これからが見頃 田んぼアートを見に行こう
岩手県奥州市の大谷翔平、宮城県角田市の羽生結弦、埼玉県行田市のラグビー日本代表など
埼玉県行田市 ラグビー日本代表
青い空の下に広がる雄大な田園風景。そこに浮かび上がるのは、緑、赤、白、黄、茶などさまざまな色で描かれた巨大な絵だ――。いま、「田んぼアート」が全国各地で見頃を迎えている。
田んぼアートは、色の異なる多様な品種の稲を植えることで水田に絵を描き出すアート作品。使われる稲は、食用米のほか、古代米、観賞用品種と多岐に亘(わた)る。
5月下旬から6月上旬頃、設計図を参考に田植えが行われる。夏になると稲が成長して鮮やかな絵柄が見られるようになり、毎年、大勢の人が鑑賞に訪れる。
岩手県奥州市 大谷翔平
全国田んぼアート連絡協議会の情報発信を請け負う団体『ツナガル』の河田一誠氏はこう語る。
「田んぼアートを最初に始めたのは、’93年の青森県田舎館(いなかだて)村です。村おこしを目的とした田舎館村に倣(なら)い、’93年以降、各地の自治体などがこぞって取り組み始めた。いまでは、年に一回『全国田んぼアートサミット』が開催されるようになったほど。田舎館村の展望デッキには、一シーズンで30万人を超える来場者が訪れることもある。田んぼアートは全国約100ヵ所に普及し、中国など海外にも広がっています。今年の注目は、埼玉県行田市のラグビーワールドカップ日本代表を描いたものです」
田んぼアートの作り方は、ただ稲を植えて終わりではない。下絵を描く段階からの、周到な準備が必要なのだ。
日本随一の高いクオリティを誇る田舎館村の場合、テーマの検討は前年の稲刈りの翌月から始まる。
「11月に題材を決める議論がスタートします。テーマが決まると図柄案や下絵を作る。設計図ができるのは5月頃。次は、測量をしながら田んぼに1万本を超えるカヤ(ヨシの茎)を打ち込んで下書きをする。田植えは一般公募で集まった1300人による手作業ですが、場所を間違えると絵柄が崩れてしまうため気が抜けない。大変なのはここ数年の猛暑。観賞用品種は暑さで枯れてしまうこともあり、収穫まで手入れが欠かせません」(田舎館村企画観光課の喜多島啓係長)
宮城県角田市 羽生結弦
最近は絵のクオリティを上げる試みも広がっている。初め3色の稲でスタートした田舎館村は、現在、7色8種類の稲を使い分けている。展望台や櫓(やぐら)など斜め上から眺めたときに綺麗に見えるよう、遠近法を採用する自治体も多い。遠近法を使った設計図は、コンピューターソフトによって精密に計算される。
絵柄も巨大化している。行田市が’15年に描いた小惑星探査機『はやぶさ2』と子供宇宙飛行士の絵は、一般的な25mプール約100面分に相当する2万7195㎡で、「世界最大の田んぼアート」としてギネス世界記録に認定された。今年のラグビーワールドカップ日本代表の絵は、さらに大きく2万8000㎡に及ぶ。
見頃のピークは8月末頃までだが、秋にかけて稲の色が徐々に濃さを増していくことも田んぼアートの魅力の一つ。シーズン中、何度か足を運び、季節の移ろいを感じるのもいいかもしれない。
長野県安曇野市 『いだてん』
青森県田舎館村 『おしん』
拡大すると…
静岡県菊川市提供
愛知県尾張旭市提供
愛知県名古屋市提供
埼玉県越谷市提供
北海道旭川市提供
栃木県小山市 『リボンの騎士』
『FRIDAY』2019年8月23・30日号より
- 取材・文・写真:桐島 瞬、長野県安曇野市提供(『いだてん』)
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