CM冬の時代・高畑充希『同期のサクラ』に視聴者クギ付けの理由

“ターゲット層を絞る”というドラマの新戦略をどこよりも詳しく分析

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テレビ局の広告収入が、大きく痛み始めている。

東京キー5局の合計では、今年度上半期(19年4~9月)は前年比で4%以上落ち込んだ。先月下旬に行われたキー局社長の定例会見では、「(10月は)上期以上に厳しい状況」と吐露する社長もいた。テレビ広告は、本格的な冬の時代を迎えている。

そんな中でテレビドラマも、視聴者のターゲット層を明確にすることで、状況に対応しようとする動きが出ている。その典型が、高畑充希主演『同期のサクラ』だ。

世帯視聴率で見ると、今クールのトップ3に入れていない。ところがネット接続テレビの視聴者層では、俄然トップクラスに躍り出る。

何が起こっているのか、分析してみた。

世帯視聴率の動向

テレビ番組の世界では、制作者は世帯視聴率を上げるため、幅広い世代に見てもらうことに務めて来た。

今クール(19年10月)GP帯(19時~23時)の民放連続ドラマ14本の中では、平均が18%台の米倉涼子『ドクターX』が首位。15%ほどの水谷豊『相棒』が2位。いずれも人口の多い65歳以上によく見られる番組だ(図1)。

(図1)秋ドラマの世帯視聴率推移〔ビデオリサーチ関東地区データ〕から作成

そして木村拓哉『グランメゾン東京』は12%で3位。やはり中高年に強いドラマだ。

いっぽう高畑充希『同期のサクラ』は、沢口靖子『科捜研の女』にも後れを取って5位に留まる。

ところが初回からここまでの展開をみると、上位のドラマは軒並み数字が下落傾向にあるか、横ばいだ。そんな中、唯一『同期のサクラ』だけが上昇基調を保つ健闘ぶりをみせている。

『家政婦のミタ』『教室の女王』など、“あり得ないキャラクターの主人公”を数多く描いてきた脚本家・遊川和彦が、今回は“正しいと思ったこと”“自分にしか出来ないこと”をやり抜く“忖度しないOL”サクラを主人公に据えた。

彼女のKYぶりは、視聴者の中でさえ敬遠する人がいる。同時に納得できる存在として、多くの人々を感動させてもいる。高畑充希の演技力も大きいと言えよう。

筋の通った生き方と、人々を感動させるスピーチ力も魅力だ。ただし正しいがゆえに、どんどん不遇となっていく展開に、視聴者は涙が止まらない。

結果として、これまで遊川和彦が紡いだ“あり得ない主人公の物語”と同様、回が進むごとに視聴者を増やしている。

デジタル環境下での番組評価

紹介した世帯視聴率は、ビデオリサーチ(VR)が関東地区900世帯を、人口構成に近い年齢構成でサンプル化して計測した数値だ。つまり母集団には、65歳以上の高齢者も、実態通りたくさん入っている。

ところがインターネット環境が整う人々を前提に、テレビの視聴状況を調べると、各ドラマの見られ方は大きく違ってくる。

例えば関東で2000世帯50000人を調べるスイッチ・メディア・ラボの調査では、序盤こそ『ドクターX』や『グランメゾン東京』が先行したが、中盤で『同期のサクラ』が追い付いた。VRの世帯視聴率と結果がかなり違う(図2)。

(図2)秋ドラマの個人視聴率推移〔スイッチ・メディア・ラボ 関東地区データ〕から作成

さらに若年層の個人視聴率で各ドラマを比較すると、成績は逆転する。

3ドラマは2層(男女35~49歳)ではほぼ互角だが、1層(男女20~34歳)やFT(女性13~19歳)では、『同期のサクラ』が他2ドラマを引き離す(図3)。

(図3)秋ドラマ コアターゲットの個人視聴率

つまりVRの世帯視聴率で『ドクターX』が高いのは、65歳以上の高齢者によく見られている結果で、1層・T層の若年層では、俄然『同期のサクラ』が上をゆく。

ここ数年、広告主のテレビ広告に対する視線は厳しくなっている。

広告効果が小さい高齢者ではなく、若年層がよく見る番組を重視するようになっているからだ。こうした状況に対応して、日本テレビは番組のコアターゲットを13~49歳に据え、若年層に見られる番組制作に力を入れている。

かくして高齢者を含めた世帯視聴率では5位だが、コアターゲットではトップクラスとなったのである。

見られ方の好循環

「若年層で好調」だけに留まらない。

実は毎話の見られ方と次回へのつながり方で、『同期のサクラ』では好循環が起こっている。

例えば序盤から終盤にかけて、視聴者は毎回増えている(図4)。

(図4)『同期のサクラ』『ドクターX』の接触率推移-各話の冒頭とラストの比較-

関東地区で50万台以上のネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージ「Media Gauge」によれば、いつも接触率が右肩上りになる。つまり途中で見るのを辞める人より、途中から入って来る人の方が多いのである。

要は視聴者の心をつかみ、テレビの前に釘付けにする力のある物語なのである。

ただし毎話が右肩上りという現象だけだと、『ドクターX』の方が上昇ぶりは極端だ。波形だけで判断すると、こちらの方が“強烈に視聴者の心を掴んでいる”と評価しなければならない。

ところが各話を次回との関係で見ると、単純にそうは言い切れないことがわかる。

例えば『ドクターX』初回のラストは、接触率が12%まで上がった。ところが2話の序盤は7%台に落ちて、終盤で再び12%に戻している。そして3話序盤は6%台と半減し、やはりラストに向け急伸する。

視聴データが示すドラマの見られ方

こんな風に『ドクターX』は1話の中で大きく数字を上げるが、次回の冒頭で元の木阿弥になっている。

実は同ドラマは1話完結で、“現代の水戸黄門”と言われるほど、パターンが決まっている。その結果、視聴者は番組開始の9時に律儀に見始めていないことが多い。

一方『同期のサクラ』では、プロ野球日本シリーズで開始が50分遅れた3話を除くと、次回のスタートは前回のラストから大きく落ちていない。各話途中で見始めた視聴者が、そのまま次回以降も継続して見ていることが多い。世帯視聴率右肩上り基調は、こうして出来上がっていたのである。

両ドラマの見られ方を際立たせるもう一つのデータが、流入率と流出率の差だ。
ちょっと複雑なグラフになってしまったが、緑が『同期のサクラ』茶色が『ドクターX』。色の薄い折線グラフが流出・濃い色が流入だ(図5)。

(図5)『同期のサクラ』『ドクターX』の流出率推移

まず際立ったのは、序盤の『ドクターX』では、流出がほとんど発生していないこと。

第6期を迎えた同ドラマでは、高齢者の比率が高いこともあってか、毎話最初から見る人はほとんど途中で止めない。視聴習慣が定着した人がかなりいる証拠だ。

ところがCMの際に、大量の流出が発生している点が目立つ。しかもCMから数分、ドラマに戻って来ない人が少なくない。視聴者の物語への集中力が希薄なのでは、と疑わせる。

同ドラマの「1話完結」と「毎回同じパターン」は、視聴率を高く維持するための工夫だった。ところが長寿シリーズになるにつれ、視聴者は「全部見なくてもわかる」と言わんばかりに、漫然と見ている可能性がある。

一方『同期のサクラ』は、1クールを通じてストーリーが展開する物語だ。

まず冒頭10分での流入が大きいが、「最初から見よう」と意識している視聴者が多い。そしてCMでも流出する人が少ない。さらに中盤から後半にかけて、流出より流入が多く、ラスト直前でも流出が大きくならない。

要は物語の展開が視聴者の心をつかみ意識を外させていないこと。

さらにラストで、出演者のテロップが流れる最中にも重要な展開で構成しており、しかも次週予告も見たくなるような作りが効いている。

このエンディングの吸引力が、次週も番組の最初から見る人を増やしているのだろう。

心を動かされる展開

再びスイッチ・メディア・ラボのデータに戻る。

初回から7話まで、特に上昇が目立つ層をピックアップしてみた(図6)。社会人として働き始める20代を描いたドラマだが、中高生や大学生に注目されている。

(図6)『同期のサクラ』層別個人視聴率の推移〔スイッチ・メディア・ラボ関東地区データ〕から作成

さらに同世代の女性と、会社員が大きく反応している。やはり“自分ごと”として見られる若年層や会社員には、身につまされる物語になっていることがわかる。

本稿の前半で、「日本テレビはコアターゲットを13~49歳に据え、若年層に見られる番組制作に力を入れている」と述べた。同ドラマはその狙い通り、若年層を集めている。

同時にF2・F3-(女性35~64歳)も同じように獲得している。若年層と一緒に番組を見る、いわゆる随伴視聴がかなり起こっていると想像される。

つまりコアターゲットを設定しても、一緒に親世代を取り込めるので、結果として広い層にも見られるという戦略のようだ。

さて物語はこれから終盤。

これまで同期の仲間などを立ち直らせてきたサクラ(高畑充希)だったが、「故郷に橋を架ける夢」と「唯一の肉親・じっちゃん」を一度に失い、強い喪失感に襲われ立ち直れなくなっていた。仲間がいろいろ手を尽くすが、泥沼から抜け出すことが出来ない。

“自分の正義”を貫くことと“組織の論理”との齟齬が極大化した結果、人はどんな局面に立たされ、その次の一歩はどうあり得るのかが描かれることになろう。

残念ながら極端な物語ゆえ、筆者には全く想像ができない。

それでも“あり得ないキャラクターの主人公”という補助線で、遊川和彦は人間社会という図形の回答を見せてくれるに違いない。

それが何なのか。気になって仕方ない。

  • 鈴木祐司(すずきゆうじ)

    メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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