『フード・ラック!食運』を焼肉映画に留めないNAOTOの演技力

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『フード・ラック!食運』11月20日(金)全国ロードショー ©2020 松竹

『寺門ジモン第一回監督作品』『もし焼肉が最高の演技をしたら』、という映画『フード・ラック!食運』予告編のキャッチコピーを見て、あなたは何を感じるだろうか。率直な僕の第一印象を書けば、「また芸能人監督の企画モノ、焼肉グルメ題材のネタ映画かなあ」と思ってしまったのは事実である。

だが一足先に試写室で見た感想を書かせてもらえるなら、その第一印象を大きく超える、地に足のついた良作だった。

「歴戦のグルメライターと若い女性編集者が奮闘する」というグルメ映画の王道的定型構造を持つ本作が、確かに監督のネームバリューと焼肉グルメ情報を宣伝のフックにしていることは事実だ。でもそれ以上に、この映画は丁寧に練られ、よく煮込まれて作られている。映画の中に登場する、何の変哲もない定食屋で主人公たちを驚かせる、作り込まれたランチ定食のように。

こうした『丁寧さ』『手のかけ方』を、鑑賞前の観客に説明することはとても難しい。「あそこのアジフライ定食さ、普通のアジフライ定食なんだけどメシも味噌汁も丁寧で美味いんだよ」と職場の同僚に力説しても「要はアジフライ定食なんだろ?」と返されてもおかしくないように。

だが映画と料理は似ている。同じ俳優を使い、同じ予算で同じような盛り付けで客に出しても、よくできた映画と「手間を節約した」映画はハッキリと客にわかる。この映画は後者のように見えるかもしれないが、前者である。

派手な仕掛けはない、飲食産業とグルメライターたちの小さな物語だ。制作規模も大きくはなく、限られた時間と予算で節約して撮っている。だがこの映画はその代わり、知恵と感性をあふれるほど注ぎ込んでいる。

単に「スターを連れてきた」わけではない、キャストの絶妙さ

『フード・ラック!食運』©2020 松竹

監督の寺門ジモンが映画メニューを構成する時、まず「奮発」して勝負に出たのは主演のスター、EXILENAOTOだろう。料理で言えばメインディッシュ、看板俳優だ。だが、単に大金をはたいて闇雲にスターを連れてきたわけではない。映画を見た多くの人がおそらく驚くだろうが、NAOTOの演技が実に地に足がついていて素晴らしいのだ。

この映画でNAOTOは、飲食産業に人生を捧げて生きる人々に関わるグルメライターを演じるのだが、そこで彼は焼肉の用語を借りるならば「熟成」した、人生の味が染み渡った実にディープな演技を見せている。

実を言えば試写で見た後、あまりにNAOTOの演技が素晴らしいので僕はいくつか過去の出演作品を見返した。確かに過去のヒロイックな作品でも見事に演じているのだが、それでもやはり今作の繊細でリアルな演技には、ずっと彼を見てきたファンも改めて驚くのではないかと思う。

彼を主演、メインディッシュに選んだ寺門ジモンは、過去の作品であまり見せていない『熟成した演技』を見抜いていたということなのだろう。

『フード・ラック!食運』©2020 松竹

NAOTOの演技が『熟成』だとしたら、もう1人の主演である土屋太鳳がこの映画にもたらすのは『情熱』と言えるかもしれない。土屋太鳳はいつも懸命だ。どんな小さな規模の作品でも決して手を抜かず、流して演じることがない。その彼女が演じるヒロインの、いささか肩に力が入った編集者の若い情熱が、本作を底から煮込むように熱を加えている。

この映画のキャスティングが実際にどのようなプロセスで行われたのか、そこに監督の寺門ジモンがどのくらいコミットできたのかを僕が知っているわけではないが、この「熟成したNAOTOと清新な土屋太鳳」という主演2人、メインディッシュの組み合わせは焼肉を新鮮な緑野菜で包むサンチュのように絶妙である。

ただ人気者を2人呼んできたわけではない、映画の予算内で可能な限り贅沢な、それでいて演技の特性と相性まで入念に選べる目利きがいたのだろう。

スクリーン越しに伝わる、「厨房」の熱量

『フード・ラック!食運』©2020 松竹

主演の2人の周囲を固めるバイプレイヤーには、竜雷太りょう石黒賢東ちずる大泉洋大和田伸也松尾諭(『シン・ゴジラ』の「まずは君が落ちつけ」の彼だ)といった、知らぬ者のないベテランの名優たちが並ぶ。あまりに有名で僕たちの中にはすでに目を閉じれば顔が浮かぶほど馴染み深い俳優たちだが、この映画の中で見せる彼らの演技は、もう一度彼らを再発見した気分になるほど深い味が出ている。

時に、キャリアのある優れたバイプレイヤーたちは主演に合わせ、自分の演技を変える。駆け出しのおぼつかない主演の前で脇役が「名演」を見せれば主演の力不足がさらに際立つから、時にバイプレイヤーはこっそりと演技のレベルを主演に合わせて落とす。

だがこの『フード・ラック!食運』を引っ張る主演のNAOTOの堂々たる演技は、気遣いなしの「本来の味」を彼ら名バイプレイヤーたちから引き出している。新人アイドルの伴奏の時は歌をかき消さないように抑えて演奏していたバックバンドが、優れたメインボーカルを得て遠慮なくスウィングし本来の楽器の音色を響かせるように、ベテランの味を再発見するような演技が輝いている。

『フード・ラック!食運』©2020 松竹

それはキャストだけではなく、スタッフにおいてもそうだ。カウンターで食事をしていても、その店が上手く回っているかどうかという「厨房の空気」というのは伝わるものだ。映画好きで、芸人に転身する前の若き日には俳優養成所に通っていたという寺門ジモンの想いに嘘はなくとも、実写映画の撮影には照明、カメラワーク、衣装に大道具、さまざまな専門スタッフの力が必要になる。

彼らがただ「仕事だから仕方なく」タレント監督の下でルーティンを回しているのか、それとも「面白い、ひとつこの監督の撮りたい映画を撮らせてやろうじゃないか」と力が入っているのかはハッキリと作品に出る。この作品は後者だ。そうした「厨房」を支える裏方スタッフの熱や息遣いは、スクリーンを眺める観客の無意識にも届く。照明や衣装やカメラも、俳優と同じように演技をするのだ。

脚本にクレジットされている本山久美子は、今作で初めて長編映画の脚本を手がけたと思われる。オリジナル作品であるこの『フード・ラック!食運』は寺門ジモンが長年温め、考えてきたプロットであるというが、頭の中にある物語を映画の時間の中で切りそろえ盛り付けるには、プロの脚本家のリズムとセンスが必ず必要になる。

本作を見ていて感じたのはその料理の盛り付け、小さな味付けの繊細さだ。この映画は、たぶんこの優れたセンスを持つ脚本家の最初の一歩として回想されることになるのだろう。

映画産業と飲食産業への、寺門ジモンの情熱と愛

『フード・ラック!食運』©2020 松竹

本作は1人のグルメライターと、彼の周囲で飲食産業に関わる人たちの物語であるが、家畜商の資格を持つ寺門ジモンはそれを自分の関わる飲食産業のリアリティとして描くと同時に、映画産業、エンターテイメント産業の比喩として描いていると思う。

映画産業と飲食産業の構造が似ていることは、今回の新型感染症で両産業が打撃を受けた光景を見てもわかるだろう。人々に必要とされながら、時に「不要不急」として切り捨てられる。

寺門ジモンは、北野武や松本人志のようなカリスマ性のあるネームバリューを持たない。だが彼は心からの情熱と愛を持って、二つの産業に生きる人たちと関わり、この『フード・ラック!食運』を作っている。映画産業は魂の食物を差し出す、心の飲食産業であるからだ。ひと口の料理に多くの素材、調理人たちの仕事が詰まっているように、スクリーンに映る一瞬の映像には多くの映画スタッフ、キャストの仕事が詰まっている。

『もし焼肉が最高の演技をしたら』というキャッチコピーに嘘はないし、人目を引くフレーズとして悪くはない。だがこの映画は、本質的には働く人々の物語である。朝早く動き始め夜遅くまで働く人々、社会のメインストリームである「平日・祝日」の枠組みから外れ、人々の昼休みや夜、休日に彼らを迎え、心と体を満たすために働く人々の物語なのだ。

社会には冬が迫り、飲食産業と映画産業はふたたび「不要不急」として切り捨てられるのかもしれない。だがもうしばらくの間、映画館は安全な場所だ。あなたは熱いスープを飲み干すように、この映画で体と心を温めることができる。網から上げた熱い焼肉のような俳優とスタッフの情熱を感じながら、映画館を出た後に夜の空に白い息を吹き上げることができる。

本作は食材選びから配膳に至るまで、多くのプロたちの誇りある仕事によってテーブルまで届けられた、「本物の焼肉定食」である。映画を見終わった時、最高の演技をしているのが焼肉だけではないことが、きっとあなたにもわかるだろう。

『フード・ラック!食運』11月20日(金)全国ロードショー
原作・監督:寺門ジモン 原作協力:高橋れい子 脚本:本山久美子
出演:EXILE NAOTO 土屋太鳳
石黒賢 松尾諭 寺脇康文 白竜 東ちづる 矢柴俊博 筧美和子 大泉洋(特別出演)
大和田伸也 竜雷太 りょう
製作・配給:松竹株式会社/制作プロダクション:株式会社ギークサイト
コピーライト:(C)2020松竹/ URL:movies.shochiku.co.jp/foodluck

  • CDB(ライター)

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