元プロ選手の早大監督対談 小宮山悟×外池大亮「指導者の役割」

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早稲田大学野球部・安部寮にて。左が野球部・小宮山悟監督、右はサッカー部・外池大亮監督(撮影・児玉幸洋)

ロッテやメジャーリーグなどプロ野球界で20年活躍した小宮山悟氏が今年、2015年以来優勝から遠ざかる早大野球部の監督に就任した。しかし、東京六大学リーグ戦で春、秋ともに3位。プロの一線で長く活躍した小宮山監督がどう再建するか注目が集まるが、指導の現場は簡単ではない。元プロサッカー選手で、昨年は就任1年目でサッカー部をリーグ優勝に導いた外池大亮監督との対談を通して、指導理念や今年話題になった佐々木朗希の起用法、J1湘南のパワハラ問題についての意見を聞いた。

――小宮山さんは監督1年目の今年、悔しいシーズンになりました。

小宮山「今年は選手にやりたいようにやらせました。高校野球でもプロと同じような試合の進め方をしている学校もあるので、学生はもう少し野球を知っていると思っていましたが、知っていると言えるのは数名ぐらいかな」

外池「サッカーはJリーグの下部組織が育成年代の中心にいます。ユース出身者が半分近くいるので、こちらが考えている以上に、サッカーとは何かというこだわりを持っている。逆に(サッカーをJクラブ目線で教わり尽くしていない)一般の高校から来たメンバーと融合させることによって泥臭さみたいな部分も浸透させたいんです」

小宮山「なるほどね。大学のレベルを想定して指導をしても、どうしてもプロの水準で比べてしまう。なので、そのギャップをどう埋めるかという葛藤がありましたね。選手を捕まえて手取り足取り教えたら、簡単に身についたのかもしれないけど、それでは個性を殺しかねないので、あえてアドバイスはしなかった。だけど、来年は基本的にはひっくり返そうと思っています」

――ひっくり返すとはどういう意味ですか?

小宮山「教えるべきところは、ひとつひとつ教えるということです。評論家時代、アメリカの(メジャーの)試合を毎日見させてもらっていたので、いろんなシーンに対する判断力はあると思っています。今年、大学の試合でも2手3手先を見て采配していたつもりですが、学生が消化しきれていなかった可能性もあるので、場面ごとに的確なプレーができるように指導したい」

外池「そこは難しいですね」

小宮山「でもね、教えたことをモノにできるよう努力した選手は報われる世界なんだということも証明したい。4年生に早実出身の田口(喜将)という外野手がいました。バッティングがいいんですが、実はイップス(おもに精神的な要因で思い通りの投球ができなくなること)で苦しんでいた。ただ秋のリーグ戦は開幕から3試合連続無失点と打線が苦しんでいたので、途中からスタメンで使いました。バックホームの投球は『直径2mの輪の中に投げられればいいからとにかく頑張れ』と。彼は毎日残ってスローイングの練習をしていましたし、結局、ベストナインにも選ばれた。その時は本当に嬉しかった。そういう4年生がいたことは、必ず来年に繋がると思います」

――指導者の選手への接し方が問題提起されることが多くなりました。今年は早稲田大OBでもあるJ1湘南の曺貴栽(チョウキジェ)前監督のパワハラが大きな問題になりました。

外池「曺さんのことは知っていますし、理解しているつもりですが、この問題はサッカー界が注目される存在になったからこそ、サッカー界の中だけでとどめておけなくなってしまったということだと思います。社会が多様化していて、大学生がサッカーを続ける理由も様々です。だから、僕は学生への接し方に関して、あらゆる基準があることを考慮して、常にニュートラルでいることを一番気をつけている。僕らが学生時代は理不尽が普通で、理不尽を超えた先に社会で生きていく術があると言われていましたが……」

小宮山「報道でしか内容は把握できていませんが、こういうご時世なのでパワハラと認定される行為はいけないことです。でも曺監督のすべてを否定する、という気持ちではない。曺監督が厳しい指導者として有名なことは、野球界にいる僕ですら知っていました。実際、批判する声がある一方で、『愛情しか感じなかった』とフォローしている選手もいますから。ただ、厳しくただすときに必要以上の圧力をかけてはいけない。たとえば僕は学生の時から下級生に対して手をあげたことは一度もない。だけど緩慢なプレーをした選手がいたとしたら、一時的に野球を取り上げてしまう考えを持っています」

外池「僕は今、スカパーに勤務する会社員でもあるので企業側の意見を言わせてもらうと、理不尽を耐え凌ぐみたいな、体力があって言われたことは何でもする古い体育会系はもう求められていない。自発的に行動できたり、グループの中でリーダーシップが取れたり、協調性があることが評価される。僕が監督に指名されたのは、プロと社会人の両方を経験し、中立的な目を持っているからだと思っています」

小宮山監督は大阪桐蔭出身の内野手、中川卓也(右)を結果が出なくても使い続けた(写真:時事通信)

――野球界でも、今年は佐々木朗希投手(大船渡→ロッテ)が県大会決勝で投げなかったことが話題となった。

小宮山「もちろん、現場で近くにいた人間が判断した事だから尊重します。でもね、それを美談として捉えている向きがあることが許せない。故障するから出さないという判断は理解できるけど、その判断で他の選手の夢も奪い取ってしまった。彼はエースであると同時に4番打者でもあったから、私だったら投げさせて、おかしいと感じたら言え、投げ方を見ておかしかったら代えるから、と言います。それが指導者の本当の役割だと思う」

――簡単には答えは出そうにないですね

小宮山「ただ、アマチュアレベルでずば抜けた力を示さないとプロではやっていけないことはいつの時代も同じ。ウチのエースで来年のドラフト候補にもなっている早川(隆久)をこの秋、負けたら優勝の可能性がなくなるカードで3連投させました。プロに行くと想定したとき、プロが何を求めるか、それに応えられるかを見せることも大事だからです。もちろん、早川本人には事前に聞いて『投げられないんだったら無理させない』と言いましたけど、『もちろん投げます』という返事だった。逞しかったですよ」

外池「去年、サッカー部にも最近日本代表に選ばれた相馬勇紀がいました。彼は4年生になってJ1名古屋に特別指定選手として登録されて、大学の試合もJリーグの試合も両方できる立場になった。土曜日、日曜日と試合が連戦になることも当然あって、普通は連日の試合出場は敬遠するんですが、判断は相馬本人に委ねました。両方の試合で勝利につながる活躍ができたことによって彼の自信が蓄積され、常識でははかれないような成長曲線を生んだと思います」

――大学の監督に求められる役割は、結局、何でしょう?

小宮山「社会に出す時に立派な学生として送り出すこと、かな。私たちがプロで培ったスキルを教えることではないんです。野球の試合における監督に求められるのは、ゲームの中で的確な指示を出せるかどうかだけなので。勝てない監督はダメなのかもしれないけど、学生が卒業するときにいい人に巡り合えたなと思われる人もいい監督だよね」

外池「僕は“壁打ち”の役割だと思っていて、例えば試合のメンバーなんかも一旦学生に決めさせる。その答えに対して『どういう意図があるの?』って返すことで“壁”になる。要するにすべてに根拠を求めます。これは将来、社会に出たときにも生かせるスキルなので、彼らのためになると思っています」

戦況を見守る外池大亮監督(撮影:児玉幸洋)

 

  • 取材・文児玉幸洋

    1983年生まれ。三重県志摩市出身。スポーツ新聞社勤務を経て、2011年より講談社のサッカーサイト『ゲキサカ』の編集者として活動中

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