KAN『愛は勝つ』を「大勝利」させた要因は何か | FRIDAYデジタル

KAN『愛は勝つ』を「大勝利」させた要因は何か

スージー鈴木の「ちょうど30年前のヒット曲」、今回は90年代を代表するこのメガヒット!

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©ユニバーサル ミュージック
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ちょうど30年前のヒット曲を紹介していく連載です。今回は、1990年9月1日発売にして、言うまでもなく、1990年を代表する大ヒットとなったこの曲をご紹介します。手元の『1968-1997オリコンチャートブック』(オリジナルコンフィデンス)によれば、売上枚数は何と201.2万枚。

なぜこれほどまでに大ヒットしたのでしょうか。この原稿を書くにあたって、30年ぶりに『愛は勝つ』を何度も聴いてみたのですが、聴いた後に口から出てくるのは「あぁ、よく出来ているなぁ」というため息です。「作品」としてもそうですが、それ以上に「商品」として、完璧な装いになっていると思ったのです。

『愛は勝つ』の商品性の中核には、この曲が「がんばろう系カノン」になっていることがあります。

「がんばろう系カノン」については、この連載の第2回「徳永英明『夢を信じて』はがんばろう系カノンの先駆」をご一読下さい。ごく簡単に説明すれば、「がんばろう」という内容の歌詞が「カノン進行」というコード進行に乗っかっている。

KAN 『愛は勝つ』に加え、槇原敬之『どんなときも。』(91年)、大事MANブラザーズバンド『それが大事』(91年)、ZARD『負けないで』(93年)、岡本真夜『TOMORROW』(95年)――全て「がんばろう系カノン」、全て特大ヒット(かつ全て売上枚数150万枚以上!)。

「カノン進行」は大仰な感じ、壮大な感じを醸し出すコード進行です。そして歌詞が「がんばろう系」ということは、当時、雨後のタケノコのように増え始めていたカラオケボックスで、大盛りあがりするのにピッタリだったのです。

バブル絶頂期のサラリーマンの軍団が、ネクタイを鉢巻のように頭に巻いて、合コンで知り合ったボディコン女子軍団と一緒に、深夜の新宿のカラオケボックスの中、腕を突き上げて大盛りあがりをするとき、画面には『愛は勝つ』の歌詞が映っていました。

この「がんばろう系カノン」に、新時代的なメディアのパワーがかけ合わさることで、『愛は勝つ』の人気は大爆発することとなります。「KANオフィシャルウェブサイト」内の「金曜コラム」(2009年6月5日)に、KAN自身がこう書いています。

――で、7月に5枚目のアルバム『野球選手が夢だった』が出ます。このアルバムの収録曲だった『愛は勝つ』をFM802は再び“ヘビーローテーション”に選んでくれました。そこからなんだかジワジワした感じが始まり、直後フジテレビの番組で取り上げていただいたりしたこともあり、後から慌ててシングルカットしたりしたものです。

はい、2つのメディアが出て来ました。その1つは『愛は勝つ』の前年に大阪で開局したFM802。大阪出身の私は、当時、大阪の街中を走っていたクルマの多くに、FM802のステッカーがペタペタ貼られていたことを、よく憶えています。

それほど盛り上がっていたFM802の「ヘビーローテーション」(この言葉も新時代的だった)として『愛は勝つ』が採用され、大ヒットの導火線となったのです。

2つ目のメディア=フジテレビについては、番組名まで書かないと、その新時代感がピンと来ないかもしれません。その番組とは――『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』。

「邦ちゃん」(山田邦子のこと)、「やまだかつてない」(山田邦子が出演していた大塚ファイブミニのCMコピー)と、1990年臭がぷんぷんする言葉がタイトルに散りばめられた、当時の人気番組。この番組でも『愛は勝つ』が使われ、導火線にいよいよ火が付いたのです。それも最大級の。大火事、山火事並みの。

今から考えると、ビートたけし、明石家さんまなどの「お笑い第二世代」、ダウンタウンやウッチャンナンチャンの「お笑い第三世代」の谷間の時期だったと思います。そんな時期に無敵の女王となった山田邦子、その無敵の女王の力を借りて、無敵の1曲となった『愛は勝つ』――。

90年代中盤あたり、渋谷や下北沢の中古レコード屋(と言っても、売場の半分ほどをもうCDが占めていました)に、「100円」シールを貼られた、おびただしい数のCD=KAN『野球選手が夢だった。』。おそらく『愛は勝つ』を聴きたいがためだけに大量に買われ、そして『愛は勝つ』だけダビングされて、大量に売りに出されたのでしょう。

そして私は3年後、三ツ矢サイダーのCMで知ったKANの『まゆみ』という曲に圧倒されます。『愛は勝つ』がビリー・ジョエル・モードなら、『まゆみ』はビートルズ・モードの名曲。

急いで『まゆみ』のシングルCD(8cmの短冊型)を買いに行ったのですが、3年前に歌い尽くされ・消費し尽くされた『愛は勝つ』の人の曲を買うことに、若干の抵抗感を感じたのも事実でした。そういうこともあってか、『まゆみ』の売上枚数は『愛は勝つ』の10分の1以下=18.2万枚に留まることになります(それでも十分、立派な数字ですが)。

しかし――あれから30年の間、「FM802のステッカー」「邦ちゃん」「やまだかつてないテレビ」のことを考えた日など、1日たりともなかった私ですが、『愛は勝つ』と『まゆみ』のことを忘れた日も、1日たりともありませんでした

愛は勝つ、かどうは分かりませんが、音楽好きにとって、必ず最後に歌は勝つ、のです。

  • スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12トゥエルビ『ザ・カセットテープ・ミュージック』出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『恋するラジオ』(ブックマン社)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。

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