俺さま第一から共演者第一へ!『BG』に見る俳優・キムタク第2章
トレンディドラマ時代と違った木村拓哉の演技に注目せよ!
コロナ禍による自粛が解除されて1ヵ月。
止まっていた春ドラマが次々とスタートしている。
その中にあり『BG~身辺警護人~』が好調なスタートを切った。初回の世帯視聴率17.0%、2話14.8%。他のドラマに大きな差をつけている。
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好調の理由は、18年冬に放送した第1章と比べて、今回の第2章が「身辺」警護から「心辺」警護へと深まっている点がある。
同時に主演の木村拓哉が、トレンディドラマ時代の“俺さま”ぶりから、共演者を輝かせる“魅力的な主役”に進化を遂げている点が見逃せない。
キムタクへの毀誉褒貶
インターネット調査のパイルアップ社は、春ドラマのスタートを前に、ユーザー1200人を対象に「主役として最も魅力的と思う男性俳優」のアンケートを実施した。

それによると、トップ5は阿部寛・木村拓哉・大泉洋・唐沢寿明・竹内涼真の順となった。
この結果で興味深いのは、首位の阿部寛が男性視聴者、特に50~60代に圧倒的に支持されているのに対して、木村拓哉は女性30~50代と男性10代で首位となった点だ。
キムタクは2000年代まで、「an・an」(マガジンハウス)の毎年恒例「好きな男」特集で、15連覇を達成した。トレンディドラマ全盛期のトップスターならではの偉業だった。
実際に彼が主演するドラマは、大ヒットの連発だった。
『ロングバケーション』(96年春・フジ・29.6%)※数字は世帯視聴率、各ドラマのクール平均(以下同)。
『ラブジェネレーション』(97年秋・フジ・30.8%)
『ビューティフルライフ』(2000年冬・TBS・32.3%)
『HERO』(01年冬・フジ・34.3%)
『GOOD LUCK!!』(03年冬・TBS・30.6%)
『プライド』(04年冬・フジ・25.2%)
『エンジン』(05年春・フジ・22.6%)
ただし時とともに、その“俺さま”ぶりは反発も生んでいた。
2010年代では、「文春オンライン」による毎年恒例のアンケート企画「嫌いな俳優」ランキングで、6連覇という“偉業”を達成中だ。
「自分だけ活躍する姿にうんざり」
「裸の王様状態が気の毒」
「何役をしても“キムタク”の枠から出られない」
批判の声は、かなり辛辣だ。
ただし小説・映画・番組や俳優については、毀誉褒貶が激しいのは存在感がある証拠。しかも男性10~20代や女性20代の支持も高い。トレンディドラマ全盛期を知らない世代は、40代になったキムタクの円熟の演技を支持している可能性がある。
『アイムホーム』(15年春・テレ朝・14.8%)
『A LIFE』(17年冬・TBS・14.5%)
『BG』(18年冬・テレ朝・15.2%)
『グランメゾン東京』(19年秋・TBS・12.9%)
『教場』20年冬・フジ・15.2%)
“身辺”から“心辺”へ
今回の『BG』第2章は、世帯視聴率が高いだけではなく、接触率の波形も美しい。

関東地区で約69万台のインターネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージ「Media Gauge」によれば、初回も第2話も、CMを除き接触率は基本的に右肩上がりとなった。物語が面白かったので、途中で視聴をやめた人は少なかったのである。
さすがに9時50分台は、裏でCMやミニ番組でザッピングする視聴者が多く、流入が多かった分、流出も多少増えた。それでも途中から見はじめ、そのまま最後まで見入った人が多かったため、終盤の接触率は急上昇した。
ドラマの内容に力があった証拠である。
第2章初回は、主人公・島崎(木村拓哉)が序盤で会社を辞めてしまうという意外な展開で始まる。
第1章の舞台・日の出警備保障は、IT系総合企業「KICKS CORP.」に買収されていた。ところが経営者(仲村トオル)が、会社の評判を高めるために暴行事件を仕組んだことを知り、許せなかったのである。
利益やブランドのために、手段を択ばず最短距離を行こうとするトップに対して、護るべき倫のために敢えて遠回りをする、ストイックなキムタクとの構図が面白い。
第2章は、身辺警護の派手なアクションやスリリングな展開に加えて、心を守る“心辺警護”に踏み込む闘争宣言が新シリーズ開始早々になされたと受け取った。
“共演者ファースト”へ
第2章初回で際立ったのは、元講師・松野を演じた青木崇高と、島崎とバディを組んだ高梨(斎藤工)。
犯罪者の汚名を着せられた松野は、実は教授(神保悟志)の犯行と暴く。ところが教授の道連れで低温室に閉じ込められた松野と島崎。そのピンチを危機一髪で救い出したのが、バディを組んだ高梨だ。
松野の正義を全うさせることで、主人公・島崎の存在感が浮かび上がる。
しかも島崎のやり方に共感し、バディを組む決意をした高梨は、最後に島崎の車に乗り込むことで、主人公への共感を示す。
“俺さま”的展開が多かったトレンディドラマ時代と違い、『BG』は共演者を活かすことで、結果的にキムタクの良さが伝わる“間接フリーキックの妙”で攻めている。
「高梨と島崎のタッグ最高すぎ」
「青木崇高さんが非常にイイネ なんかグッとくる」
「初回なのに最終回的なクオリティ」
「(キムタクは)いい年の取り方をしてらっしゃる」
SNSのつぶやきにも、こうした見せ方への評価の声が少なくない。
2話は、目の不自由な天才ピアニスト・守尾恵麻(川栄李奈)が際立つ。
身辺警護の迫力としては、キムタクの体を張った“階段落ち”シーンが圧巻だ。ただし自傷行為に走り、誰にも心を開こうとしない恵麻の本心に迫り、結果として姉・美和(谷村美月)との確執を氷解させるプロセスこそが本当の見どころだった。
「今回のハイライトは階段を一気に落ちるキムタクスライダー」
「川栄ちゃんがこんなに演技派だとは知らなかったです 」
「やっぱり可愛いし演技上手…泣いてしまった」
「名コンビぶりと人間ドラマで引き込む」
組織力に頼めない“フリーの道”を選んだ主人公は、きっと数々の壁にぶつかるだろう。
そこで妥協することなく、迂遠な道を黙々と歩むのだろう。そしてドラマとしては、共演者の持ち味を活かすことで、主人公の魅力を滲み出させる展開を行くのだろう。
一歩退くことで際立たせるキムタクの味わいは、第2章のラストでどんな感動に到達するのか。
制作陣と出演者の腕に期待したい。
文:鈴木祐司
(すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。