『今すぐKiss Me』をブレイクさせたドラマとプロデューサー

スージー鈴木の「ちょうど30年前のヒット曲」。今回取り上げるのはLINDBERGの『今すぐKiss Me』!

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ちょうど30年前のヒット曲を振り返っていきます。ということは、今回は1990年(平成2年)の2月発売のヒット曲。この2月には総選挙が行われました。結果は自民党の圧勝。突然ですが、ここでクイズです。このときの内閣総理大臣は誰?(正解は最後に)

今回取り上げるのは、90年2月7日リリースの大ヒット曲=LINDBERG『今すぐKiss Me』。売上枚数61万枚、オリコン1位を獲得。

この段階で知名度が低かったLINDBERGという4人組バンドの曲が、いきなり大ヒットしたのは、ドラマのタイアップ効果が大きかったのです。それもフジテレビ系月曜9時の枠。いわゆる「月9」(げつく)ですね。

ここでもクイズ。『今すぐKiss Me』が主題歌となったドラマのタイトルは?(正解はすぐ下に)

翌91年の『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』で「月9」は、いわゆる「トレンディドラマ」枠の頂点に君臨しますが、90年は頂点に向けて駆け上っている時期です。50代あたりの方なら、『今すぐKiss Me』が主題歌のドラマタイトルを憶えている人も多いでしょう。正解は――『世界で一番君が好き!』。最後の「!」を忘れると減点。

浅野温子、三上博史、工藤静香、布施博、風間トオルらが揃って出演する「ザ・トレンディドラマ」とでも言うべき作品。『今すぐKiss Me』をバックに、浅野温子と三上博史がキスをしまくる大胆なタイトルバックが話題となりました。特に渋谷のスクランブル交差点で、車から乗り出した2人がキスをするシーンのインパクトたるや。

中川右介氏による「月9」の歴史を考察した労作、その名も『月9』(幻冬舎新書)は、「ちょうど30年前のヒット曲」を考える上で、とても興味深いエピソードが紹介されています。

『世界で一番君が好き!』のプロデューサーだった太田亮は、当初LINDBERGではなく、DREAMS COME TRUE(ドリカム)に主題歌を発注しようと思っていたというのです。しかしドリカムの新曲タイアップが「三日前に」TBSのドラマで決まってしまったため、LINDBERGになったとのこと。

そのTBSのドラマとは、『世界で一番君が好き!』と同じクールに、金曜9時の枠で放映されていた『卒業』で、主題歌はドリカムの『笑顔の行方』。この曲も90年2月の発売で、44万枚、オリコン2位とヒットしました。

でも、あのタイトルバックと、あまりにぴったりと合っている『今すぐKiss Me』の方が、『世界で一番君が好き!』には良かったのではないでしょうか。結果オーライだった気がします。

というLINDBERG『今すぐKiss Me』。今聴いても「あ、こりゃ売れるわ」と痛感する音です。作品というより「商品」として完璧な出来だと思います。

サウンドは当時の「バンドブーム」を反映した縦ノリで、この年、米米CLUB『浪漫飛行』(107.9万枚 ※2バージョン合算)やKAN『愛は勝つ』(201.2万枚)などで人気爆発するコード進行「カノン進行」を使ったサビはやたらとポップで、その上に、渡瀬マキの金属的なボーカルが乗る。

渡瀬マキという人は、アイドル時代から知っていました。当時の名前は「渡瀬麻紀」。三重県の鳥羽弁を話す、ちょっと変わったイメージのアイドルだったと記憶するのですが、そういう女の子をボーカリストにして、ロックバンドで売っていくという発想自体が、とても戦略的だったと思うのです。

つまり、LINDBERGのブレイクには、プロデュースの力が大きかった。この『今すぐKiss Me』を収録したアルバム『LINDBERG Ⅲ』のみならず、以前・以後のLINDBERGのアルバムに、プロデューサーとしてクレジットされていた名前が、月光恵亮(つきみつ・けいすけ)。

約30年の月日の中で、忘れてしまったその名前と、昨年末突然にめぐり逢いました。12月29日に放送された『ザ・ノンフィクション』の『頂点を極めた男の転落~ある大物音楽プロデューサーの懺悔~』という回。放送局は奇しくもフジテレビ。番組の公式サイトより引用。

――2017年6月、覚醒剤使用の容疑で逮捕され、懲役1年6ヵ月・執行猶予3年の有罪判決を受けた月光恵亮(67)かつて月光は、伝説のバンドBOØWY、ZIGGY、リンドバーグなど数々の人気アーティストを手掛け、都心の一等地に30億円のビルを建てるなど巨万の富を築いた。しかし、逮捕をきっかけに音楽業界からは“追放同然の扱い”を受け、仕事も人間関係も信用も…すべてを失ってしまったーー

「普通の人が一生かかって稼ぐお金が僕の年収だった」と語る月光恵亮氏が、逮捕されただけでなく、難聴にもなってしまい、「悲しいよね。音楽のために生きてきたのに音楽を聴こえなくする神様は何なのかね」と語りながら、音楽業界から足を洗うことを決意する姿には、不覚にも涙してしまいました。

そんな月光恵亮氏が向かった先が、LINDBERGのドラマー=小柳”cherry”昌法。謝罪をして握手をします。そして月光氏は、「渡瀬マキに会えていないことが心残り」だという胸中を明かすのですが――。

1990年が終わり、1990年代が終わり、平成が終わり――。30年前のあの時代にキラキラと輝いていたあれこれが、一つひとつ光を落としていく2020年2月です。

――という流れの中でどうかとは思いますが、当時の内閣総理大臣は海部俊樹(まだご健在)。水玉模様のネクタイがトレードマークでした。

  • スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12トゥエルビ『ザ・カセットテープ・ミュージック』出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。

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