『なぜ君』小川淳也議員が説く「米大統領選後の世界の読み方」 | FRIDAYデジタル

『なぜ君』小川淳也議員が説く「米大統領選後の世界の読み方」

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なぜ君は、選挙に行かないのか?

ドキュメンタリー映画として異例の観客動員3万人を突破し、ロングランを続けている大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』(通称『なぜ君』)の”被写体“であり、主人公の“真っすぐすぎる男”、衆議院議員・小川淳也議員。 

映画は「中立性を保つためにまだ観ていない」と語り、集会や番組・イベント出演でもNG質問は一切ナシ。毎日Twitterの「千本ノック」では、有権者からの質問に対して、自身の言葉で率直に回答を続けている。 

「全てをさらけ出すのは、性格であり、ポリシー」と語る、誠実かつ真っすぐすぎる政治家・小川淳也氏は、アメリカ大統領選をはたしてどう見たのか。率直な見解を聞いてみた( 小川議員には11月11日に取材)。

異例の観客動員3万人を突破し、ロングランを続けている『なぜ君は総理大臣になれないのか』。大島新監督が17年間、それまでほぼ無名だった小川淳也議員を追い続けたドキュメンタリーだ。ポレポレ東中野ほか全国ロングラン中 ©️ネツゲン
異例の観客動員3万人を突破し、ロングランを続けている『なぜ君は総理大臣になれないのか』。大島新監督が17年間、それまでほぼ無名だった小川淳也議員を追い続けたドキュメンタリーだ。ポレポレ東中野ほか全国ロングラン中 ©️ネツゲン

アメリカはもう世界を率いる指導者ではなくなっていく

「あくまで一個人としての見解ですが、バイデンさんが勝ったことには、率直に言ってホッとしています。 

ただ、かつてアメリカ経済は世界全体の4割を占めていた時代があり、今は2割まで落ちているのが事実です。2割というと、かつての日本くらいです。かつての日本が世界を率いるということは想像しえなかったことですよね。つまり、アメリカは今までは世界のリーダーでしたが、“北米大陸に位置するアメリカ国”に収斂していく過程にあるのかもしれません。 

しかも、バイデンさんは、オバマやクリントン、ケネディ、ルーズベルトなど、歴代の民主党の大統領ほどのインパクトはない気もします。 

それも含めて、アメリカは次第に世界を率いる指導者ではなくなっていくということを、日本もまた、覚悟しなきゃいけないと思うわけです。長い目で見ると、日本にとっては、戦後の最大の課題のひとつである『対米自立』を意識した舵取りが、むしろここからスタートするのだと腹の中では思わなきゃいけないと感じています」(小川淳也氏 以下同)

バイデン氏は演説の中で「分断ではなく、団結」を掲げ、「国全体を代表するのが、大統領としての責任です。私は自分に投票してくれた人のために働くと同じくらい、私に投票しなかった人のためにも働きます。それが大統領の仕事です」と語った。その言葉には、日本国内でも「涙が出そうになった」といった声が続出していた。

ちなみにこの演説、実は『なぜ君』を観た人の中には、小川氏が映画の中で語っている言葉「何事も51対49。でも出てきた結論はゼロか100に見える。政治っていうのは、勝った51がどれだけ残りの49を背負うかなんです。でも、勝った51が51のために、政治をしてるんですよ」と重ね合わせて聞いた人も多数いたようだが。

「そうかもしれませんね。でもね、それって、わざわざ言わなくとも、ちょっと前までは当たり前のことだったんですよ。逆に言うと、それに感動しなきゃいけない時代になったということですよね」

そこで彼が挙げたのは、アメリカの研究者、スティーブン・レベツキーらによる『民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道』(新潮社)という本だ。

「そこには『独裁的な政権には共通の特徴がある』と書かれていて、それは『政治的ライバルを敵とみなす』『中立機関の人事に踏み込む』ということ。しかも、中立機関の人事に踏み込むとき、法律の明文は侵さず、長年積み重ねられてきた知恵と結晶たる不文律を踏み倒すというんです。これはまさにトランプさんがやってきたことで、安倍さんがやろうとしたこと、菅さんが引き継いだこと、そのままですよね」 

民主主義において非常に重要なのは、まず「政治的ライバルを敵とみなすかどうか」だと小川氏は語る。そこには、彼自身が選挙区・香川1区において戦っている、自民党の3世議員で、香川県でシェア6割を誇る四国新聞や西日本放送のオーナー一族、現・デジタル改革担当大臣の平井卓也氏という強力なライバルへの思いもある。

「これは自己メンテナンスのためにやっている思考訓練なんですけど、私は強大な相手候補と戦っていますが、『彼は敵じゃない』『同じ民主主義の選挙という共通のシステムで正当に争っている正当な競争相手なんだ』『広い意味では仲間なんだ』と自分で自分に言い聞かせるんです。 

これは人間の一時的欲望や一時的感情では理解できない思考で、非常に知的体力や自己規律を必要とされる訓練なんですが、民主主義の中で社会の改善・改革、安定的な運営を担っていくうえでは、必然的に伴わなければいけないルールであり、感覚なんですよ。バイデンさんはそれを持っているということ。でも、トランプさんは持っていないし、おそらく安倍さんも菅さんも持っていない。正当な競争相手として敬意も払っていないし、むしろ殲滅すべき敵だと感じていますよね。そこは非常に似ているし、怖いことだと思うんです」 

「トランプの問題は、アメリカだけの問題じゃないと感じます。選挙の不正とか、マスコミの作ったフェイクとか、トランプ信奉者が、日本にもいまだに多いことも、全体として感じている危険な兆候のひとつのあらわれに過ぎないんじゃないかという気がしています」
「トランプの問題は、アメリカだけの問題じゃないと感じます。選挙の不正とか、マスコミの作ったフェイクとか、トランプ信奉者が、日本にもいまだに多いことも、全体として感じている危険な兆候のひとつのあらわれに過ぎないんじゃないかという気がしています」

トランプの問題はもはや対岸の問題じゃない

また、トランプ政権の4年間については、こう総括する。

「トランプを生んだのは、先進国の中間労働者層の痛みが原因で、さらにいうとその原因は、経済はグローバル化しているのに、政治のサイズはローカルだという歪な構造にあると思います。 

そんな中、トランプの運動というのは、白人の労働者層による『俺たちに仕事と収入を返せ』という訴えなんですよね。これは、『経済を自国の政治のサイズに引き戻せ』『経済を自国ファーストで縮小しろ』という運動に見えるわけです。 

でも、これが最終的な解になるはずはない。本当の命題は、経済のグローバル化に対応するグローバル化した政治機構を国際社会で作らなければいけないということなんです。 

そして、日本は、ゆるやかで長期的な対米自立と、今のグローバル経済にふさわしいグローバルな政治を整えるということを国際社会の中でやっていくことが必要だと思います。 

しかし、経済構造が歪になってきたことが、政治構造や国民の気分に伝播・伝染していて、トランプの問題はもはや対岸の問題じゃない。特に先進国に潜在的に組み込まれている問題で、きちんと手立てを打たないと、どういうかたちで暴発するかわからない怖さを抱えている気がするんです」

しかし、そんな危機に対して、アメリカ国民の出した答えは、「NOトランプ」だったわけだ。これは、現状に不安を感じる日本人にとっても、一つのヒントになるのではないだろうか。

ただし、日本の投票率は低く、選挙への関心は薄い。

「アメリカも日本も、投票率はだいたい50%なんですよ。 

世界で投票率90%超えている国には2種類あって、一つはオーストラリアやシンガポールのように、投票を義務化している国。これは、選挙に行かないと5000円の罰金とか、運転免許を書き換えられないといった公的ペナルティがある国です。もう一つは、まさに北欧諸国で、10代も20代も投票に行きます。どの年代も9割を超えているんです。 

でも、日本の場合は、全体を押し並べて投票率4割から5割ですが、年齢ごとにずいぶん差があって、だいたい年齢+10ポイントと言われています。投票率の年代別では、10代は2割、20代は3割、70代・80代になると8割・9割という構造になっているんです。 

投票率が高いことが何故大切かというと、90%を超えると、やっぱり政治が安定するんですよ。例えば、日本ではかなり極端な意見の政党も議席をとりますが、それは投票率が40%程度だからであって、90%台だと極端な意見はなかなか議席にはたどり着かないわけです」

18歳、19歳でいきなり選挙に行けと言われても、ピンとくるはずがないのは当然

では、どうしたら日本の投票率が上がるのか。小川氏は、北欧の「賢い主権者を育てる」ための家庭と学校での徹底した「教育」を指摘する。

「北欧では、学校で小学校や中学校から、個々のライフステージと社会・政治とのかかわりを、当事者として、徹底的に教えています。そして、家庭では『支持政党を持ちなさい、それが何故なのか説明できるようになりなさい』と教えます。 

日本は逆でしょ? 『政治の話なんか外でしちゃダメ。変わった子だと思われるから』というでしょ? 学校ではひたすら暗記をさせられるけど、自分の人生がどうなるか、社会とどうかかわっているかとか、教えられたことはないわけですよ。 

それで18歳、19歳でいきなり選挙に行けと言われても、ピンとくるはずないじゃないですか。 

ではそれは何故なのか。北欧諸国に限らず、ヨーロッパは興国と亡国の歴史を繰り返しているんですよ。異民族・異国に支配され、国家の体制と文化と言葉を根こそぎ持っていかれる経験をしてきた。 

しかし、日本は幸いかな、元寇と、GHQの支配下にあった6年間はありますが、国家の体制や文化、言葉を持って行かれたような経験は一度もしていないんですよ。だから、ヨーロッパでは政治は死活問題であるのに対し、日本ではプロ野球と一緒で『観客民主主義』『傍観民主主義』になっている。切迫感がないんです」 

小川氏が勧める北欧スウェーデンの中学校の社会科教科書『あなた自身の社会』。「法律や犯罪から、クレジットでモノを買うこと、結婚することなど、人生のステージで当事者として生きていくための基本的な躾・素養と、それが社会とどうかかわっているかを教えているんですね」
小川氏が勧める北欧スウェーデンの中学校の社会科教科書『あなた自身の社会』。「法律や犯罪から、クレジットでモノを買うこと、結婚することなど、人生のステージで当事者として生きていくための基本的な躾・素養と、それが社会とどうかかわっているかを教えているんですね」

「外に出るな」とか「店を閉めろ」と、突然、政治が生活の場に土足で踏み込んできたコロナ禍

しかし、そんな「傍観民主主義」に誰もが不安を感じたのは、コロナ禍での生活の激変だったともいう。

「突然、政治が生活の場に土足で踏み込んできたじゃないですか。『外に出るな』とか『店を閉めろ』とか。 

でも、それは何故なのか、どういう見通しで言っているのか、補償はどうなるのか、目を凝らしても見えない、耳を澄ませても聞こえてこないという現実に初めて直面しましたよね。 

あれは、政治が切実になる切迫感という意味では、一つの国民的な経験だったと思うんです」

そして、コロナ禍で多くの人が、すぐ目の前の答えを欲しがっている今、「民主主義」が危機にあると警鐘を鳴らす。

「民主主義の本質の一つは『手間暇』です。時間をかけて、コストをかけて、手間暇かけて対話して協調して妥協して。 

しかし、今日の暮らし、明日の暮らしに怯える日々の中で、人々はそうした民主主義の手間暇に耐えられなくなってきています。どうしても『早く答えをくれ』『短絡的に一足飛びに解決してくれ』という要求が高まっていますよね。 

それがダメなら、極端な話、民主主義なんてどうでも良い、報道の自由も学問の自由もくそくらえだという、ある種既成の秩序を壊してくれるようなリーダーのほうが、手っ取り早く結果を出してくれるんじゃないかという思いが日本社会にも確実にあると思います」 

「グローバルな統治機構を整え、世界的な再分配を視野に入れて、民主制をとれるに値する経済基盤を新しい社会に担保して、徹底的に教育、ある意味の躾・素養を備えた次世代の主権者を育てること。そして『民主主義社会を育んでいく』という決意があるか、覚悟を持っているかという問題だと思うんです」
「グローバルな統治機構を整え、世界的な再分配を視野に入れて、民主制をとれるに値する経済基盤を新しい社会に担保して、徹底的に教育、ある意味の躾・素養を備えた次世代の主権者を育てること。そして『民主主義社会を育んでいく』という決意があるか、覚悟を持っているかという問題だと思うんです」

「グローバルな統治機構を整え、世界的な再分配を視野に入れて、民主制をとれるに値する経済基盤を新しい社会に担保して、徹底的に教育、ある意味の躾・素養を備えた次世代の主権者を育てること。そして『民主主義社会を育んでいく』という決意があるか、覚悟を持っているかという問題だと思うんです」 

「1億分の1の当事者」「持続可能な未来へ」 

この不安な状況下で、改めて考えたこととして、彼はこんなニュースを取り上げる。

「何年か前に多摩川に鮎が戻ってきたというニュースがあったんですよ。多摩川が綺麗になって、藻がいっぱいあって。すると、鮎が縄張りをはらなくなるので、『友釣り』ができなくなったというんです。 

私はそのニュースを聞いて『ああ、鮎ですらそうなのか。衣食住が足りると、鮎ですら縄張りをはらず、お互いに争うことをしないんだ』と思ったんですよ。 

そのためにはやっぱり経済基盤がしっかりすること。その日暮らしの状況から多くの方を解放しないといけないわけです。それは私たち政治家が最優先で考えるべきことだと思います」 

「誰がなってもかわらない」「選挙に行っても、自分の一票が生かされたことがあまりない」という諦念を抱いている人は多いだろう。しかし、小川氏は言う。

「たとえ自分が投票した人が当選しなくとも、あるいは白票ですらも、『自分を選ばなかった1票』というのは、確実に当選した人にとってのプレッシャーになります。いわゆる『死票』というのはないんです。ですから、若い世代にまず伝えたいのは、ぜひ投票に行ってほしいということです」

彼が常日頃掲げているのは、「1億分の1の当事者」「持続可能な未来へ」ということ。そうした当事者意識を持つために、コロナ禍の今は、もしかしたら絶好の機会かもしれない。

「半沢直樹、パク・セロイ、小川淳也…真っ直ぐすぎる男が人気の訳」はコチラ

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。
    当サイトでの「真っすぐすぎる男」記事をリツイートして下さった、非常に律儀な小川淳也事務所。取材時には、「(梨泰院クラスの)パク・セロイ、いま嫁さんと観てるんですよ。あんなすごい人と並べて書いてもらえるなんて、恐れ多いです(笑)」と語っていた。どこまでも勉強家で、真面目である。

  • 撮影岡田こずえ

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