八ッ場ダムは首都圏水没を救った? 20年にわかる本当の治水効果

ドローン撮 もしこのダムがなかったら、首都圏は水没していたかも

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台風19号によって一気に満水になった八ッ場ダム。まだ水を溜め始めた段階だったので奇跡的に雨水をすべて貯水することができた

茶色く濁った水面に浮かぶ大量の流木やプラスチックゴミ。高さ116mのダム本体から勢いよく吐き出され、吾妻川下流に向けて流れ落ちる濁流――。溢(あふ)れんばかりの水を湛(たた)えているこの場所は、群馬県長野原町にある八ッ場(やんば)ダムだ。

10月20日、本誌は満水になった八ッ場ダムをドローンで撮影した。すると、昨年10月時点ではまったく水が入っていなかった部分に、大量の水が溜(た)まっていた。

(2枚目写真)

日本列島に甚大な被害をもたらした台風19号。全国71の河川が氾濫(はんらん)、135ヵ所の堤防が豪雨によって決壊し、各地で浸水被害を引き起こした。そんな中、八ッ場ダムは関東地方を流れる利根川の氾濫を大きく抑え、首都圏を水没から守ったとして注目を集めている。

「利根川下流域の住民の方々から、『ダムが水を堰(せ)き止めたおかげで家屋が浸水しなかった』という感謝の声が届いています」(国土交通省関東地方整備局・八ッ場ダム工事事務所の遠藤武志副所長)

建設当初から八ッ場ダムを見続けているという男性も、満水になったダムの様子に息を飲む。

「貯水域の広さは約3㎢もあるのに、それが2日でいっぱいになるなんて、日本のダムで初めてのことなんじゃないでしょうか。これだけの量の水がそのまま利根川を通って首都圏に流れ込んでいたら……なんて想像すると、ゾッとします。建設を巡っては紆余曲折があったけど、今回これだけの働きをしたのだから、結局は作って良かったのかもしれません」

次は大水害が起こる可能性も

利根川上流にある吾妻川沿いに八ッ場ダムを建設する計画が持ち上がったのは、今から67年前の’52年。人家はもちろん、名湯・川原湯温泉街や国指定の名勝・吾妻峡が半分も水没することなどから地元住民の激しい反対に遭(あ)い、’09年の民主党政権のときに一度は建設が中止されている。しかし、’11年に工事再開が決定し、今年10月には実験的に水を溜める「試験湛水(たんすい)」が始まっていた。試験湛水を始めたばかりで水位が低いこのタイミングだったからこそ、奇跡的に河川の氾濫を抑えることができたのである。

「ダム周辺では10月11日の深夜2時から13日朝5時にかけて347㎜の猛烈な大雨が降りました。たった2日余りでダムの水位は約54m上昇し、ほぼ満水位まで到達したのです。溜まった水量は7500万㎥(25mプール約20万杯分)にも上ります」(国土交通省水管理・国土保全局治水課の里村真吾企画専門官)

だがその一方、今回は運が良かっただけであり、手放しには喜べないと考える人々もいる。東京都環境科学研究所・元研究員の嶋津暉之(てるゆき)氏はこう語る。

「今回は7500万㎥の水が溜まりましたが、’20年3月に本格運用が始まれば、洪水時に貯水できる空き容量は6500万㎥になる。しかも、非洪水期(10月6日~6月30日)にはさらに空き容量が減る。次に豪雨が襲ってくれば、短時間で満水になり、緊急放流に追い込まれることになります。利根川流域で大規模な水害が起こる危険性もあるのです」

嶋津氏によれば、ダムだけでは十分な治水の効果は期待できない。だからこそ、すでに国で定められている治水工事を早急に進めるべきだという。

「川の上流にダムを作ったとしても、下流へ行けば行くほど治水効果は弱くなります。今後の水害を防ぐためには、ダムに頼るのではなく国の河川整備計画に沿って、利根川の川底を掘削(くっさく)するほうが治水には効果的なのです」(嶋津氏)

地元・群馬県長野原町の住民も、今後の八ッ場ダムの治水効果については冷静な見方をしている。

「ダムができる前は、大雨でゴルフ場や駐車場が浸水することもありました。今回はそれが起きずに復旧費用もかからなかった。そう考えると、周辺の町が水底に沈んだことも、ダム建設に5300億円もの大金がかかったことも、ムダではなかったのかもしれません。ただ、水嵩(みずかさ)の高い時期に豪雨がやって来たら、緊急放流せざるを得ない状況になるかもしれない。被害がなかったことを喜ぶ前に、次に豪雨が来たときのために備えることのほうがより大事なのではないかと思います」(地元のうどん店店主・中島泰さん)

八ッ場ダムは本当に必要だったのか。その真価は来年の本格運用開始以降に問われることになる。

’18年10月26日時点でのダム工事現場。本誌が照合したところによると、白線内の部分が現在水に沈んでいる
満水になった八ッ場ダムを見物しに来た一般の人々。台風19号によって2日間で7500万㎥もの水が溜まった

『FRIDAY』2019年11月8日号より

  • 取材・文・写真桐島 瞬

Photo Gallary3

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