東大合格者41人の超進学校・県立浦和ラグビー部 花園勝利へ秘策
「早く、ボール出せ! 早く!」
「低くタックルしろよ!」
夕陽のさすグラウンドに、ラガーマンたちの声が響く。今年6年ぶり3回目の全国大会(大阪府・花園ラグビー場)出場を決めた、埼玉県立浦和高校ラグビー部の選手たちだ。
浦和高は埼玉県随一の超進学校だ。今年の東大合格者数は41人を数え県内最多。京大、一橋、東工大など難関国公立大にも、2ケタの合格者を出している。スポーツ推薦はない。ラグビー部には51人の生徒が在籍するが、中学までにラグビー経験のある選手は各学年に1人ずついるだけ。なぜエリートばかりの秀才校が、経験者を多く集める強豪校を押しのけ花園出場を果たせたのか。監督の三宅邦隆氏(38)が話す。
「確かにウチの生徒たちは頭がいい。ある程度の努力をすれば、ソコソコの成功が得られるということがわかっています。しかし全国大会を目ざすなら、限界を超えなければなりません。入部してきた選手には、まずムリを強います。例えば毎年7月と8月に菅平高原(長野県)で夏合宿を行いますが、1時間近くひたすらランパス(数人一組が全力で走りながらパスする練習)を繰り返させる。キツイ練習で、中には泣き出す選手もいます。非効率的かもしれませんが、『この程度でイイや』という考えを捨てさせ優等生意識を壊すんです。限界を超えれば精神的に強くなれる。ツラい状況にも耐えるタフさが身に着くんです」
練習中、三宅監督が口を出すことは少ない。基本的に選手任せだ。
「選手から『どうしたらいいでしょう』と聞かれても、『それは自分で考えなさい』とあえてつき放しています。アドバイスしたい気持ちをガマンしてね。『勝つためにこうしろ』と指示するのは簡単です。しかし監督主導になると、選手は指示待ち人間になり成長しない。だから練習中から5~6人一組の“チームトーク”をさせ、常に自分たちで状況判断をさせるようにしています。あえて失敗させ、解決策を自分たちで考えさせているんです。自分で考えることに慣れれば、どんな状況でも的確な判断ができるようになります」

フィジカル面でのサポートも欠かさない。
「中には、中学まであまりスポーツをやったことのない生徒もいますからね。女子栄養大の先生と組んで、定期的に食事調査や栄養指導を受けています。効率的な食事のおかげで、3年間で20㎏も体重が増えて選手もいるんです。とは言え、強豪校との体格の差はあらがえません。実力が上の相手に気持ちよくプレーされれば、簡単にディフェンスラインを突破されるのは当たり前。だから考える時間を与えず、速くタックルする。一歩でも前でコンタクトして、攻撃態勢をとらせないようにしています」
浦和高のモットーは勉強、部活、学校行事の「三兎を追う」こと。平日の練習は夕方6時までの2時間半ほどで終え、選手たちは夜9時まで解放されている教室や図書館で勉強に励む。
「部活のために、勉強が疎かになっては困りますからね。選手たちには、練習と勉強の時間配分も自分で考えるように指導しています」
今春はラグビー部から浪人の末、東大2人、京大2人、一橋1人、東工大1人の合格者が出た。現役の部員も難関大志望だ。SH(スクラムハーフ)の宮崎隆之介君(3年)が話す。
「ボクは東大に行きたいです。ラグビーと勉強以外していません」
京大工学部を志望するのは、LO(ロック)の阿讃坊元(あさんぼう・げん、3年)だ。
「練習後はずっと学校で勉強しています。家に帰ったら寝るだけですよ」
参考書持参で花園に乗り込む“ウラコー”。全国有数の進学校が、12月27日から始まる全国大会で初勝利を目指す。




撮影:西崎進也