劇場アニメ興収600億円突破 定番超えのオリジナル作品あった?

アニメ業界:2019年振り返り~2020年展望-1-

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再び大ヒット新海誠監督の『天気の子』、昇り続ける『名探偵コナン』

2019年は劇場公開本数の多さ、そして記録的な興行収入もあり、アニメ界にとっては「映画の年」だった。
最大のトピックは新海誠監督の『天気の子』だ。2016年に『君の名は。』で興行収入240億円超の大ヒットを飛ばした後、前作とかなり変えたテイストで勝負したが、再び140億円超の大ヒットになった。『君の名は。』には及ばないが、過去10年間の邦画興収のトップ2を占める快挙だ。

『天気の子』 ©2019「天気の子」製作委員会

もうひとつ大きなニュースは、劇場版『名探偵コナン』である。ここ数年は毎年歴代興収記録を更新してきたが、シリーズ24作目となる『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)でその期待に応える。興収は94億円を超え、シリーズ最高を実現した。今後はさらにうえ、100億円突破を期待する声もでそうだ。

このほか『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』の55億円超、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の50億円超とヒット作が相次ぐ。アニメ映画の人気を裏付ける。

『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』 ©尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会

映画興行の正式な数字は出揃っていないが、12月下旬時点で2019年公開の劇場アニメの興行収入を概算すると軽く600億円を超えそうだ。これは『君の名は。』の大ヒットがあった2016年の663億円(日本動画協会調べ)に匹敵する。
それは視聴率の長期低減傾向が続くTVアニメや、売上げが激減している映像ソフトと対照的だ。急成長する配信と並び、映画はアニメ視聴の成長分野である。

劇場オリジナル企画で大きく狙った作品は…

もちろん全てのアニメ映画が納得できる結果を出したわけでない。エンタテイメントはリスクビジネスで、思わぬヒットや期待外れはいつものことだ。
そもそも2019年は劇場アニメの公開が例年にも増して多い。過去5年は年間に70~80本台だった公開作品は、19年は100本に迫る見込みだ。そのなかでヒットの目安とされる興収10億円を超えるのは15、6本とみられる。もちろん当初から数億円規模のミドルヒットを狙った作品も少なくない。

それでも公開時に200館~400館の劇場を用意して大きくヒットを狙いながら、期待に達しなかった作品が少なくなかった。『バースデー・ワンダーランド』『きみと、波にのれたら』『ニノ国』『HELLO WORLD』『空の青さを知る人よ』はいずれも興収10億円に届かなかった。興行は14億円を超えた『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』も含めて、もう少し大きな数字が欲しかったに違いない。

期待に達しなかった多くは、評価の高い監督を起用し、テレビシリーズを介せずに映画企画として制作された作品群だ。ファンや識者からは高い評価を受けた作品も少なくない。

むしろ大量に公開されるアニメ映画のなかで、作品のターゲット層の確かな設定が充分でなく、マーケティングもちぐはぐに見えたものも多い。例えば2016年の『君の名は。』の成功モデルを追い、宣伝でSF・ファンタジーのラブロマンスを強調し過ぎた結果、どの作品も同じような印象を与えたこともある。

『名探偵コナン』、『ONE PIECE』、『ドラえもん』『ポケットモンスター』『クレヨンしんちゃん』といった定番ブランドが力を発揮するのは素晴らしい。しかし新しいものを創るという点では、好調な数字だけではない危うさも抱えている。

コアファンの熱量が押し上げた『プロメア』、『うたの☆プリンスさまっ♪』

そうしたなかで、サプライズのヒットもある。なかでも人気アニメスタジオTRIGGERが初の長編オリジナル映画で挑んだ『プロメア』は華麗な逆転劇を演じた2019年の代表作だ。

初週末の興収は9000万円、期待外れと思いきやファンの口コミと熱い支持でロングラン化、12月までに興収が14億円を超えた。応援上映や特別映像など映画鑑賞がイベント化され、劇場を通じたコミュニケーションの強さが成功の秘密だろう。アニメのメディアミックスは、これまではテレビを中心にまわっていた。『プロメア』ではこれが映画に入れ替わっている。

興収18億円にもなった『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』も音楽、イベント、グッズを連動させるメディアミックスの中心に映画が置かれている。ゲーム・キャラクター会社のブシロードが自ら配給しスマッシュヒットになった『BanG Dream! FILM LIVE』も同様だ。

11月8日公開の『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』も、サプライズな大ヒットだ。当初目標は数億円程度とみられるが、11億円を超えていまだロングラン公開を続ける。小学生女子に人気のキャラクターのアニメ化だが、幅広い層から支持を得た。セリフのないほんわりとした雰囲気がキャラクターの世界観にマッチしたこともファンから共感を得ている。

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』  ©2019日本すみっコぐらし協会映画部

『劇場版シティハンター 新宿プライベート・アイズ』(15億円)は、北条司の人気漫画の20年ぶりのアニメ化。当初はどの程度浸透するかの懸念もあったが、前評判の高さから急遽劇場を拡大するほどの人気となった。『すみっコぐらし』と『シティハンター』の成功は、ここでもアニメ映画における定番ブランドの役割の大きさを示したかたちだ。

アニメ業界ではDVDやブルーレイの不振を受けて、確実に収入を得られる手段として劇場アニメにますます力を入れるとみられる。またファンからもライブ体験のひとつとして映画を求める傾向が強まっている。

2020年以降も、アニメ映画熱はまだ続きそうだ。しかし2019年で見たように競争は激化しており、その結果も明暗が分かれている。アニメ映画ビジネスも、そのありかたが厳しく問われる時代になっている。

▼アニメ・ジャーナリスト数土直志が厳選! 時代を変えた平成アニメ20▼

〔社会現象編〕「セーラームーン」「エヴァンゲリオン」「千と千尋の神隠し」「時をかける少女」「涼宮ハルヒの憂鬱」 を読む

〔ビジネスモデル編〕「ジャイアントロボ」「NARUTO」「ハチミツとクローバー」「劇場版 空の境界」「DEVILMAN crybaby」 を読む

〔監督編〕「少女革命ウテナ(幾原邦彦)」「オトナ帝国の逆襲(原恵一)」「千年女優(今 敏)」「攻殻機動隊 S.A.C.(神山健治)」「APPLESEED(荒牧伸志)」 を読む

〔技術編〕「人狼JIN-ROH」「ほしのこえ」「秘密結社 鷹の爪」「楽園追放」「シドニアの騎士」 を読む

 

  • 数土直志

    (すどただし)アニメジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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