バカバカしいのに泣ける! 負け犬メタル映画が世界中で話題のワケ | FRIDAYデジタル

バカバカしいのに泣ける! 負け犬メタル映画が世界中で話題のワケ

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北欧フィンランド発のコメディ映画は、単なる「おバカ映画」じゃなかった!

サンタクロースとムーミンの国・フィンランド

オーロラにマリメッコ、挨拶は「モイモイ」……とほっこり可愛いこの国から、「フィンランドのコメディ映画史上最大規模の巨費を投入した大作」なる映画が届けられた。それが、「あらすじがぶっ飛んでる」と公開前から話題沸騰のヘヴィメタル映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』だ。

映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

実はフィンランドは、人口比率で最も多くのメタルバンドが存在する”メタル超大国”。『ヘヴィ・トリップ』公式ホームページによると、総人口約550万人に対し、約3000組のメタルバンドが活動しているという計算になるらしい。

映画好きをざわつかせたそのあらすじを抜粋すると……「“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル“というジャンルを標榜する、4人組ヘヴィ・メタルバンド」「バンド名はインペイルド・レクタム(Impaled Rektum)※直訳すると『直腸陥没』」「精神科病院からドラマーを誘拐したのちノルウェーへと逃亡」――

これだけ見るととんでもない「おバカ映画」に思えるかもしれないが、本作は2018年に各国の映画祭で話題となり、アメリカの大手映画批評サイト・ロッテントマトでは満足度93%を維持し続けている驚異の高評価。ヘヴィメタルに明るくない人でも楽しめる、笑いと感動のメタル映画なのだ。

舞台はフィンランド北部、自然は美しいけどそれ以外特に何もない田舎の村。
バンドのフロントマンなのに極度の上がり症ですぐゲロを吐くトゥロ(Vo.)
家業のトナカイ解体を手伝う早弾きの名人・ロットヴォネン(Gt.)
これまで2度も死を宣告されたのに何度も蘇ってきた不屈の男・ユンキ(Dr.)
バンドの頭脳的存在で一度聴いた曲は忘れないパシ(B)
4人はバンド結成から12年経つのに、オリジナル曲が作れず未だに人前でライブしたことのない”ライブ童貞”だ。

「コピー曲じゃライブはできない、自分たちの曲を作るぞ!」と意気込んで楽曲制作に励むものの、出てくるメロディはどれも有名バンドの曲に似たものばかり。ところが、ギターのロットヴォネンがやらかしたある出来事がきっかけで斬新なリフが生まれ、そこにボーカル・トゥロの社会派な歌詞(何を叫んでいるかはさっぱり解らないけど……)が見事に乗り、バンド史上初にして最強の名曲が誕生! しかもひょんなことからノルウェーの巨大メタルフェスの主催者と出会い、バンド結成12年目にしてビッグチャンスが訪れるのだが――?

映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

メタルバンドを取り上げた映画といえば、思い浮かぶのは『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』(2009年)。「メタリカ(METALLICA)」「スレイヤー(SLAYER)」など多くのメタルバンドに影響を与えたにも関わらず、ブレイクすることなく忘れ去られてしまったカナダのバンド「アンヴィル」を追った、ドキュメンタリー映画の名作だ。夢を諦めないことの素晴らしさに心打たれる作品だが、「売れないまま消えるバンドだっている」という音楽業界の厳しさを映し出してもいた。

チルドレン・オブ・ボドム(Children of Bodom)」「ソナタ・アークティカ(Sonata Arctica)」「ナイトウィッシュ(Nightwish)」など世界的に有名なメタルバンドを数多く排出してきたフィンランドだが、世に出ることもなく、地元でくすぶったまま一生を終えるバンドマンだって星の数ほどいることだろう。

作中でのトゥロたち「インペイルド・レクタム」メンバーも、村人から見ればそんな有象無象でしかない。自分に自信がなくシャイなトゥロは、地元のヤンキーにサラサラロン毛をからかわれ、メタルバンド=ヤク中という偏見を持つ警察官にいちゃもんをつけられ、いけすかない地元のロックスター・ヨウニにバカにされても、ろくに言い返すこともできない”負け犬”だ。”終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”というヤバそうなジャンルを主張しているのに、メンバーは皆、暴力とは無縁の穏やかで生真面目な奴らというのもじわじわ笑えるポイントである。

渾身の一曲を生み出し、ノルウェーの巨大フェスへ出演する足掛かりもでき、ついに始動したかのように見えた「インペイルド・レクタム」。しかしその先には、バンドの解散、更にはメンバーの死という哀しい出来事が待っていた。だが、本作がその真価を見せるのはここから。

ジャスティン・ビーバーをいじったり、観客にゲロをぶっかけたりといった笑いを交えつつも、これまで意外と丁寧に、そして誠実に「パッとしない田舎のメタルバンド」の姿を描いてきた物語は、ノルウェーを目指す新生「インペイルド・レクタム」VSフィンランド警察&ノルウェーの国境を守る”デルタ部隊”という、まさかの展開へと突入する。

逃亡劇あり、決死のダイブあり、なぜかバイキングとの遭遇あり、ロマンスあり……北欧の大自然を背景に、「フェスに出る!」という強い意志でもってノルウェーへと突き進むメンバーたち。失敗を恐れ、いつもあと一歩を踏み出せなかったトゥロが、渾身の想いでひねりだすデスボイスは、思わず”メタル・ポーズ”をキメたくなるほど痛快だ。これは、周囲から尊重も理解も得られず、田舎でくすぶっていた崖っぷち青年たちが、恥も後悔もなく堂々と夢を掲げてみせる物語だったのだ。

映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

世界中の映画祭で観客を沸かせたのも納得の本作。音楽を担当しているのは、フィンランドを代表するヘヴィ・メタルバンド「ストラトヴァリウス (Stratovarius)」ラウリ・ポラー。劇中でのメタルチューンは流石に本格的だ。しかし冒頭でも述べた通り、ヘヴィメタルや北欧メタルバンド事情に詳しくなくてもまったく問題なく楽しめる。

ラスト、投げかけられる一言に思わずニヤリとし、「アイツら、やりやがった!」となんだか誇らしく爽快な気持ちで劇場を後にするはずだ。

 

『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』公式サイト

12月27日(金)よりシネマート新宿&心斎橋ほかにてロードショー

映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 フォトギャラリー

映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』フライヤー © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
映画『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』フライヤー © Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
  • 取材・文大門磨央

    石川県出身。雑誌やWEBを中心に漫画、アニメ、映画などのコラムを執筆中

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