本場海外へ逆上陸「ココイチ」「崎陽軒」の成否を分ける重大要因

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世界を席巻する「日本食」 

近年、日本食ブームを追い風に外食企業の海外進出が盛んだ。多くの国で寿司やラーメン、牛丼が一般的に食べられており、「一風堂」や「吉野家」といった日本で馴染みのチェーン店の看板を海外で見かけるケースも珍しくない。

日本国内と同じような看板掲げた台湾の店舗。台湾で最も多くの乗降者数を誇る台北駅内でも圧倒的な存在感を放つ。この店舗から崎陽軒の新たな歴史が始まると言って過言ではない

しかし、本場への逆上陸というと事情が異なる。アメリカ発のカリフォルニアロールが日本であまり受け入れられないのと同じだ。

例えば、2017年2月、株式会社ペッパーフードサービスが展開する「いきなりステーキ」が、ステーキの本場・アメリカに上陸した。しかし、アメリカのステーキ文化に馴染まない立ち食いスタイルや、チップ制と相性の悪いオペレーションなどから苦戦。2018年9月に日本の外食チェーンとして初めて米ナスダックに上場を果たすなど勢いがあったにもかかわらず、結局、2年半で撤退の憂き目にあった。生半可な覚悟では、逆上陸はうまくいかないということだ。

アメリカ上陸当時は国内でも勢いがあり、2018年には一年間で202店舗の出店を実現した。それでもアメリカでは撤退の憂き目にあったのだから、本場への上陸の難しさが窺い知れる

こうした状況下で「カレーハウスCoCo壱番屋」と「崎陽軒」が、それぞれインドと台湾に上陸し、話題を呼んでいる。果たして、カレーと中華の本場への逆上陸は成功するのだろうか。その勝算をフードジャーナリスト・三輪大輔が考えてみた。

「ココイチ」と「崎陽軒」の勝算

まず両社の概要に触れるとともに、今回の進出に至る過程を振り返っておきたい。

ココイチを展開する株式会社壱番屋は1978年に創業した日本最大のカレーチェーンだ。そもそもカレーは多店舗展開が難しい。その原因の一旦がスパイスだ。実は、カレーのスパイスは特定の商社を通さないとなかなか入手ができない。ココイチは2020年2月末時点で国内だけで1301店舗を展開。2013年には「最も大きいカレーレストランのチェーン」としてギネス世界記録にも認定されている。

なぜ多店舗展開が可能だったかというと、ハウス食品との関係があったからだ。スパイスを安定的に仕入れることのできるハウス食品と早くから業務提携を結んでいたからこそ、他を圧倒する成長が実現できたと言って過言ではない。

壱番屋とハウス食品の関係性は深く、2015年にはTOBを経て、壱番屋がハウス食品の連結子会社となっている。当時、創業家が全ての株をハウス食品に売却したことも多くのメディアの話題をさらった

関係の深さを表す例はこれだけではない。ココイチは海外展開も盛んで、1994年には海外一号店としてハワイ店への出店を行う。それ以来、積極的に海外に打って出ており2020年2月現在、アメリカをはじめイギリスや中国、香港、台湾、タイなど12カ国・地域で186店舗を展開している。その成功を支えているのもハウス食品の存在だ。中国と台湾、韓国では合弁会社を設立しており、まさに一蓮托生で“日本の定番カレー”を世界に広めている。

そして2020年8月3日、満を辞して、カレーの本場であるインドに初上陸を果たす。しかし、今回、タッグを組んだのはハウス食品ではなく三井物産だ。同社の海外拠点であるアジア・大洋州三井物産と「ICHIBANYA INDIA PRIVATE LIMITED」を設立して逆上陸を仕掛けていく。カレーの本場での成功は、このタッグがポイントになるのは間違いないだろう。

一方、崎陽軒の創業は1908年だ。もともとは駅構内で飲料などの販売を行っていたが、1928年、「横浜の名物をつくろう」との想いから看板商品の「シウマイ」を生み出す。本来なら「焼売」は「シュウマイ」と発するが、崎陽軒ではシウマイとなっている。その理由は、初代社長の野並茂吉氏の出身地に結びつきを持つ。同氏は栃木県出身だったため焼売と発するとき、なまって「シーマイ」になってしまったそうだ。それを聞いた中国人が本場の発音に近いと言ったので、「シウマイ」にしたと言われている。

その名前の通り、崎陽軒のシウマイは独自の進化を遂げる。1954年にはシウマイ弁当が誕生し、冷めてもおいしく食べられる駅弁として絶大なる人気を博す。その後も「真空パックシウマイ」や」「横濱月餅」と人気商品を次々に開発し、崎陽軒の名前は全国に轟く。

崎陽軒は創業から110年以上の歴史を持つが、海外への進出経験はない。2020年8月7日にオープンした「崎陽軒 台北駅店」が海外一号店となる。初進出の地に台湾を選んだのは駅弁文化があり、親日というバックグラウンドがあったからだ。日本人の口に合うようローカライズされた「シウマイ」が焼売の本場である中華圏でどれだけ受け入れられるか。同社の新しい挑戦に対する注目は高い。

中身が見えるパッケージになっている台湾版の「シウマイ弁当」。台北駅から出発する旅行客の新たな旅のお供になるか。その動向に多くの外食関係者が熱視線を注ぐ
崎陽軒のシウマイと切っても切れない関係の「ひょうちゃん」も台湾バージョンとなって登場。シウマイをさらに引き立てる名脇役として、日本同様に台湾での活躍も期待されている

海外進出の成功例 

両社の勝算を分析する前に、日本の外食企業が行う海外進出の現状に触れておきたい。

アメリカ市場で大きな成功を収めているのが「くら寿司」だ。そもそもアメリカは多様な人種、文化、宗教から国が成り立っているため州はもちろん、通りによってもマーケットが違うと言われている。つまり、それだけマーケットの攻略が難しいということだ。多様性に合わせて、緻密な提案を行っていかないと受け入れられない。

くら寿司も2009年の上陸当初は苦戦を強いられた。突破口になったのはテクノロジーを活用した分析力だ。店舗に来店する人種などを分析し、レーンを回るメニューのラインアップを変更。握り寿司だけでなく巻き寿司も積極的に提供するなど、柔軟な対応を行ってマーケットに適応した。

その結果、現地の人たちに受け入れられ、2019年8月1日には米国ナスダック市場への上場を果たす。日本の外食企業の米国子会社として初の快挙を成し遂げ、アメリカで着実に存在感を高めている。2020年1月には、アメリカ、台湾に続き、中国市場への挑戦も表明。くら寿司が世界の「KURA」ブランドになるための歩みは力強い。

コロナ禍でもくら寿司のテクノロジーは生かされており、AIで冷凍天然マグロの品質を判定する「TUNA SCOPE」や寿司カバー表面を殺菌する「紫外線殺菌システム」など、他を圧倒する仕組みで違いを見せる。写真は1月に浅草にオープンした「グローバル旗艦店」

また、「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールは紆余曲折を経て、海外展開を成功させた企業として知られている。同社の海外展開の基本姿勢は日本食としての「うどん」を押し付けるのではなく、現地の人に好きなように食べてもらい、まずは親しんでもらうことだ。

その姿勢が功を奏し、海外でもうどん文化が広く受け入れられ、ハワイのワイキキ店は全店舗の中でナンバー1の売上を叩き出す。2021年にはロンドンに丸亀製麺を出店し、ヨーロッパ市場に本格的に参入する予定だ。2025年の全世界6000店舗体制の実現に向け、さらに加速していく。

丸亀製麺はこれだけチェーン展開しているにもかかわらず、セントラキッチンをもたず、店内製麺にこだわり続けている。その手作りの味が他ブランドとの違いとなっているからこそ、唯一無二のブランドとして爆発的な展開を実現している

しかし、ケニアのテリヤキチキン業態をはじめ、イタリアのラーメン店やマレーシアでの丸亀製麺と、実は失敗した事例も多い。こうした失敗を経て、同社では信頼できる現地パートナーとタッグを組む必要性に気づく。そうしたノウハウが海外進出の成功確率が上がり、現在の成長に繋がっている。

海外進出の成功の秘訣とは 

これまで見てきたように、日本食がブームだからという単純な理由だけでは海外進出は成功しない。国として魅力的なマーケットだからと気軽な気持ちで店を出しても痛い目にあうだろう。 

海外進出を成功させるには、ローカライズ化と現地法人との付き合い方を含めたマーケティングの2つが欠かせない。信頼できるデータを踏まえて、現地の人に受け入れられるように味やブランド、オペレーションなどをチューニングしながら展開するからこそ、異国の地で成功を収めることができるのだ。そのロジックは逆上陸でも変わらない。

今回、ココイチはカレーの本場、インドに逆上陸した。その勝算を計る上で参考になるのがタイでの成功だ。実は、2008年、ココイチは同じく独自のカレー文化を持つタイに上陸し、2020年2月末時点で34店舗するなど大きな成功を収めている。 

その成功を語る上で欠かせないのがフジグループの存在だ。同社は「フジレストラン」という現地で圧倒的な知名度を誇る日本食レストランを展開している企業だ。もちろん現地のマーケットに関する造詣も深い。だからこそ、現地に受け入れられるようなローカライズ化が可能となり、12年で34店舗の展開が実現したのだ。ちなみに、マレーシアとシンガポールの出店もフジグループの代表、田中健二氏が設立した現地法人が行い、同じく成功を収めている点も見逃せない。

バンコクの大型ショッピングモールの多くに出店している「フジレストラン」。日本人の田中氏がタイで立ち上げたレストランで、現地の人の口に合うようにうまくローカライズされている

インド進出のパートナーの三井物産とは初めてのタッグとなる。しかし、三井物産が外食に精通しているかというと疑問符が付く。それどころかきっちりとタッグを組んで臨んだイタリア進出や、ダスキンと展開した韓国のミスタードーナッツなどうまくいっていない事例も多く、インドでの挑戦に大きな不安が付きまとう。

とはいえ、ココイチのカレーは12カ国・地域に広く受け入れられたという確かな実績を持つ。現地に受け入れられるようにチューニングができるか。ココイチのインド逆上陸の成否は、三井物産の手腕にかかっている。

一方、崎陽軒は2017年以降、複数回、台湾の催事に出展するなどしてマーケティングを行い、ローカライズ化を図ってきた。現に、今回、現地のニーズに合わせて弁当を温かいまま提供する工夫も施す。オープン日に行列ができたように現地での関心は高い。

そもそも台湾には前出の「くら寿司」をはじめ「丸亀製麺」や「吉野家」「餃子の王将」「一蘭」など、日本である程度店舗数のあるチェーンがもれなく進出している。その背景には、地理的な近さはもちろん、日本のものに対する興味関心が高いため、味を変えなくても受け入れられやすいという風土があるからだ。

崎陽軒も台湾の食材を使用するものの日本の味を再現していく。周到な準備を経て、先に成功している外食企業の成功方程式にも則っているため、崎陽軒の成功の可能性は高いのではないだろうか。

近年、外食企業は日本のマーケットで行き詰まっている。少子高齢化を背景にしたマーケットの縮小をはじめ、なかなか上げることのできない安い価格、業界としての不人気も輪をかけた人材難など、いくつもの課題に取り組む必要があった。

そうした外食企業にとって、日本食への関心が高まっている海外マーケットは魅力的なフロンティアに違いない。ジェトロも海外進出を積極的に後押しするなど、国策と呼んで過言ではない体制でサポートを行う。日本から世界を代表する外食チェーンが誕生する日も近い。

  • 取材・文三輪大輔

    フードジャーナリスト。1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。歓楽街情報誌や放射線技師専門誌、歯科衛生士求人誌などを経て、2014年に独立。外食業界を中心に取材活動を行い、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。

  • 写真アフロ写真協力崎陽軒

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