緊急事態下の鉄道「ヘタな対策」では感染リスクが上昇する可能性 | FRIDAYデジタル

緊急事態下の鉄道「ヘタな対策」では感染リスクが上昇する可能性

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新型コロナウイルス肺炎が世界に拡大し、日本でも感染者が急増している。緊急事態宣言によって東京など大都市圏の交通網はどうなるのだろうか?(撮影は20年3月31日)  写真:長田洋平/アフロ
新型コロナウイルス肺炎が世界に拡大し、日本でも感染者が急増している。緊急事態宣言によって東京など大都市圏の交通網はどうなるのだろうか?(撮影は20年3月31日)  写真:長田洋平/アフロ

政府がついに重い腰を上げた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相は改正新型インフルエンザ等対策特別特措法(以下、特措法)に基づく緊急事態宣言に踏み切った。

対象地域は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県。4月6日の政府対策本部で準備に着手。7日夜に安倍首相が記者会見を行い、8日から緊急事態宣言の効力が発生した。

そんな中、6日付の「産経新聞」(電子版)が、緊急事態宣言に伴い、政府が首都圏などの対象区域で鉄道事業者に対し、列車の減便の要請を検討していると報じて話題となった。

これによると、週明け(4月13日)以降、当面は平日も土休日ダイヤで運行し、終電の繰り上げも検討。最終的に通常の5割程度まで減らすことを想定している、と具体的な検討内容が記されている。これに先立つ3月31日、赤羽一嘉国土交通相も閣議後の記者会見で、緊急事態宣言が発令された場合、公共交通事業者による減便などの措置も想定されると述べ、鉄道やバスなどの運行本数が減る可能性に言及していた(31日付の時事通信など)。

ただし6日夜になって、政府や東京都は緊急事態宣言発令後も鉄道は通常通り運行すると表明。7日には赤羽国交相も現時点では減便や終電の繰り上げについて具体的な検討はしていないとコメントするなど、「減便論」の火消しにかかっている。

特措法に基づき公共交通機関が策定している業務継続計画(BCP)では、新型インフルエンザなど感染症流行時の対応として鉄道輸送の減便が想定されているが、これは人々の移動を制限するために減便するものではなく、交通事業者の従業員に感染が拡大することで、所定の運行本数を確保できなくなる事態を想定したものである。想定によれば、最大4割の乗務員が欠勤した場合、運行本数が半減する事業者もある。

新型コロナウイルスの感染拡大が続くロンドンでは、3月中旬から感染症の拡大を阻止するために、乗換駅ではない40の駅を閉鎖し、運行本数を大幅に削減して運行を続けているが、BBCニュースによると現在、公共交通機関の混雑が大きな問題となっているという。

英政府とロンドン市は不要不急の外出と通勤をやめるよう呼びかける一方、地下鉄の混雑を緩和するために増便を検討しているが、ロンドン地下鉄の従業員にも感染が拡大し、要員の確保に苦労しているようだ。

こうした問題はニューヨークなどでも発生しているという。どのような理由であれ、日本においても列車本数が減便されることになれば混乱は必至だ。

例えば、JR京浜東北線の平日朝ラッシュ時間帯(7~9時)の運行本数は43本。しかし、土休日ダイヤとなると、これが23本まで減少する。同時間帯の山手線も平日39本に対して土休日は23本だ。

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトによれば、朝ラッシュ時間帯(7時30分~9時30分)の都営地下鉄の利用者数は、今年1月20日から24日の平均値を基準として、3月9日以降の平日は約25%減。

3月25日に小池百合子東京都知事が都民に外出自粛を要請して以降の平日は、さらに一段階減少し、約30%減となっている。この傾向は、JRや私鉄などもほぼ同様と考えられる。

しかし、首都圏の朝ラッシュ時間帯ピーク1時間の平均混雑率は約150%であり、乗客が30%減少してもなお、混雑率は100%を超えている。

このまま列車本数が半減すると、混雑率は感染拡大以前を上回ってしまう計算になる。現時点では満員電車からクラスター(感染者集団)が発生した事例は報告されていないとはいえ、感染拡大を防ぐために避けるべきとされている密閉・密集空間であることは疑いようがない。

混雑率の上昇が感染拡大につながらないよう、鉄道が減便を余儀なくされる前に、これまで以上に不要不急の通勤自粛を促すとともに、通勤をしなくても済むように広く給付金を支給するなど、積極的な対策が求められる。

一方、台風接近時の計画運休のように、いっそ全ての列車を止めてしまえば感染拡大の危険性が無くなるという意見もあるが、半日程度ならともかく、長期間にわたって鉄道の運行を停止するということは、東京がその都市機能を失うということを意味する。

東京23区を目的地とする鉄道通勤・通学者の総数は1日当たり約500万人。実にそのうち半分が、周辺の神奈川、埼玉、千葉、茨城などの各県から越境している人々である。

仮に政府や東京都が「都市封鎖(ロックダウン)」を行い、経済活動を大幅に縮小する決断をしても、そこで暮らす人々がいる限り、医療やインフラ、物流、食料品販売など生活を支える都市機能を止めるという選択肢はない。

政府と東京都など対象となる自治体には「緊急事態宣言」の範囲内での果断かつ慎重な舵取りが求められている。そして我々自身の意識・行動も、である。

緊急事態宣言が効力を発生する8日。対象地域となる鉄道網の状況から目が離せない。

満員電車で「新型コロナ」感染は起きるのか? を読む

「東京封鎖は現実的に不可能だ」 を読む

 

  • 枝久保達也

    (鉄道ジャーナリスト)埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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