大林宣彦監督「恐怖とエロスの巨匠」の遺作で爆発した魂

恐怖とエロスの巨匠、魂の大爆発 大林宣彦が命がけで語り尽くした映画愛と反戦の強烈なメッセージ!

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“遺作”ではなく“最新作”が公開中の大林宣彦監督。“映像の魔術師”や“アイドル映画の巨匠”と呼ばれたが、その本質は“恐怖とエロスの巨匠”だ、と映画評論家・江戸木純氏は明かす。池上季実子、小林聡美、原田喜和子、鷲尾いさ子、名取裕子、石田ひかり、高橋かおり、宝生舞らの衝撃シーンを振り返りつつ、大林監督が命がけで語った強烈メッセージに江戸木氏が迫る。

今年4月10日に82歳で亡くなった大林宣彦監督の最新作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』が現在公開中だ。当初は監督が亡くなった当日、4月10日に全国で公開される予定だったが、コロナウイルス拡大の影響で延期となり、7月31日にようやく公開となった。公開館数は全国17館でのスタートだったが、連日満席の回が続出し、69館まで拡大されるという。

上映時間2時間59分。すべての観客の想像や予測を遥かに超えたとてつもない映画である。濃厚な映画愛とパワフルな反戦メッセージが全編を貫き、見る者はただひたすら圧倒されて、誰もが「こんな映画見たことない!」と叫ぶことだろう。

大林宣彦監督 ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

舞台は広島の尾道にある古い映画館。閉館の日に企画された戦争映画のオールナイト上映に集まった映画を愛する現代の若者たちが、スクリーンで繰り広げられる様々な戦争の世界に迷い込み、時空を超えて人類が犯した愚かな悲劇を体験することになる……、という物語。

大林宣彦が40年以上にわたって製作してきたすべての映画のエッセンスを凝縮し、あらゆるジャンルを飛び越え、映画作家として今語るべきこと、語り続けてきたことをすべて盛り込んだ、大林映画の集大成というよりは、大長編連作の最新最終章にして、その感動のクライマックス。

監督が末期ガンと闘いながら作ったとは信じられないほど、エネルギーと生命力に満ちて、枯れも老いも微塵も感じさせず、1本の映画の中に映画何百本分もの歴史と情報が詰め込まれた驚異のタイムカプセル。

まるで大林宣彦という映画作家がフィルムそのものと化し、スクリーンからメッセージや問いかけを直球で投げつけてくるような奇想天外な、まさに映画的玉手箱。従来の映画の常識を遥かに超越し、映画芸術の新たな可能性までさらに大きく広げて見せた鮮烈な大傑作である。

大林監督が亡くなって約4ヵ月、すでに追悼も、偉大な功績の再確認も、映画雑誌やwebメディアでのトリビュートまで、存分になされて多くの映画ファンの間で「見たい!」という気持ちは十二分高まっての公開。劇場の盛況も当然のことといえるだろう。

愛と優しさに満ち品行方正な映像作家”の内面に潜む、大林宣彦の真の魅力とは!?

“映像の魔術師”や“アイドル映画の巨匠”ともいわれ、『転校生』(81)、『時をかける少女』(82)、『さびしんぼう』(83)の“尾道三部作”など、青春ノスタルジー系作品で人気の高い大林宣彦監督は、近年は『この空の花-長岡花火物語』(11)、『野のなななのか』(14)など、“古里映画”と称し、地方都市を舞台に反戦を前面に押し出した作品を続けて発表してきていた。

監督本人の温和な物腰や口調もあって、その一般的なイメージは、愛と優しさに満ち、ソフトでマイルド、上品で真面目で品行方正な映像作家といったものではないだろうか。確かにそれも一面ではある。だが実のところ、大林映画の真の魅力は、美しさと優しさの内面に潜む、磨きぬかれたいい意味での映画的いかがわしさや変態性にあると思う。特に2000年以降の作品は、その側面が強まって異形さが加速してきていた。今回の最新作も、そうした異形さを極限まで暴走させた恐ろしいほどパワフルな作品となっている。

そもそも大林映画の大半は、死者や現実には存在しない者たちと生者の対話によるホラー・ファンタジーである。そして、ノスタルジーをかきたてる切ない物語の中には必ず、いやらしさをほとんど感じさせないのに、なぜか鮮烈に脳裏に焼きつくエロティシズムがあり、極限の恐怖と暴力の象徴として戦争の悲劇が横たわっている。

つまり、大林宣彦とは愛と優しさの作家などではなく、ズバリ“恐怖とエロスの巨匠”なのである。

“脱がし屋の異名” 大女優相手にタブーに等しい荒業も

そして、大林映画のほとんどにはヒロインたちが見せる衝撃シーンが用意されている。決して長い場面ではないものの、インパクトの強烈なそれらの映像は、ときには作品以上に見る者に記憶され、そのシーンそのものが観客の思い出や郷愁となっている。“脱がし屋”との異名もあった大林監督のそのこだわりは、映画をより魅力的に輝かせ、観客に記憶させる重要なマジックのひとつでもあった。

初の商業映画『HOUSE』(77)では、池上季実子松原愛、さらに南田洋子までを軽快に脱がせて当時の映画少年たちの度肝を抜き、見事永遠に消えないトラウマを植えつけ、『転校生』(82)は、小林聡美のあっけらかんとしたヌードによって、スラップスティックな笑いと切ない涙に妙な生々しさまで加わって忘れられない作品となった。

さらに、『彼のオートバイ、彼女の島』(86)のほとんど記憶に残らない物語の中、原田喜和子の温泉での全裸登場シーンだけは角川映画史上最大の衝撃のひとつとして今も語り草となるほどインパクト大だった。

他にも、『野ゆき山ゆき海べゆき』(86)の鷲尾いさ子『異人たちの夏』(91)の名取裕子『はるか、ノスタルジー』(92)の石田ひかり『あした』高橋かおり(95)、『なごり雪』 (02) の宝生舞らが見せた美しい肢体の数々は、まさに映画史上屈指の名場面である。

ヌードシーンがない場合でも多くの作品にヒロインや主人公の入浴シーンが用意され、大林映画のトレードマークの一つにもなっている。大林監督がブレイクさせたといっても過言ではない原田知世は、映画でヌードになることはなかったが、『天国にいちばん近い島』(84)では五右衛門風呂に入り、『時をかける少女』(83)では白い体操着と白いブルマという、ある意味ヌード以上の衝撃的な姿を見せているし、『女ざかり』(94)では、あの吉永小百合にも入浴シーンに加え、全編ほぼスッピンで演じさせるという、タブーにも等しい荒業まで軽妙にやってのけていた。

“脱がし屋”という異名は、まさに作家的勇気の証ともいうべき映画作家の勲章、今これだけのことができる監督が日本にどれだけいるだろうか?

最新作は成海璃子、山崎紘菜など女優陣が体当たり演技 衝撃的なエロスと過激なバイオレンスが満載!

成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子 ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

最新作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』ももちろん、“恐怖とエロスの巨匠”ならではの衝撃的なエロスと過激なバイオレンスが満載だ。大林監督は今回も、成海璃子山崎紘菜など女優陣の体当たりの演技の数々を見る者の脳裏に鮮烈に焼き付ける。

映画史上最も情報量の多い映画と言っても過言ではないほど、様々な情報が次々とスクリーンからあふれ出し、ほとばしるこの映画の中で、やはり女優たちの輝きは最も印象的なのである。

大林宣彦がまさに命をかけ、持てるテクニックとエネルギーのすべてつぎ込んで永遠の映画愛と戦争のない未来を祈って描き尽くした『海辺の映画館-キネマの玉手箱』は、コロナ禍で映画館が瀕死の状態に陥り、映画館で見る映画の危機が叫ばれる中、凌辱的に座席を半分以下に減らされた映画館で今、何をおいても見るべき映画である。

この、今年世界中で公開される作品の中でも、間違いなく最も重要な作品の1本といえる映画を巡る映画を見ることは、一生に何度も経験できない貴重な映画体験となるはずだ。

「海辺の映画館-キネマの玉手箱」場面カット

©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

「海辺の映画館-キネマの玉手箱」メイキング

メイキング:お祓い ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
メイキングシーン ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
メイキングシーン ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
メイキングシーン ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
メイキングシーン ©2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
  • 江戸木純

    (えどきじゅん)映画評論家、プロデューサー。週刊現代、VOGUE JAPAN、映画.com等に執筆中。

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