イケメンの元コーチが明かす大坂なおみが「勝てなくなった理由」
グランドスラム2連覇に導いたものの、‘19年2月に突然解任されたサーシャ・バイン元コーチの告白
「なおみの第一印象は、『シャイな女の子』でした。なおみ自身も言っていたことですが、彼女は内向的で、どこか人の目を気にしてしまうところがあったのです」
都内の会議室に現れたサーシャ・バイン氏(34)は、静かに語り始めた。190㎝近い身長に筋骨隆々の肉体。しかし語り口は非常に紳士的だ。
セリーナ・ウィリアムズら世界トッププレーヤーのヒッティングパートナーを務めたサーシャ氏は、’17年末に大坂なおみのヘッドコーチに就任。世界ランク70位前後だった大坂のグランドスラム連覇は、世界中を驚かせた。
「出会ったときからすでに実力は世界トップレベルだった」と語るサーシャ氏が重視したのは、大坂のメンタル面の充実だ。著書『心を強くする』の出版記念イベントで来日中、本誌の取材に応じたサーシャ氏が大坂との日々を振り返る。
「最初、なおみの内気すぎる性格が少し気になりました。他人の視線を気にしない度胸をつければ、大舞台でも堂々と自分のプレーを見せられるだろうと考え、いろいろなことを一緒にやりました」
サーシャ氏のトレーニングはユニークだ。たとえば、「罰ゲーム」。サーシャ氏と大坂でテニスのミニゲームをし、勝ったほうが相手に罰ゲームを課すのだ。あるとき、ゲームに勝ったサーシャ氏は、大坂に渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で、ダンスするように命じた。実際に踊った大坂は、他人にじろじろ見られようが、笑われようが、たいしたことではないということを学んだという。
「ごめんなさい」が口癖だった大坂に、「ごめんは禁止」と指導したこともある。これにより、何事も自分のせいだと思い込みがちだった大坂の心は軽くなった。
「なおみは当初、浮き沈みが激しいように見えました。超美技を披露した次のプレーで信じられない凡ミスをするといったところがあったのです。私はなおみに常に集中力を持続できるようになってほしかった。そのため、漫然と練習を繰り返すのではなく、目的を明確に示した上で毎日のトレーニングに臨んでいました」
その結果が最高の形で表れたのが、’18年9月の全米決勝だ。相手は史上最強の呼び声高いセリーナ。しかも、セリーナが審判に文句をつけたことで、会場は異様な雰囲気となっていた。だが、ブーイングが響くなかでも、大坂は冷静だった。
「正直、あの決勝はあまり記憶がないんです。複雑な感情が入り乱れて……。覚えているのは、泣き出しそうな顔で私のほうを見たなおみに、スマイルするよう合図したことだけ。ただ、彼女はあのとき、日本のためでもなく、家族のためでもなく、間違いなく自分のためにプレーしていました。全米を制覇するという自分の悲願のためだけにプレーしていた。だからこそ、プレッシャーのなかで集中力を持続できたのでしょう」
サーシャ氏を’19年2月に突如解任して以来、大坂は不調が続いている。前コーチは現状をどう見ているのか。
「(解任は)青天の霹靂(へきれき)でした。その理由について私は知りませんし、語るべきことはありません。ただ、現在のなおみの調子は、あまり悲観することはないと思います。世界一で居続けられる選手はいませんからね。苦境を抜け出し、再び自信をつけられれば、なおみは100%グランドスラムを取れる。彼女はとてつもなく強いですから」
大坂は9月13日、突然、現在のコーチを解任した。もし、もう一度コーチ就任の依頼があった場合は?
「わかりません。いまは別の選手のコーチをしていますので、そちらに集中したいと思っています」
サーシャ氏と再びタッグを組み、世界の頂点に返り咲く日が来るかもしれない。
『FRIDAY』2019年10月4日号より
- 取材:大野和基
- 撮影:濱﨑慎治
- 写真:アフロ、大坂のインスタグラムより