実はネガティブじゃない? 宮下草薙・草薙がブレークした理由

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太田プロ所属の芸人による定期ライブ「月笑」で今季5度目の優勝を飾った宮下草薙。左が草薙、右が宮下/©日刊スポーツ

意外にもはんにゃ金田に憧れていた

最近のお笑い界では「お笑い第七世代」と呼ばれる若手芸人の活躍が目立つ。その中の1組が宮下草薙である。ボケ担当の草薙航基(くさなぎ・こうき)とツッコミ担当の宮下兼史鷹(みやした・けんしょう)の2人組だ。草薙が1人で勝手に後ろ向きの妄想を膨らませてパニックに陥る「ネガティブ漫才」を持ちネタにしている。

2018年1月1日に放送された芸人の登竜門と言われる『おもしろ荘』(日本テレビ系)でテレビ初出演を果たして以来、バラエティ番組で見かける機会がじわじわと増えてきた。最近では、テレビ朝日の名物プロデューサーである加地倫三の手がける番組に出ることが多く、『アメトーーク!』と『ロンドンハーツ』にはたびたび出演している。特に最近の『ロンドンハーツ』では、活動休止している田村亮に代わってサブMCのポジションを与えられるほど重用されている。

草薙がネガティブな考えを持っているのは、ネタの中だけの架空の話ではなく、本当のことだ。先のことを想像しすぎて必要以上に悪い方に考えてしまうのである。

草薙は高校に入学した直後の身体測定で「顔の割に胸板が厚い」とクラスメイトにからかわれた。そこで彼は「このまま行くと、公園で服を脱がされて『踊れ』まであるな」と思い、そのまま高校を中退してしまった。妄想ひとつでせっかく入学した高校をすぐ辞めてしまうのだから、そのネガティブ気質は相当なものだ。

ただ、彼が単なる卑屈な性格の持ち主でしかないのなら、ここまでブレークすることはなかっただろう。大きなコンプレックスを抱えていて、自分よりイケている人間に嫉妬の炎を燃やすようなタイプの芸人はこれまでにも存在していた。だが、草薙のネガティブキャラはそれとは少し違う気がする。もっと言えば、草薙は実は言われているほど「ネガティブ」でもないのではないか、と思うのだ。

例えば、草薙は16〜17歳の頃に『爆笑レッドシアター』(フジテレビ系)などに出て活躍していたはんにゃの金田哲に憧れていた。金田と言えば、正統派イケメンの外見と底抜けに明るいキャラクターを武器にして、10年前に大ブレークしていた芸人だ。意味不明の動きで謎のフレーズを連呼する「ズクダンズンブングンゲーム」というネタが当時の若者に人気だった。

草薙は、そんな明るさの塊のような金田に憧れていた。『有吉ジャポン』(TBS系)で共演を果たしたときには、いつになく興奮していて、一緒に「ズクダンズンブングンゲーム」を楽しげに披露していた。

面白さのカギは「開き直り」にあり

個人的には、草薙のような人が金田を好きだったというのが意外な感じがした。そこで思ったのは、草薙は「暗い人」というより「明るくなりたい人」なんだな、ということだった。

草薙はこれだけテレビに出るようになった今でも、自分の出演した番組を見ることができないのだという。それは、自分の見た目や声が好きではないからだ。これも、一見するとネガティブな考え方のような気もするが、自分のことをある程度客観的に見ている証拠でもある。自分をイケメンだと思い込んでいる勘違い野郎に比べれば、草薙は地に足のついたリアリストであるとも言えるのだ。

草薙は、道を歩いていて銀紙に包まれたガムを踏んでしまったとき、残念に思うのではなく「直接ガムを踏まなくてラッキーだった」と思うのだという。これはもはやネガティブ思考の殻をまとったポジティブ思考でもあるのではないか。

そんな草薙がバラエティで重宝されているのは、追い詰められたときにただ防戦一方にならず、先輩芸人に反論して噛み付いていくガッツがあるからだ。ときには勢い余って先輩に失礼なことを言ったりすることもある。でも、それが笑って受け入れられているのは、そうやって必死で歯向かう草薙に何とも言えないかわいげがあるからだ。

いじめられっ子のような雰囲気の芸人が、先輩芸人になすがままにイジられていたら、いじめのように見えてしまい印象が良くない。だが、草薙はすぐに開き直るので、そこまで気まずい感じにならない。この噛みつき癖こそが草薙の最大の武器である。

草薙の芸人としての魅力は「卑屈なのに強気」というところだ。勉強も運動も苦手で、自分の見た目も好きになれない暗い人間だが、決してそのままでいいと思っているわけではない。実際、テレビに出るようになってから、見た目もどんどん小綺麗になっていて、かわいげが増している。前例のないキャラクターだからこそ先輩芸人たちに面白がられているという部分もあり、まだまだ快進撃は続きそうだ。

  • ラリー遠田

    作家・ライター、お笑い評論家。お笑いやテレビなどの評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)など多数の著書をもつ。公式サイト:http://owa-writer.com

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