うすしお味、メリット……昭和から売れ続けるNo.1商品の秘密 | FRIDAYデジタル

うすしお味、メリット……昭和から売れ続けるNo.1商品の秘密

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令和最初の夏が終わった。業界全体が倦怠ムードになる「夏枯れ」と言われる8月が終わり、一気に仕事モードに切り替わる時期だ。

多くのビジネスパーソンの仕事は、直接的であれ、間接的であれ、「商品やサービスを売る」ことに深く関わっている。少しでも多くの商品を、できるだけ長い期間売るために、日夜悩んでいる。特にマーケティングをしている人は、モノが溢れている時代にモノを売ることの難しさ、優れた商品でも売れないという壁に当たることも多いのではないだろうか。

そこで注目したのは、「実家でオカンが愛用」し続けている食品と生活用品たち。オカンは品質と値段に厳しい。無数の類似商品があり、より安価なものが多数登場しているのに、その中からオカンが選ぶモノ……いずれもそのジャンルではシェアナンバーワンであり、昭和・平成・令和と時代をまたいで売れ続けている商品ばかりだ。定番ゆえに、スポットライトが当たることは少ない。しかし、生活の深部に入り込み、リピートされ続けているアイテムの背景とは何か……。

今回は、ポテトチップス、お茶、シャンプー、トイレ用洗剤にクローズアップして紹介する。

構想7年、満を持して発売した、シンプルスナック

(左)1975年発売当初のパッケージ。この透明タイプの袋を覚えている人も多いはず。(中)1997年のパッケージ。伯方の塩を使用していることを前面に出している。(右)最新のパッケージ。左下に塩分量0.5gと記載が。60g123円(編集部調べ)
(左)1975年発売当初のパッケージ。この透明タイプの袋を覚えている人も多いはず。(中)1997年のパッケージ。伯方の塩を使用していることを前面に出している。(右)最新のパッケージ。左下に塩分量0.5gと記載が。60g123円(編集部調べ)

『カルビーポテトチップス うすしお味』

多くの実家には、“菓子置き場”がある。せんべい、クッキー、飴、チョコレートなど人気の菓子から姿を消す“あの”コーナーだ。その中で、最も回転率が速いものは何かと考えたときに、思いつくのが1975年発売の『カルビーポテトチップス うすしお味』ではないだろうか。子供が好むからオカンは買う。子供が巣立っても美味しいから買う……この商品の誕生背景を伺った。

「カルビーがポテトチップスに参入したきっかけは、創業者の松尾孝が1967年にアメリカの国際菓子博覧会に参加したことです。アメリカのスーパーでポテトチップスが山積みされているのを見て、国内でも手頃な価格で提供できれば売れるはずと思ったそうです」(カルビー広報 以下同)

構想7年のポテトチップス。日本では、原料のじゃがいもの収穫時期が限られていることも、開発に時間がかかった背景にあるという。

「じゃがいもを貯蔵し、一定の品質を保つのは大変なことです。発売当初から契約農家さんと一緒に試行錯誤し、現在も年間を通じておいしくポテトチップスを食べていただくために、高品質なじゃがいもの調達に努めています」

味の細部についても、調整を重ねてきた。

「うすしお味の場合、変更できることが限られるため、塩選びから、繊細な取り組みをしています。例えば、伯方の塩、沖縄石垣の塩、瀬戸内海の塩など時代ごとにお客様に支持されるものを選んでいます。また、塩の粒度(りゅうど)を微妙に変更してきました。粒度が粗いと口溶けに時間がかかるため塩味をすぐに感じられない。粒度が細かいと口の中ですぐ溶けるため塩味を感じやすいなどの特徴があります。この塩こそ、弊社がこだわっている部分です」

味のみならず、パッケージも時代とともに変えてきた。1975年の発売から、44年の間に味とパッケージの見直しを14回も行っている。

「ポテトチップスをおいしく召し上がっていただくために、1985年に袋を透明なタイプから、遮光性が高く保存性のよいアルミ蒸着タイプに変更いたしました。これで中身の鮮度が保てるようになりました。また今年6月のリニューアルではパッケージも大きく変更しました。塩分量が気になる世代の方にもわかりやすいように、パッケージ表面に塩分量を記載。気軽に手に取って頂きたいと考えました」

オカン世代は血圧を気にしている人が多い。この、“かゆいところに手が届く”配慮がされていることもまた、愛される理由なのだ。

「カルビーのポテトチップス」公式サイト

 

 

専用茶葉の強み、30年目の『お~いお茶』

(左)1985年に発売された「お~いお茶」の前身である「缶入り煎茶」。(右)最新の「お~いお茶」ペットボトル 525ml 160円(編集部調べ)
(左)1985年に発売された「お~いお茶」の前身である「缶入り煎茶」。(右)最新の「お~いお茶」ペットボトル 525ml 160円(編集部調べ)

伊藤園『お~いお茶』

オカンは移り気だ。新商品や限定品、ブームのフレーバーなどにも弱い。しかし、ペットボトルのお茶と言えば、伊藤園の『お~いお茶』一択という人も多い。

複数のシニア女性に、選ぶ理由を聞くと「なんか、おいしいから」と口をそろえる。料理にも菓子にも合わせやすく、旨い。まさに“ちょうどいい”味なのだ。

「1985年に世界初の缶入り緑茶飲料『缶入り煎茶』が発売され、1989年にネーミングを『お~いお茶』に変更、今年30周年になりました。この間、缶と並行して、ペットボトル容器のものも販売。いつでもどこでもお茶をお楽しみいただけるように、ニーズを細かく分析、商品に反映させるなど、日々工夫を重ねています」(伊藤園広報 以下同)

商品名の『お~いお茶』は、1970年代から、伊藤園の茶葉商品のCMで使われていたフレーズなのだ。俳優・島田正吾さん(故人)がおっとりとした口調で呼びかけるCMは、当時、お茶の間でよく知られていた。

斬新なネーミングの『お~いお茶』は日本茶を取り巻く常識を変えた。発売した1980年代までは、日本茶は無料のサービスだったが、伊藤園は缶入りの商品の“販売”に成功。急須で淹れ自宅で飲むだけでなく、外で手軽に淹れたてのおいしさを味わえる日本茶の市場を開拓。味も日本人のライフスタイルに合わせて、進化してきた。

「缶入りの緑茶は開発に10年の歳月を費やしました。一貫して追及しているのは、おいしさと鮮度です。現在は、原料に専用茶葉を使用し、多くの方にご支持いただいています。また、ラベルには、一般の方から俳句を公募する『伊藤園新俳句大賞』の作品を記載。これは、30年前に『お~いお茶』にネーミングを変更した時期から実施しており、累計応募者数は3500万句を突破しました」

オカンは俳句を嗜む人も多い。実は密かに応募しており、「いつか載るかも」と楽しみに買い続けているのかもしれない。このエンタメ性もまた、ロングセラーのヒミツなのかもしれない。

「お~いお茶」公式サイト

49年前のフケ・かゆみシャンプーは、「家族のシャンプー」へ

(左)1970年発売当時のボトル。一般的なシャンプーの倍近い価格だった。(中)1990年のデザイン。“朝シャン”が浸透し、日本人の生活様式が一変した。(右)2018年にリニューアルした花王『メリット シャンプー ポンプ』480ml 615円(編集部調べ)
(左)1970年発売当時のボトル。一般的なシャンプーの倍近い価格だった。(中)1990年のデザイン。“朝シャン”が浸透し、日本人の生活様式が一変した。(右)2018年にリニューアルした花王『メリット シャンプー ポンプ』480ml 615円(編集部調べ)

花王『メリット』

なんだかんだと言いつつも、“お父さんファースト”のオカンは多い。帰省した時に、一緒にオカンと買い物に行き、オカンは夫好みの商品を無意識に選んでいる。その姿に、夫婦の歳月の長さと安定感を見せつけられた人もいるのではないだろうか。

オカンに「お父さんが好きだから」と選ばれ、実家のバスルームに鎮座しているシャンプーといえば、花王の『メリット』。子供時代、あの独自のエメラルドグリーンのシャンプーに、“大人”を感じた人も多いはずだ。

また、80年代のテレビCMも印象的だった。長い黒髪の女性が「肩のフケ、なしヨ!」と微笑むシーンを覚えている人もいるだろう。

「『メリット』は1970年にフケ・かゆみを防ぐシャンプーとして生まれました。当時の日本人は、現在のように毎日髪を洗う習慣はなく、週に2~3回程度でした。そのため、抗菌作用のある成分を配合し、ふけやかゆみを抑える効果を押し出したのです」(花王広報 以下同)

確かに、子供時代を振り返ると、『メリット』は父親専用の特別なシャンプーだった記憶がある。しかし、気づけば、家族で使うシャンプーになっていた。

「時代の変化に合わせ、アイテムの追加や技術改良を重ねてきました。1975年にはリンスを、1991年はリンス成分配合の『リンスのいらないメリット』を発売しました。90年代は日本人のライフスタイルが大きく変わった時代です。洗髪頻度が上昇し、清潔であることが当たり前になったこの時代に、『メリット』は、大きく生まれ変わったのです」

2001年に、『メリット』は大きく方向転換をする。フケ・かゆみシャンプーから、“新・家族シャンプー”として生まれ変わった。仲村トオル・鷲尾いさ子夫妻、藤井隆・乙葉夫妻のCMも記憶に新しい。

「多くの世代の方が、便利に気持ちよく使えることを追求しています。2013年に『リンスのいらないシャンプー クールタイプ』を、2015年にはキッズ向けの、『泡で出てくるシャンプー』、2017年には年配の方向けに『地肌すっきり泡シャンプー』を発売しました。2018年には髪に汚れがつきにくい、ダストシールド技術を採用した新処方を採用。パッケージも現代のバスルームに馴染むデザインに刷新して生まれ変わりました。発売から50年近く経った今でも、メリットは常に進化し続けています」

「メリット」公式サイト

 

 「ひとかけ3こすりサンポール」は日本初トイレタイル専用洗剤

(左)『サンポール』歴代の商品群。(右)サンポール 500ml(トイレ洗剤)180円(編集部調べ)
(左)『サンポール』歴代の商品群。(右)サンポール 500ml(トイレ洗剤)180円(編集部調べ)

 大日本除虫菊『サンポール』

昭和生まれは『サンポール』と聞くだけで、「ひとかけ3こすり~♪」とCM曲を歌い出してしまう人も多いはず。この商品は、1959年(昭和34年)12月に、日本で初めてのトイレタイル専用洗剤として発売された。現在は、蚊取り線香など『KINCHO』ブランドの殺虫剤でおなじみの『大日本除虫菊』が販売しているが、開発は『日本電酸工業』が行った。

「もともと、金属表面処理剤を作っていたのですが、“金属のサビを落とせるなら、便器のアカも落とせるはず”と、トイレ用に改良して商品ができました」(大日本除虫菊広報 以下同)

トイレの代表的な汚れは、黄ばみ・尿石・水アカなどアルカリ性だ。サンポールは、これらに対し、一番効果を発揮する酸性の洗剤なのだ。時代と共にトイレの形状や環境は変われど、洗い上りがピカピカになる洗浄力にこだわり続けている。

「トイレが和式から洋式に変わったことに代表されるように、時代とともに環境が移り変わってきました。それに合わせ、より使っていただきやすい容器の形状や、内容物へとリニューアルを続け、試行錯誤を繰り返してきました。発売からもうすぐ60年というロングセラー商品となった今も、多くの方に選んでいただいているのは、この洗浄力にご納得していただけているからなのかと、思っております」

60年前といえば、昭和30年代前半だ。『サンポール』という時代を超えた商品の命名背景を聞いた。

「当時、日本のトイレは水洗式ではなく、場所も居住空間から離れた、薄暗い場所にありました。専用洗剤もありませんでした。そこで、トイレのイメージを一新する名前を考えたところ、“サン”(SUN・太陽の様に光り輝く)と、主成分である塩酸の“酸”をかけ、“ポリッシュ”(POLISH・磨く、光らせる)を組み合わせ、長さと語呂を考え、サンポールになりました」

その後、CM効果などもあり、商品は大ヒット。ブランド力と全国的な知名度を得る。

「環境衛生が変わり、水洗トイレも普及。トイレの掃除が習慣化されたことも、認知の拡大につながった背景にあります」

ちなみに、最も売れているエリアは沖縄県だという。

「沖縄の水質や海水などの影響でできるトイレの汚れの質が、サンポールと相性が良く、サンポールの特に大容量タイプが売れています」

 

いずれも、圧倒的ロングセラーの「オカンブランド」商品。圧倒的なインパクトで世の中に出て、日本人の嗜好、生活様式の変化にきめ細やかに対応している。それが、「太~く、長~く」売れ続けている理由なのかもしれない。

そろそろお彼岸だ。実家のオカンから、墓参りに来い、と招集があるかかるかもしれない。そんな時は、実家で長く愛されているものをチェックしてみてはいかがだろうか。思わぬビジネスのヒントが転がっているかもしれない。

  • 取材・文前川亜紀

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