「日本一の殺人生物」スズメバチと暮らす芸人の自宅潜入ルポ
スズメバチ愛にあふれた芸人・丸沢丸(かにゃ)が語る、その魅力と危険性!
もしアナタが、スズメバチに遭遇したらどうするだろう。
まずはビビるはずだ。そして次にとる行動は、スズメバチを刺激しないよう、そっと逃げ出すこと。ところが、どこの世界にも変わり者がいる。積極的にスズメバチとの出会いを求め、ついには、スズメバチと一緒に暮らし始めてしまった男がいる。お笑いコンビ「かにゃ」の丸沢丸(35)だ。この夏、スズメバチLOVEを一冊にまとめた本も出版した。『超危険!スズメバチLIFE 図解とマンガでわかる最凶生物』(講談社)である。
都内某所の自宅にお邪魔すると、胸に“スズバチ出没注意”と書かれたTシャツ(自作)を着て登場した。頭にスズメバチをかぶっている。恐るべしインバクト、さかなクンもビックリだ。
著書の冒頭に、こんなクエスチョンがあった。
Q スズメバチが日本一の殺人生物って、本当なのですか?
これに対して、丸沢はこう答えていた。イエスと。サメよりもクマよりも人を殺している生き物ですと。
そんな凶暴なスズメバチを、丸沢は、なぜ好きになったのか。
「幼い頃から虫が大好きでした。男子だから、カッコイイ虫が好き。その代表格は、カブトムシや、クワガタです。でも都会生まれの僕には捕まえる機会がありません。それで、身近な虫を観察していると、スズメバチの姿形は、クワガタに負けず劣らずイカしてるじゃないですか!」
でも刺すよね。と、私なら冷静に考える。
「スズメバチで刺すのはメスだけなんです。クラゲに刺された痛さの数倍です。そしてエゲツないのが、痛みを感じさせる成分が毒に含まれていること。かなづちで叩かれたような痛さです」
刺されたことがあるか聞いた。丸沢は満面の笑みで「はい」と答えた。だって、それがスズメバチじゃないですか、とでも言いたげな笑顔だ。
この丸沢家には、生まれて初めて見たものがたくさんあった。まず、ポイズンリムーバーだ。針のない注射器のような形をしている。スポイトの要領で刺された傷から毒を吸い出すのだ。
そして、部屋の片隅に飾られているのは、真っ白な防護服。なかなかの重量があり、夏場、これを着てスズメバチを駆除するのは地獄だ。
そして何より、丸沢がペットとして可愛がっている、生きた8匹のスズメバチである。
「ホラ見てください。まさに今、働き蜂が仕事をしていますよ!」と、嬉しそうに、飼育ケースのひとつを指差す。聞けば、餌のゼリーをお団子状にしているそうだ。
「ゼリーを肉団子のように丸めて運んでいるところです。飼育下では、成虫は昆虫ゼリーを食べています」
スズメバチの成虫は、自分で運んできた肉団子は食べず、樹液をすすって生きている。ただ、それだけでは栄養が足りず、幼虫がこぼす“よだれ”を舐めて栄養を補っているのだ。
「スズメバチは一日の飛行距離が100キロメートルになることがあるんです。そのエネルギーの源が、幼虫の“よだれ”なんです」
驚くなかれ、このスズメバチの栄養素は、スポーツドリンクにも活用されている。
■妻とのデートは昆虫食だった
丸沢は独身ではない。彼には奥さんがいる。彼のスズメバチ本の帯には、こんなQ&Aが堂々と書かれている。
Q スズメバチに2度刺されたら死んじゃうんでしょ?
そして丸沢の答えが恐ろしい。
「いえいえ、1度刺されただけでも死ぬ時は死にます!」
果たして、丸沢の奥さんはこんな環境をどう感じているのか。
「同棲していた頃からこんな感じですから、もはや当たり前になっているかも知れません。彼女は色んなものを食べるのが好きで、付き合い始めたときは、昆虫を食べにいってました。スズメバチは食べても美味しいんですよ!」
食べたことはないが、蜂の子という珍味があることは知っている。
「それはクロスズメバチの幼虫です」
そういって、丸沢がクロスズメバチの標本を見せてくれた。まるでハエのように小さい。
巣盤で見るともっとわかりやすいですと、オオスズメバチと、クロスズメバチの巣盤を並べて見せてくれた。大人と幼児ほどの差がある。
ちなみにスズメバチの巣は、この巣盤が幾層にも重なり、それを外皮が覆っている。あのマーブル模様のいかついやつだ。
最後に、この記事を読んでいる読者に、スズメバチに襲われた場合の対処を聞いた。
「9月〜11月にかけて、スズメバチの巣はピークになって、新女王蜂がたくさん誕生して外の世界へ飛び立ちます。もし、スズメバチに会ったら、身を低くしてください。彼らの視界から外れることが大切です。そして、その場からそっと離れてください」
それでも刺されてしまった場合、どうすればいいのだろう。
「口で吸っては絶対にダメです! 刺された患部に毒針が残っている場合があるので、その場合は毒液の入った袋を圧迫しないように、針の部分だけを持って抜きます。そして、つねって毒を出してください」
後はわかります。子供の頃から知っています。おしっこをかければいんですよね。
「それは迷信です! すぐに病院に行ってください」
なぜか最後は、叱られて丸沢家を後にしたのだった。
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- 撮影:松本時代
- 取材・文:ハギワラマサヒト