスと客として知り合い、それからは麻雀仲間として交際を続け、05年春頃からは情交関係にあった。また、博美とBは、1995年頃からの麻雀仲間であり、金銭トラブルで一時疎遠になったこともあったが、05年9月頃から交際が復活していた。なお、AとBとの間に直接の面識はない。

博美は徹さんとの結婚生活に不満を抱いており、04年夏には離婚したいと考えていた。しかし、離婚後の生活に経済的な不安を感じており、仕方なく別れずにいたという。そのことでストレスを溜め込んでいた彼女は、05年夏以降、連日のようにホストクラブや麻雀店に通い、Aを含めた友人らに対し、「(徹さんが)ぽっくり死んでくれたらいいのに」などと打ち明けていた。

これを聞いた友人らは博美をたしなめていたが、Aだけは違った。博美とラブホテルで密会している際に、彼女からなにかいい方法はないかと尋ねられ、「200万円出せば8時間で殺せる薬があるから、これを購入してやる」や「500万円くらいで外国人の殺し屋に依頼することもできる」などといくつもの殺害方法を挙げ、積極的に徹さん殺害について話し合った。

逮捕1ヵ月前の藤田博美。黄色と黒のチェック柄という派手なジャケット姿で、北九州市にあるマンションから出てきた
逮捕1ヵ月前の藤田博美。黄色と黒のチェック柄という派手なジャケット姿で、北九州市にあるマンションから出てきた

博美は徹さんを確実に殺害するためには、A以外にも信頼できる協力者を確保する必要があると考え、かねてからカネを無心してくるなど、金銭的にひっ迫しているBであれば、分け前欲しさに話に乗るだろうと考えた。

そこで博美はBに、徹さんを殺害して生命保険金を得ようと思っていることを説明して、協力を求めたところ、Bは「本気なんだな。お前が本気なら協力するぞ」と、彼女の提案を受け入れたのだった。その際にBは、「悪いことをしないとカネ儲けできないから。できることがあれば加勢する」とも答えている。

一方、Aは02年に福岡県久留米市で起きた、看護師4人による保険金殺人事件を例に挙げ、徹さんを事故死に見せかけて殺害する方法として、睡眠導入剤を酒とともに飲ませ、酩酊した徹さんを博美が運転する車の助手席に乗せたまま、岸壁から海中に転落させることを提案した。あらかじめ車の窓を開けた博美が海中から脱出することで、事件性を疑われずにすむとの理屈だった。

博美はAの提案であることを伏せて、その殺害方法はどうかとBに相談したところ、彼は賛同したうえで、確実に殺害するためには海水温が低くなった時期まで待ち、海が時化た日で、満潮から潮が引き始めた時間が良いなどとアドバイスを加えた。そして博美を連れて北九州市内をまわり、小倉北区や八幡西区にある岸壁の下見につき合っている。そこでは小倉北区の岸壁ならば車止めがないため、低速走行で車を海中に転落させられると指摘。さらにその周辺にはラブホテルが建ち並んでいることから、「夫とラブホテルに行こうと思っていたが、夫が酔っていたので岸壁側に入ってしまい、運転を誤って海中に転落した」との説明ができると話していた。

このような流れでわかる通り、博美はAとBを並行した状態で協力者として活用しており、逆にAとBはともに、徹さんが殺されることで博美に入ってくる保険金からの、分け前を期待していた。

そのため、Aは博美が徹さんの退職金や自宅などの財産を相続できることを指摘したうえで、「生活にはもう困らないだろう。××(保険会社)の保険の半分でいいからちょうだい」と、自分の代理店で契約した某社の死亡保険金5000万円のうち、半分の2500万円の分け前を要求し、博美も了承している。また、Bは自分も実行に加わると博美に申し出た際に、2000万円の分け前を要求しており、その後も別の機会に「400~500万円回してくれ」などと、繰り返し分け前を要求していたのだった。

「無計画にすると絶対に失敗するぜ」や「薬の効き目も確認しとかないと」といったBからのメールを受け取っていた博美は、05年10月9日に、睡眠導入剤の効き目を確認し、あわよくば徹さんを殺害しようと、結婚記念日を祝うとの名目で、徹さんを戸畑区内の居酒屋に誘っている。同店で博美から睡眠導入剤入りの酒を飲まされた徹さんは、店を出て帰宅する際には足下をふらつかせていたものの、車内で眠りにつかない。そのため、彼女も海中への転落による殺害は見送るほかなかった。

しかし自宅で眠りについた徹さんを見た博美は、Aが話していた久留米保険金殺人事件と同じく、空気を身体に注入する方法で殺害できないかと考えた。ちなみに、博美は元看護師であり、注射の経験があった。そこで徹さんが注射で目を覚まさないか確認するため、縫い針で彼の足を突いたところ、痛みで目を覚ましたため、この方法も断念している。

一刻も早く徹さんを殺害したかった博美はAに連絡を入れ、彼が担当した5000万円の生命保険契約のお礼がしたいと徹さんを飲みに誘ってくれないかと頼み、了承を得た。そして10月12日夕刻、博美と徹さん、さらにAと彼の子供の4人で小倉北区内の焼き鳥店に集まったのである。なお同日昼、博美はBに対して、「今日保険屋さんにセッティングしてもらうから。今日やるよ。××(転落予定地)でやるからね」とメールを送り、Bからも「分かった」「がんばれよ」とのメールが返ってきている。

博美は店に入る前に立ち寄ったゲームセンターで、睡眠導入剤を混入させた清涼飲料水を徹さんに飲ませており、その残りも焼き鳥店内で飲ませたところ、彼は酩酊状態になった。そこで店を出てAらと別れた博美は、助手席に徹さんを乗せて、車を事前に予定していた小倉北区内の岸壁へと走らせたのである。

そして午後10時4分頃、車を岸壁から海中へと転落させた。計画通り事前にシートベルトを外し、運転席側の窓を全開にしていた博美は、窓から車外に脱出し、泳いで近くの岸壁にしがみつく。そして付近を散歩中の女性に助けを求め、事を遂げたのだった。

だが、”事故”直前の5000万円の保険契約、さらには溺死した徹さんの体内から睡眠導入剤の成分が検出されたことから、捜査機関が”事件”を疑うのは当然のこと。その後のメールの解析によって、彼女の殺意と犯行の実行、さらにAとBの共謀が明らかになるのは、時間の問題だったのである。

藤田が夫を乗せたまま車ごと突っ込んだ小倉港の現場
藤田が夫を乗せたまま車ごと突っ込んだ小倉港の現場
  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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