名選手は名監督なるか 早大野球部・小宮山監督が手がける改革 | FRIDAYデジタル

名選手は名監督なるか 早大野球部・小宮山監督が手がける改革

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試合前にシートノックをする小宮山悟監督(写真:早稲田スポーツ新聞会)
試合前にシートノックをする小宮山悟監督(写真:早稲田スポーツ新聞会)

プロ野球界で20年間生き抜いた早大野球部・小宮山悟監督は2年目のシーズンを迎えた。5年ぶりの優勝を託された指揮官は、2018年に就任1年目でサッカー部をリーグ制覇に導いた外池大亮監督との対談を通して、20年は改革を断行していく覚悟を示した。

――新チームの選手たちにはどんなことを話しましたか?

小宮山「とにかく『自分に勝て』『全力で事に当たれ』と。100%の力でぶつかることは、全員が出来ることですから。
主将には今年のドラフト候補にもなっている投手の早川隆久を指名しました。彼の方から『思うようにならない選手に対して、出来る選手がサポート役について何とかしたいんです』と言ってきたんですが『それは絶対するなと。プラスになることはない』と伝えました。下の者に合わせてしまったら、上の者にとっては時間の無駄になる。早川には今のレベルをさらにあげる努力をしてもらいたいし、ほかの選手は早川に置いていかれないように頑張る。要は、全員が歯を食いしばるチームになってほしいんです」

外池「サッカー部は一昨年は関東大学リーグで優勝し、昨年は残留争いをする厳しいシーズンでしたが、何とか1部に残留できた。優勝した翌年に2部に降格するというジンクスが続いていて、選手たちには、こういう時こそ伝統と歴史を感じながらやることが大事だと話し、『歴史的残留を目指そう』と頑張ってもらった。2年間指導する中で、大学スポーツは選手や組織の背中の押し方次第で、学生たちの力をもっと引き出せると感じています」

小宮山「今年はいろいろな改革をしていこうと思っています。ひとつ明かすと、スポーツ科学部との連携です。所沢キャンパスの先生方の中には、肩の疲労度や打つ時の動作を専門で研究されている方がいる。だから所沢にある実験室をそっくりそのまま(野球部のグラウンドにある)東伏見に持ってこれないか、と話をしています。何とかなるかもしれないということなので動き出しています」

外池「それはすごくいいことですね。大学にあってJクラブにないものの一つがアカデミックで、専門性のある分野を持っていることです。僕もヨガの先生にお願いして練習に取り入れたり、マーケティングのやり方を参考にはしています。小宮山さんみたいな方が行動を起こすことは凄いチャンスだなと思います」

――新入生を迎える春になれば、プロを目指して大学スポーツ界に飛び込んでくる学生もいます。指導者としては現実も伝えないといけないと思いますが、プロ経験者として心掛けていることはありますか?

外池「プロ志望を持っている選手はどんどん向かってやればいい。ただ、22歳という年齢までにプロ側から声が掛かっていない場合は、『現実的ではないかもしれないよ』という話はかなりします」

小宮山「やりたいことに対して努力することは尊いことです。ただ、大人がきちんと無理なものは無理だと言ってあげないといけない。でも学生には本当にプロに行きたいんだったら、寝ずにバット振るくらいじゃなと無理だと言います。鳥谷敬(元阪神)が学生時代、室内練習場でどれだけ打ち込んでいたか。僕自身の経験談を話してもあまり意味はない。長いこと(20年間)プロの世界に身を置いてしまったので、仮に『プロはそんなに甘いもんじゃない』と学生に話をしても、説得力がない。プロの厳しさに関しては短命で終わってしまったOBの話の方がより実感が沸くと思う」

外池「サッカーの場合もJ3まで裾野が広がって、1993年に10チームではじまったのが56チームに増え、今では地域リーグも充実してきて、サッカーを長く続けられる環境整備は進んでいます。ただ、大学初任給の半分にも満たない報酬でサッカーを続けることが本当の君たちのためになるのか。学生には、世の中の基準に照らし合わせて考えてほしいです」

小宮山「でも日本のサッカー界って本当にすごい。僕は2014年からJリーグの理事をやらせてもらった時期もあり、『野球界の人間として意見を欲しい』ということで呼ばれていたけど、実際は、野球の一歩も二歩も先に行っている。サッカーは『野球に追いつけ追い越せ』と言っていますが、このままでは野球が置いていかれるなと感じました」

――何が違うんでしょうか?

小宮山「物事を決めるスピード感、対応力ですね。野球界は年に2回、オーナー会議に12球団のオーナーが集まって物事が決まりますが、Jリーグは全クラブが問題意識を共有して、その都度話し合っている。その差ですよ。J1浦和の無観客試合の処分(※)についても1週間ぐらいで決まった。そこスピード感は今の野球界にはおそらく出せないと思う。日本では野球に追いつけと言っていますが、世界規模でみれば、ワールドスポーツはサッカー。あと50年もすれば、どうなっているかわからないですよ」

外池「この間、神宮球場に野球部の試合を観に行かせてもらったんですけど、大学レベルで見るとすごい環境だなと思いました。神宮が大学野球の聖地として確立している。それに比べて大学サッカーは大学と全然関係のない地方で試合を開催している。リーグ戦を行うのであれば、本来前提であるはずのホーム&アウェーの空気感を生み出していかないと大学サッカーそのものが変わらないと思っています」

――今年は野球部にとって特別な意味を持つ年だそうですね

小宮山「早慶6連戦から60年目となる節目の年です。1960年の東京六大学野球秋のリーグ戦で優勝をかけて争った戦いで、今に至るまで語り継がれている。その当時のことを覚えている方にもう一度神宮球場に戻ってきてもらいたいんです。
大学のリーグ戦の1試合ではありますが、早大の初代野球部長の安部磯雄先生は、戦時中から日本の野球の発展に尽力された方で、六大学野球はプロ野球より早く創設された。学生にはその意味を理解して日々過ごしてほしい。やる以上はもちろん勝つことが大事ですが、スタンドに観にきてくださった方からもよくやったといわれる試合、チームを作っていきたいと思っています」

外池「学生には将来、日本をリードする存在になってもらいたいし、僕自身もそういう存在になりたい。選手ともコミュニケーションを密にとっているつもりでいましたが、リーグ戦1部の残留争いをしていた去年、みんなの前である学生から『僕の挨拶が物足りない』と指摘されました。その後、彼に電話で真意を聞くと『外池さんは本当にフランクですが、挨拶は一人ずつ、目を見て返すのが大事だ』と言われちゃったんです。でもそれ以降、学生の心に届くよう、目を見てあいさつするようにしたら、空気が変わったんです。
社会の常識にあてはめれば、学生が指導者にモノ申すのはおかしいかもしれませんが、常識や習わしを疑って学生が行動を起こしたことが僕はうれしくて、あの一件は重い空気を変えるきっかけになりました。これからも学生と共に成長を目指して、いい意味の変化を恐れずに過ごしていきたいです」

(※)2014年3月8日の試合でJ1浦和のサポーターズグループの一部メンバーが、人種差別、民族差別を想起させる横断幕を掲げた事件。試合中、警備員より撤去を求められたにも関わらず、横断幕は最後まで掲出されたため、クラブ側の責任を問われ、Jリーグ初となる無観客試合という処分が下された。

早大・小宮山悟監督は現役時代、メジャーリーグにも挑戦した(写真 アフロ)
早大・小宮山悟監督は現役時代、メジャーリーグにも挑戦した(写真 アフロ)
試合後、選手と肩を組み、校歌を歌うサッカー部の外池大亮監督(撮影:児玉幸洋)
試合後、選手と肩を組み、校歌を歌うサッカー部の外池大亮監督(撮影:児玉幸洋)

  • 取材・文児玉幸洋

    1983年生まれ。三重県志摩市出身。スポーツ新聞社勤務を経て、2011年より講談社のサッカーサイト『ゲキサカ』の編集者として活動中

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