批評サイト0点の『死霊の盆踊り』 傑作ダンス映画として再発見!

実は“オッパイ・スペクタクル”ともいうべきヌード・ダンス映画の傑作だった!  映画評論家・江戸木純

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『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome

世の中につまらない映画やくだらない映画、駄作に失敗作は数えきれないほどたくさんある。だが、そんなヒドさやバカバカしさも、極めればそれが信じられない魅力となり、どうしようもない欠点が面白さにまで昇華して、ひとつの“芸術”となる。

100年を超える映画史の中にはそんな奇跡のような映画が何本かある。

『死霊の盆踊り』(原題:ORGY OF THE DEAD)もそんなサイテー映画の1本だ。この映画は、今から54年前、1965年にアメリカで製作された。

深夜にドライブをしていたカップルが事故を起こして墓場に迷い込んだところ、狼男とミイラ男に捕らえられ、闇の帝王の主催により墓場で行われていた幽霊美女たちのストリップ大会をえんえんと見せられ、生贄にされそうになるという、書いていてもバカバカしくなる珍妙な物語。

『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome

登場する幽霊美女たちは、炎を愛した女、街娼だった女、黄金を愛した女、猫を愛した女、奴隷だった女、闘牛を愛した女、蛇と煙を愛した女、骸骨と踊る女、ゾンビ女、羽飾りを愛した女の10人。ネイティブ・アメリカンの民族音楽に始まって、メキシカン、ハワイアン、アラブ系に、ムード音楽などなど、様々な曲に合わせ、それぞれのコスチュームを着た幽霊女たちが現れ、トップレスとなって踊る。ひたすら踊る。但し、下は脱がないし、ほとんどワイセツさもない。因みに映倫指定は、老若男誰でも見られるG。これは極めて健全なサイテー映画なのだ。

但し、物語も展開も単調で抑揚はほとんどなく、ただ踊りばかりが続くので、間違って物語や怖さを追いかけたりすると途方に暮れ、正直すぐに飽きてくる。とにかく、幽霊女たちは次々に登場して裸踊りを続ける。カップルは墓石に縛りつけられ、それを無理やり見せられるが、観客はその終わりの見えない拷問と同じ苦痛を味合わされる。

ところが、そのとてつもない退屈の果て、見る者の脳はしだいにトランス状態となり、単調だったはずの裸踊りが快感になってくる。そして、91分の映画を完走したとき、見た者にだけ訪れるその開放感と爽快感は感動的でさえある。これはそんな、不思議な怪作なのだ。因みに、100%フレッシュを満点として評価するアメリカの映画批評サイト、ロッテン・トマトでは見事0%フレッシュという、名誉ある?サイテー評価を受けている。

原作・脚本は、ティム・バートン監督の映画『エド・ウッド』(1995年)で有名となった“映画史上最低の映画監督”エド・ウッドことエドワード・D・ウッド・Jr.。監督はさせてもらえず、低予算のお色気映画を数多く作ったプロデューサーのA・C・スティーブンが演出も兼ねた。

そもそもなぜ、半世紀以上前にこんな映画が作られたのか?

舞台も設定もホラー映画の体裁をとってはいるが、実際にはこの映画の正体は、裸を見せることを目的にしたヌード映画。つまり映画で見るストリップ・ショーなのだ。ポルノ解禁前の60年代のアメリカでは、ヌーディ映画、ヌーディ・キューティと呼ばれるこうした作品が数多く作られていた。当初はこの映画も場末の2番館、3番館、ドライブイン・シアターなどで上映されていたが、特異な設定と奇妙な味わいからカルト的な人気作を持つようになり、80年代中盤のVHSビデオ・ブームに乗ってアメリカでビデオ化され、世界的なカルト・ムービーとなっていった。

日本では87年に初めて劇場公開され、その後ビデオ化された。この邦題は、その際にこの映画の配給会社の社員だった私(江戸木純)がつけたものだ。買い付け担当者はこの映画をサイテーと思って買ったのではなく、ホラーのジャンルで、裸も出てくる、当時ビデオで売れ筋の作品だと思い込み、中身をちゃんと確認せずに買って来ていた。

私はこの映画の商品化を任され、映画を見てあまりのヒドさに卒倒した。そして、苦し紛れに“映画史上最低の映画”と謳って、売り込んだ。

当初は東京ファンタスティック映画祭’87で上映されるはずだったが、中味を見た事務局がやっぱりダメと断りを入れてきた。だが、すでに上映用のフィルムは輸入してしまっていたし、監督のスティーブンは映画祭でやってくれるなら自腹でも日本に行くとチケットを取ってしまっていた。我々は仕方なく、映画祭会場の隣の映画館を借りて上映会を行い、来日した監督には映画祭上映ではないことを黙って舞台挨拶をしてもらった。

「こんなに大勢の観客が、私の映画をこんなに喜んで見てくれたことはこれまで無かった」

満席の会場、観客の熱烈なリアクションに老監督は感動し、涙した。監督は2005年に亡くなったが、彼には最後まであれは映画祭の上映ではなかったとは言えなかった。

当時まだ日本では、「ヒドい映画のダメさを笑って楽しむ」という、すでにアメリカではマニアの間で広まっていた変化球的映画の楽しみ方の上級者コースは知られていなかったが、レンタルビデオ店が全国で急増し、とにかく新しいソフトが求められていたビデオ・バブルはそんな悪趣味をも受け止めて、『死霊の盆踊り』は市場に受け入れられ、限定公開の劇場上映は満員、ビデオは5,000本以上を売る大ヒット作となった。

あれから32年、今回は私自身が権利を買ってこの伝説の映画を再公開することになった。2年前にアメリカでHDリマスターが行われ、信じられないほど綺麗な映像のマスターが完成したことを受けてのことだ。

それまでに私はこの映画を、映像や字幕のチェックを含め、数十回は見ていたが、リマスターされた本編を見て驚いた。映像が半世紀前に撮られたとは思えないほどクリアなだけではなく、映画が締まって見えた。もちろんストーリーが面白くなるなんてことはありえない。それは単調でバカバカしく、ゆるゆるのままだ。だが、前に何度も見たときより映像に力がある。その最大の理由は、画面のサイズにあった。

この映画はスタンダード・サイズ(1:1.33)の35ミリ・フィルムで撮影されており、これまで日本では上映も、VHSとDVDのビデオ発売もすべて真四角に近いスタンダード・サイズで行われてきた。だが、実は撮影監督のロバート・カラミコの設計した上映サイズは本来アメリカン・ビスタサイズ(1:1.85)の横長だった。つまり、正式には上下にマスクをして上映、ビデオ発売すべき作品だったのだ。そうしないと、どうしても作品全体が緩く見えてしまうのだ。今回ハイビジョンによる正式サイズに切ってのリマスターによって、

『死霊の盆踊り』本来の姿がついに明らかになったのだ。

この映画の後、『ドーベルマン・ギャング』(73)やトビー・フーパー監督の『悪魔の沼』(76)なども撮ることになる一流のカメラマンが設計した映像は、ダンサーたちのバストにしっかりフォーカスし、迫力のヌードをしっかり見せる完璧なストリップ映像になっている。だから、話はつまらなくても、当時の売れっ子ストリッパーやベリーダンサーを集めた死霊美女のハイレベルなヌード・ダンスは、見ていてまったく飽きない。それはまさに“オッパイ・スペクタクル”ともいうべき見事な見世物なのだ。特に主人公カップルの女性と黄金を愛した女の二役を演じるパット・バリンジャーのスーパーボディは、夢に出そうな迫力だ。その凄さと圧倒的魅力は、映画館のスクリーンで見ないとわからない。

ハードなポルノやアダルト映像が、ネット上に蔓延している時代だからこそ、大画面で味わうこの映画の美しく健全なヌードは、映画そのものの珍味とともに新鮮かつ稀有な体験であり、間違いなく一生の語り草となるはずだ。

《映画『死霊の盆踊り』ギャラリー》

『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
『死霊の盆踊り』  ©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
  • 江戸木純

    (えどきじゅん)映画評論家、プロデューサー。週刊現代、VOGUE JAPAN、映画.com等に執筆中。

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