コロナで「テレワーク食べすぎ」がうつを引き起こす可能性 | FRIDAYデジタル

コロナで「テレワーク食べすぎ」がうつを引き起こす可能性

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肥満はうつ病リスクを1.5倍に高め、うつ病は肥満のリスクを1.5倍に上げる! 生活習慣の「負のスパイラル」に要注意

“コロナ疲れ”や“在宅ワークうつ”といった精神的な疲労を訴える言葉がメディアに見られるが、実は、うつ病などの精神疾患には食生活が大きく関係しているという。

テレワーク、休校、外出自粛と、メリハリの付けにくい自宅ごもりの生活を健康的に乗り切るためにはどうすればよいのか。精神栄養学の第一人者である帝京大学医学部精神神経科学講座教授・功刀浩(くぬぎ・ひろし)氏に話しを聞いた。

近年は、肥満やメタボリック症候群などの生活習慣病が、うつ病の発症リスクと関連することを示す研究結果が次々と発表されている
近年は、肥満やメタボリック症候群などの生活習慣病が、うつ病の発症リスクと関連することを示す研究結果が次々と発表されている

日常で感じるような“中程度のストレス”は、食欲が増す 

ここ十数年ほどの研究で、カロリーの摂りすぎが、うつ病やアルツハイマー型認知症などの精神・神経系の病気に大きく影響することが明らかになってきたという。うつ病がストレスによって発症することは広く知られているが、“食べすぎ”がうつに関係するとは、どういうことなのだろうか?

「うつ病の患者さんは、食欲がなく痩せていると思われるかもしれませんが、実際は、肥満気味で血糖値や中性脂肪値が高い人が多いという傾向があります。

慢性的なストレスによって太りやすい人が多いんです。人は、ものすごく大きなストレスがかかると食欲が減退しますが、日常的な中程度のストレスでは空腹を感じて食欲が増し、食べすぎてしまうからです。 

肥満になると脂肪細胞がパンパンに膨れて、体内に炎症を引き起こすホルモンを分泌します。それが脳に達してダメージを与えると、うつ病や認知症の発症の原因になると考えられています。 

近年、うつ病とメタボリック症候群には深い関係があることが、多くの研究から示されています。肥満はうつ病リスクを1.5倍に高め、うつ病は肥満のリスクを1.5倍に上げるというデータがあり、双方向の関係にあるといえます」(功刀氏 以下同)

肥満とは、どの程度のことをいうのだろうか。

「具体的には、肥満度指数であるBMI《体重(kg)÷身長(m)》が30を超えると、影響が出てくる傾向があります。ですが、もともとメタボ気味の人だったら、テレワークで食生活が乱れがちになると、リスクは高まると思います。 

普段外で働く場合とは違って、通勤、外回り、接客といった仕事での運動量がかなり減るでしょうし。夜ふかしをして睡眠不足になることもあるでしょう。不安が続くと、不眠にもつながります。

単に食べすぎが主な要因になるということではなく、睡眠、運動、食事、いろいろなことが重なって負のスパイラルにはまり込むということです」

うつ予防には、地中海式食事(野菜、果物、種実類、豆類、魚介類、オリーブ油を豊富に、穀類、適量の赤ワインを加える)や、伝統的な和食(塩分控えめ)プラス乳製品が効果的とされる。手軽で魅力的だが、白米の丼物やラーメンは要注意
うつ予防には、地中海式食事(野菜、果物、種実類、豆類、魚介類、オリーブ油を豊富に、穀類、適量の赤ワインを加える)や、伝統的な和食(塩分控えめ)プラス乳製品が効果的とされる。手軽で魅力的だが、白米の丼物やラーメンは要注意

うつは生活習慣病の一つである

「ストレスがかかって、食欲が増えたとします。原始時代だったら、動物と戦ったり、たくさん歩いて食物を探したり、十分にエネルギーを使ったので食べてもいいんです。日中、体を動かしたので、日が落ちて暗くなったら自然に眠ります。夜ふかしをして、夜食を食べることもありません。 

現代の日本では、食べるために動物と戦ったり、食物採集するために歩き回るということがありません。ところが我々の遺伝子は原始人とほとんど変わっていない。結局、ストレスで増えた食欲により過剰摂取したエネルギーが、使われずに体に蓄積されて、メタボリック症候群や、糖尿病などの様々な病気を発症してしまいます。 

2000年頃から、うつ病と生活習慣病の関連について盛んに研究されるようになり、うつ病も生活習慣病の一つであるという考え方が広まってきました。肥満とうつ病は双方向の関係にあるといいましたが、実際、バランスの取れた食事をしている方が、うつ病になりにくいという報告があります」 

カロリー過多の一方、加工された食品を多く摂ることでの栄養不足も問題だという。

「砂糖や白米、白いパンなどのように精製された食品や、加工、調理された食品は、美味しく、口当たり良くするために、食べにくい部分等が取り除かれています。そのために自然のままの食材とは違ってビタミンやミネラル、食物繊維、ポリフェノールといった重要な栄養素が不足しやすいんですね。

うつ病の患者さんには肥満が多いにもかかわらず、栄養が足りていないという場合が多いのです」

うつ病患者の食事では、ビタミンB群や葉酸、ビタミンD、鉄分、亜鉛、神経伝達物質の原料になるアミノ酸(トリプトファン、メチオニン、チロシン)、DHAやEPAなどの不足が指摘される。

葉物野菜や納豆などに含まれる葉酸は、不足すると意欲の低下やうつ状態を招く。トリプトファンは、不安感に関与するセロトニンや睡眠物質のメラトニンの材料になるため、不足するとうつや不眠のリスクをあげる。チロシンは意欲や興味、学習、覚醒に関わるドーパミン、ノルアドレナリンの材料になる。鉄分や亜鉛の不足は、心身の疲労や集中力の低下などを引き起こす。

うつ病リスクを高めないためには、特に、魚、大豆製品、レバー、野菜を注意してとることが大切だとわかる。都合のいいことに、精神疾患の予防になる食生活は、そのまま身体の病気の予防にもなる
うつ病リスクを高めないためには、特に、魚、大豆製品、レバー、野菜を注意してとることが大切だとわかる。都合のいいことに、精神疾患の予防になる食生活は、そのまま身体の病気の予防にもなる

うつ病の人はビフィズス菌が少ない

“第2の脳”ともいわれる腸は、脳と密接な関係にある。腸内細菌叢(腸内フローラ)は、がんや糖尿病、肥満などの生活習慣病や花粉症などのアレルギー症状に影響していることがわかっているが、脳の健康にも大きな影響を与えている。

「腸内環境を整えることも大切です。腸内細菌が不足すると、体内に炎症を引き起こし、脳を含む様々な部位にダメージを与えます。 

私たちの研究でも、うつ病の人は健康な人と比べて腸内にビフィズス菌などの善玉菌の数が少なく、善玉菌が一定以下だとうつ病を発症するリスクが高くなることを示唆する結果が出ています」

善玉菌を増やすには、“プロバイオティクス(善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌など)”と、“プレバイオティクス(胃や小腸で消化吸収されず、大腸まで届いて善玉菌のエサとなり、その増殖を促す食品)”の両方を摂ることが大切なのだそう。 

「“プロバイオティクス”はヨーグルトや乳酸菌飲料、キムチ、味噌といった発酵食品に、“プレバイオティクス”は玄米などの穀類やゴボウ、バナナといった水溶性食物繊維やオリゴ糖を含む食材に含まれます。“プロバイオティクス”と“プレバイオティクス”を1日1回は摂ることをおすすめします」

ポイントは「発酵食品」と「食物繊維・オリゴ糖」を十分に摂ること
ポイントは「発酵食品」と「食物繊維・オリゴ糖」を十分に摂ること

じわじわ脳にくる“隠れストレス” 

「現在のうつ病増加の背景には“隠れストレス”があります。対人関係や仕事のストレスのように自覚できるもの以外に、知らず知らずのうちに心や体を蝕んでいくストレスもあります。 

エネルギー過剰と栄養不良、運動不足、睡眠不足。基本的な生活の乱れが慢性的なストレスとなり、脳と体にダメージを与えます。とくに睡眠不足は、日中、元気に活動できないため睡眠の質がさらに悪化し、ストレスがどんどん溜まります。睡眠障害がないうつ病というのは、ほとんどありません」

2011年から、精神疾患は、がん、糖尿病、脳卒中、心臓病とともに国民の「5大疾病」の一つに位置づけられた。5大疾病の中では、精神疾患の患者数がもっとも多く、なかでも、うつ病患者の数は非常に多い。

「今、世界中で、20人に1人がうつ病といわれ (WHOの報告による)、現代では誰でもなる可能性があります。近年、企業で長期休暇をとっている人の50%がメンタルによる病気休養なんです。1990年代から我々も、この状況への対策の必要性を政府に訴えたりしていました。 

現在は、健康診断に加えてストレスチェック制度が施行されており、50人以上の従業員がいる事業所に、1年に1回のチェックが義務付けられています。実際に行なわれている内容は、うつ病チェックが目的といえるでしょう」

体内時計のリセットに、朝の光と朝ごはん!

「我々の体には体内時計があって、睡眠や覚醒をコントロールしています。そして、脳や皮膚、血管、肝臓を含め体内のほぼすべての臓器には時計遺伝子が存在して、生体リズムを刻んでいます。これらがばらばらでなく同期していることが大事なんです。

たとえば、夜ふかしをすると、脳の遺伝子は『頑張れ』と言っているけれど、体は『眠い』というようなことが起こります。すべての細胞が同じリズムで、頑張るときと休むときが揃っているのが理想。あっちの細胞は活動モード、こっちの細胞は休憩モードと異なっているのでは良いパフォーマンスは望めません。 

ヒトの体には、太陽とともに目覚めて昼は活動し、夜は眠るという基本的なリズムが刻まれていて、どんなに時代が変わっても、我々の体内時計は太古と同じリズムを刻んでいます。 

ですから、太陽に同期して生活するのが一番いいんです。そのためには、毎日同じ時間に起き、朝日を浴びて、朝食を食べるのが重要です。日光を浴びることで脳の体内時計がリセットされ、朝食をとることで身体のスイッチが入るので、脳と身体が一斉に活動体制になって、仕事や勉強のパフォーマンスが上がります」

運動中に大きな息をすると、ウイルスを空気中にまき散らす可能性も。ウォーキング、ジョギングの際は、マスク等で口元を覆い、他の人と十分な距離をとるなど、エチケットを意識したい。「日光を浴びる、体を動かすということでは、ガーデニングも効果的」と功刀氏
運動中に大きな息をすると、ウイルスを空気中にまき散らす可能性も。ウォーキング、ジョギングの際は、マスク等で口元を覆い、他の人と十分な距離をとるなど、エチケットを意識したい。「日光を浴びる、体を動かすということでは、ガーデニングも効果的」と功刀氏

“ほどほど”が、うつ防止になる

「ほどよく栄養を摂り、睡眠や運動などの生活習慣にソコソコ気をつけていれば、精神疾患はかなり予防できると思います」 

自粛、テレワーク生活でメンタルを健康に保つためには、普段の生活リズムを崩さないのがコツだという。

「通常時の通勤時間に合わせてウォーキングするのもおすすめです。室内で運動するのでもいいのですが、太陽を浴びることがやはり大事。ウォーキングですと、何か障害物があったら避けたり、周りの景色を見たり、脳を働かせます。あまり遅い時間は体内時計に影響が出るのでおすすめしません。運動は遅くとも21時までにしたほうがいいですね」

ほどよい食事、運動、睡眠。当たり前と思える生活が、実際にはなかなか難しい。しかし、逆に考えれば、今一度、生活習慣を見直し、整える良い機会なのかもしれない。

「うつ気味になったら、”生活習慣をいったん見直しなさい”という警告と考えましょう」

 

功刀 浩(くぬぎ・ひろし) 帝京大学医学部精神神経科学講座・教授。1986年東京大学医学部卒。ロンドン大学精神医学研究所、帝京大学医学部精神科学教室講師を経て、2002年、国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第三部部長、2020年4月より現職。日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床栄養学会認定臨床栄養医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本医師会認定産業医、日本睡眠学会睡眠医療認定医、日本臨床栄養協会 NR・サプリメントアドバイザー。『こころに効く精神栄養学』(女子栄養大学出版部)、『心の病を治す食事・運動・睡眠の整え方』(翔泳社)他、著書多数。

  • 取材・文藤岡佳世写真アフロ

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