ノーベル賞獲れるか!「ブラックホール撮影成功」に世界が注目
10月8日に物理学賞発表 日本の第一人者・本間希樹教授が語る「確率は五分五分」
「今回のブラックホール撮影成功がノーベル賞を獲るかどうか。僕の勝手な読みですが、確率は現在のところ五分五分だと見ています」
今年4月に全世界同時発表された「ブラックホール撮影成功」。その日本での発表者として登壇し、一躍時の人となった本間希樹(まれき)・国立天文台水沢VLBI観測所長は本誌のインタビューにこう語る。
「ノーベル物理学賞は、理論を提唱した研究者が受賞して、それを観測して実証した人はあまり受賞しないというイメージが一般的にあります。確かに非常にシビアな考え方からすると、ブラックホールが見えたのは、『アインシュタインが提唱した一般相対性理論の予想どおり』なんです。だから物理学的に新しいことはあまりない、という判断はありえます。
しかし今回の撮影成功は、社会的なインパクトがあまりにも巨大だった。発表後、ブラックホールは一種のブームになりました。これは日本だけではありません。観測は国際プロジェクトだったので、世界6ヵ所で同時に発表したわけですが、関わった世界中の研究者たちに講演やテレビ出演の依頼が殺到したんです。講演をしすぎて過労で倒れた研究者もいました。実をいうと、海外だけの話じゃなくて、僕も倒れたんです(笑)。
そんな一大ムーブメントを起こした科学の成果はこれまでほとんどないし、たった1枚の写真がこれだけ一般社会で強いメッセージを伴って受け入れられることもありませんでした。それをノーベル委員会が無視するということはないのではないかという気がするのです。
物理学的な考え方と社会的に与えた影響のどちらを指示するか。その意見が物理学界内では拮抗していて、だから僕は五分五分だと考えているのです」
347名のうち受賞できるのは3名
ブラックホールを観測するために結成された「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」プロジェクトには、米国、欧州、アジア、南米などの研究者が関わった。9月6日にはEHTの偉業に対して国際的な賞である「基礎物理学ブレークスルー賞」が贈られたが、その対象者はなんと347名だ。だが、ノーベル賞の受賞者は、慣例として1分野で3名まで(存命者に限る)となっている。もしブラックホールが受賞するとしたら、誰が獲るのか? 本間教授が続ける。
「それが大問題なんですよね。ブレークスルー賞は賞金300万ドル(約3億円強)を347名全員で公平に分けまして、僕も100万円弱を貰えることになっていますが、ノーベル賞はそういうわけにいきません。EHTの代表者であるシェップ・ドールマン(米ハーバード・スミソニアン天体物理学センター教授)は間違いなく受賞対象になると思います。彼は全体のリーダーですし、満場一致ですね。
ですが、あとの二人が、ちょっとわからない。科学者だって人間ですからね。今、実名は伏せますが、『ナンバーツーは自分だ』と活動をしている人が、あちこちの国にいるんです(笑)。皆なんとかノーベル賞受賞枠に入りたい。逆に見れば、そういうPR運動が起きるということは、皆、ノーベル賞がくるかもしれない、と内心思っている証左ではありますね」
ちなみに、「僕は絶対に選ばれない」と科学者らしく冷静に断言する本間教授だが、だからといってノーベル賞に興味がないわけではもちろんない。
「ノーベル賞の選考方式も二つの考え方があるんですよ。ひとつは3名ともブラックホールを観測した僕たちのプロジェクト内部の人という可能性。あとは観測から1名、理論家から1名、それと関係する研究分野で1名、という方式です。
実は僕も、過去20年ぐらいのノーベル賞を調べたりしました。そうしたら、やっぱり過去の受賞事例と比べてみても『成果を誰でも知っている』という意味では、ブラックホールのインパクトはすごい。そういう意味では候補になりうるんだろうな、と改めて思いました。
僕自身は受賞しないでしょうが、シェップ(・ドールマン教授)が獲ったら、さすがに授賞式には呼んでくれると思います。これでノーベル賞形のお土産チョコだけだったら、それは抗議しますよ、僕(笑)。晩餐会ぐらいは呼んでほしいです」
今年のノーベル物理学賞発表は、10月8日。その結果に世界中が注目している。


『FRIDAY』2019年10月18日号より
撮影:濱﨑慎治写真(シェップ・ドールマン):時事通信