アニメ300本!スタジオの奪い合い、囲い込み、続々新設の理由

アニメ業界:2019年振り返り~2020年展望-2-

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2019年のアニメーション業界は、劇場アニメの興行収入が600億円を突破した。これは『君の名は。』が興収250億円を記録した16年の633億円に次ぐ金額である。一方、テレビアニメの制作本数は17年340本、18年332本と300本越えの供給過剰ともいえる状態が続き、現場からは苦境を訴える声が聞こえる。そんな中、アニメ制作スタジオの「奪い合い」が発生しているという。以下、アニメジャーナリスト:数土直志氏によるレポートには、想像を超えて複雑化するアニメスタジオの現状があった。

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⇒アニメ業界:2019年振り返り~2020年展望-1- 劇場アニメ興収600億円突破 定番超えのオリジナル作品あった? を読む

2019年にアニメ関係者を驚かせた大きなニュースが、サンライズによるジーベックのアニメーション制作事業の買収だ。サンライズは『機動戦士ガンダム』で有名な日本を代表する大スタジオ。そしてジーベックは1995年設立で『機動戦艦ナデシコ』や『宇宙戦艦ヤマト2199』などのヒット作がある老舗である。サンライズは19年春にジーベックの制作事業部門を3億円で買収、新会社SUNRISE BEYOND(サンライズ ビヨンド)を設立してこれを引き継いだ。

ジーベックがプロダクションI.Gも抱える上場企業で業界大手のIGポートの主要制作子会社だったこともサプライズの理由だ。淘汰の激しいアニメーション制作業界だが、系列を超えて同業ライバル社に主要制作部門を丸々譲渡するのは異例だ。これは昨今のアニメーション制作とスタジオを取り巻く環境の潮流を示すものだ。

ひとつは買収するサンライズ側から見える事情だ。実は近年のアニメーション制作本数の急増により、現在、アニメスタジオが奪い合いなのである。「アニメを作りたい!」と思っても、主なスタジオは数年先までスケジュールが埋まっている。アニメスタジオは制作ラインを増やしたいが人材不足は深刻で、それもままならない。買収で制作ラインを増やせるのであれば、大きなチャンスだ。

事業売却したIGポートからは別の業界事情が窺える。アニメーション制作会社の収益バランスがいま大きく崩れていることだ。

スタッフ不足による人件費の高騰。逼迫した制作状況によるリテイクの頻発が追加コストを拡大する。制作のデジタル化も、短期的には投資増大で経営を圧迫する。製作委員会などからの単純な制作受注では赤字になることが増えている。収支バランスの改善が見通せなければ、事業を続けられない。

ふたつの立場は矛盾して見えるが、両者のせめぎ合いが2019年のアニメスタジオを取り巻く状況であった。それだけに様相は複雑である。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』  (C)2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

そこで各社は様々な手を打つ。まずスタッフの囲い込みだ。円滑な制作現場の確保を狙ったスタジオの新設が増えている。12月に新作『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の公開と同時に、片渕須直監督の次回を作る新スタジオ「コントレール」の設立が発表された。慌ただしい動きになりがちな現在のアニメ業界でじっくりと作品作りに取り組むという。

2019年にはDLEも『若おかみは小学生!』で好評だった高坂希太郎監督を中心とした社内スタジオを設立した。新規参入した不動産投資業のいちご株式会社は、いちごアニメーション株式会社を設立した。第1弾は押井守監督が原作・脚本・総監督を務める新作アニメ『ぶらどらぶ』。押井守作品のために立ち上げたとみていいだろう。

有能な監督を抱え込み、じっくりと作品づくりをする。それはかつてのスタジオジブリや細田守監督のスタジオ地図を彷彿させるが、これが2020年以降のひとつの潮流であるのを感じさせる。

「抱え込み型スタジオ」は、監督だけでなく作品単位でも成り立つ。アニメスタジオのWHITE FOXは企画・プロデュースのEGG FIRMと共同出資で、別会社スタジオバインドを設立した。発表では『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』に注力するためとしている。

『宇宙戦艦ヤマト』のライツ管理のボイジャーもstudioMOTHERを設立した。こちらは『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 総集篇(仮)』の制作の現場となる。

安定して人気作品を送り出すスタジオの囲い込みは、資本提携にも表れた。『盾の勇者の成り上がり』、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』を制作するキネマシトラスにKADOKAWAとブシロードが出資した。ブシロードはCGアニメスタジオのサンジゲンにも出資する。

アニメスタジオ新設の勢いは、ここ数年衰えるところがない。異業種・新興企業のアニメ進出が多いのも理由だ。2019年にはゲーム制作の経験者が設立したバイブリーアニメーションスタジオが、早くも『アズールレーン THE ANIMATION』で直接制作を受託・完成させる元請に進出した。

ドワンゴはCG映像制作の事業ブランド「TUNEDiD(チューンディッド)」 を開始、制作スタジオ「TUNEDiD film」を開設する。木下グループ傘下になったガイナ(旧福島ガイナックス)は制作拠点も移動し、より精力的に作品づくりに取り組む。

海外資本のスタジオ設立も近年の流れである。クランチロールは2018年から東京都中野にスタジオを構えるが、いよいよ制作は本格化している。中国のアニメ制作スタジオ彩色鉛筆動漫も、2018年の日本法人Colored Pencil Animation Japan株式会社の設立を経て、東京・町田にスタジオをオープンした。やや変わったところでは、ピクサー出身のアーティスト陣が率いる米国・バークレーのトンコハウスが2020年に金沢市に日本スタジオを開設する。今後、どのような作品が生まれるかが、注目される。

逆に日本から海外に進出するケースもある。Root studioは、日本の新進プロデューサー陣が中国の大連に設立したものだ。大手でもテレビ東京がアニメ共同制作を目的に中国で全額出資の子会社を設立した。アニメでも日本で作ったものの輸出から、自ら現地に出向き、現地向けの作品を制作する時代に入ったのかもしれない。

一方でスタジオの経営の厳しさは増している。制作ニーズが増しているからスタジオは増えているのだが、結果としてブランドを売りに出来る一部のスタジオを別にすれば価格競争に巻き込まれがちだ。それでは本来必要な制作費を充分得られない。アニメ制作が盛況な一方で、スタジオの収支が悪化する理由だ。19年末には2013年設立の新興スタジオのティアスタジオを運営するネクストバッターズサークルの経営破たんもあった。

日本のアニメ制作を維持するために、アニメスタジオの経営環境と制作スタッフの就業環境の向上は、2020年以降も重要な課題になりそうだ。

そしてアニメスタジオでは、2019年の大きな悲劇に触れざるを得ない。7月に起きた京都アニメーションへの放火事件である。死亡者36人と多数の負傷者をだした被害の大きさ、無差別ともいえる残忍性が、多くの人に衝撃を与えた。京都アニメーションは新人育成から長期雇用につなげる独自の制作体制が高く評価されてきたが、その才能の多くが失われ、また残されたものにも深い傷を残した。胸が痛むばかりだ。亡くなられたかたがたの冥福と、残されたかたがたの回復を心からお祈りする。

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⇒アニメ業界:2019年振り返り~2020年展望-1- 劇場アニメ興収600億円突破 定番超えのオリジナル作品あった? を読む

  • 数土直志

    (すどただし)アニメジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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