菅野美穂『ウチカレ』苦戦!人気脚本家たちの新作の成否分けたもの | FRIDAYデジタル

菅野美穂『ウチカレ』苦戦!人気脚本家たちの新作の成否分けたもの

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『天国と地獄~サイコな2人~』は、ライトユーザーからドラマ好きまでがっちりつかむ、スキのない構成が高評価!

岡田惠和、北川悦吏子、森下佳子、宮藤官九郎と、人気脚本家の作品が贅沢に揃った1月期ドラマ。 

しかし、2月初旬の段階では、その成否がやや分かれてきている。 

視聴率などの数字も評価も共に高く、絶好調なのが、森下佳子脚本の『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系)で、評価は高いが、数字上ではやや苦戦しているのが、宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』(TBS系)。 

ここまで全3話すべてで2桁視聴率をとっているものの、同枠の前作『七人の秘書』に比べると、数字は若干低調で、視聴者の間でも好き嫌いが分かれるのが、岡田惠和脚本の『にじいろのカルテ』(テレビ朝日系)。さらに、数字的に苦戦し、批判の声も多いのが、北川悦吏子脚本の『ウチの娘は、彼氏ができない!』(日本テレビ系)だ。 

それぞれの成否を分けた要素は、何なのか。

(イラスト:まつもとりえこ)
(イラスト:まつもとりえこ)

森下佳子『天国と地獄~サイコな2人~』

『天国と地獄~サイコな2人~』の場合、TBS日曜劇場という枠で、とりあえず1話は毎クール観るライトユーザー層が、おそらく一定層いる。そのうえ、森下×綾瀬はるかのタッグは7作目で、これまでほぼ外れなし。

おまけに、ドラマ好きには絶大な信頼を得ている高橋一生も出演する。

テーマは、大林宣彦作品の『転校生』を筆頭とする「男女入れ替わりモノ」で、入れ替わりスイッチももはや古典的な伝統芸とも言える「階段ゴロゴロ」でありながら、入れ替わる対象が「刑事と殺人犯」という新しさがある。

さらに、第1話では、綾瀬はるかと高橋一生の入れ替わり演技の巧みさで惹きつけ、以降は、先が読めない展開で「考察」好きを盛り上げるなど、SNS向けのエサをふんだんに撒いてくれている。

それでいて、単なるSNSの話題狙いに終始しないのが、森下脚本だ。

今は、連ドラも連載漫画もアニメも、ネットの声に振り回され、予想を裏切るためだけに唐突に新キャラを犯人にしたり、その場その場のインパクト重視で物語が破綻したりしがちな時代。

しかし、本作では、「殺人犯」に見える日高(高橋一生)が、単に有能なだけでなく、行き場のなかった人に職を与えたり、社員たちに非常に人望があったり、家族に愛されていたりと、「サイコパス」とは縁遠い素顔がすでに見えている。

「犯人探し」が決してメインじゃない、正義も悪も、視点をかえれば、あるいは、突き詰めていけば、同じ場所にたどりつく、人間の深い業を描くのが森下作品だ。

その点、誰にでもわかりやすい定番設定に、斬新なアレンジを加え、SNSなどで盛り上がる要素ものっけて、人間の奥深さも丁寧に描いていく。ライトユーザーからドラマ好きまでがっちりつかむ、スキのない構成になっているだけに、数字も評判も芳しいのは、当然のことだろう。

宮藤官九郎『俺の家の話』

それに対して、宮藤官九郎脚本×長瀬智也の『俺の家の話』の場合、能楽の世界と、プロレスの世界という特殊な二つの世界を舞台にしつつ、「介護」や「学習障害」「貧困」など、様々な社会問題が描かれている。

正直、情報量は非常に多い。クドカンならではのコネタ、パロディなどもたっぷりだ。

しかし、それらはあくまで枝葉末節のサービス・お楽しみ要素であって、描かれている人物像や家族像、「物語」が何より魅力的で、社会問題も、ユーモアを交えて描かれているのが、実に秀逸なのだ。

それを可能にしているのが、あて書きを得意とするクドカン作品、さらにはドラマ界全体においても、「あて書きの最高傑作」と言って良い長瀬智也の魅力である。

とはいえ、情報量の多さやコネタなど、クドカン作品の独特のクセをあまり好まない層もいること、加えて、取り上げるテーマの重さ、シビアさに目を背けたくなる層もいることが、数字においてあまり伸びない要因になっているのだろう。

「長瀬智也『俺の家の話』を視聴率云々で語ってはいけない、その理由」はコチラ

岡田惠和『にじいろカルテ』

また、前クールの『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)が好評を博した岡田惠和と連ドラ初タッグとなる高畑充希の『にじいろカルテ』の場合、第1話を観て「思っていたのと違う」と感じた視聴者が少なからずいたようだ。

なぜなら、テレ朝の木曜ドラマは、『ドクターX~外科医・大門未知子~』シリーズや『DOCTORS』シリーズなどを放送してきた枠であること、タイトルに「カルテ」とあることや、番組公式のメインビジュアルなどから、「医療モノ」と思い込んだ人がドラマを観て「全然、医療モノじゃない!」とガッカリしたのだろう。

また、医療過疎地域で医師の主人公が働くことから、『Dr.コトー診療所』(フジテレビ系)を思い浮かべ、「Dr.コトーのパクリ」「Dr.コトーに比べて医療が全然ちゃんと描かれていない」などと指摘する声もネット上にはあった。

しかし、高畑充希が「演じるのは医者ですが、これはヒューマンドラマです」(産経ニュース1月24日分)と言い切っているように、もともと「医療モノ」ではないのだ。

岡田惠和作品であることを考えれば、『Dr.コトー診療所』よりも、同じテレ朝で放送された岡田脚本×山田涼介主演の『セミオトコ』がむしろ近いことがよくわかる。

主人公・紅野真空(高畑)は、東京の大病院の救命救急現場で働いていたが、勤務中に倒れ、5年生存率60~80%とされる難病を患っていることが判明した。そのため、休職になり、自分の病気を隠して、内科医の募集に応募し、この村にやってきたのだった。

岡田作品が描く、優しい人々の暮らすユートピア、ファンタジーのような世界は、いつだって「有限」である。例えば『姉ちゃんの恋人』では、過去のつらい記憶やトラウマを抱えつつも一生懸命に生きる主人公たちを、突然傷つけようとする人間が現れるからこそ、必死に手を取り合って前を向こうとする物語だった。また、『セミオトコ』はそもそも限りある命のセミが人間の姿になって現れ、人々を癒す物語であった。

『にじいろカルテ』もまた、主人公の命のタイムリミットの中で、それぞれ痛みや傷を抱く人々と触れ合いつつ、幸せであろうと懸命に生きている。岡田作品のユートピア感は、もともと好みが分かれる部分もあるが、好きな人にとっては「ずっと観ていたい」世界。とはいえ、岡田作品の固定ファンと、「医療ドラマ」好きとは正直、あまりかぶらない印象がある。しかも、繰り返しになるが、これは医療ドラマじゃない。それが、数字上では固定ファン「+α」につながりにくい理由かもしれない。

北川悦吏子脚本『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』では、「オタクの娘に彼氏ができないこと=余計なお世話!」という拒絶反応が噴出(写真:アフロ)
北川悦吏子脚本『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』では、「オタクの娘に彼氏ができないこと=余計なお世話!」という拒絶反応が噴出(写真:アフロ)

北川悦吏子『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』

最後に、北川悦吏子脚本、菅野美穂×浜辺美波が「友達親子」を演じる『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』の場合、タイトルや出演者、コンセプトが発表された時点で、古臭さを感じる声が多数あったほか、「オタクの娘に彼氏ができないこと=余計なお世話!」という拒絶反応が噴出していた。

また、いざ第1話が放送されると、浜辺美波演じる「オタク」設定の娘の部屋にある漫画やコスプレなどにはこだわりもあるものの、会話に登場する漫画・アニメなどがことごとく誰もが知っている「どメジャー」アイテムで、オタク感がまるでないことをはじめ、オタクの描き方が表層的でステレオタイプで、現実と乖離していることなどが批判の的になった。

加えて、演出面での「笑い」の入れ方についても「寒い」という感想が目立つ。

そのため、1~2話で離脱した視聴者が多数いたが、実はオタクの娘の恋愛模様よりも、輝いているのは、時代の移り変わりと、菅野美穂演じる「オワコン」恋愛小説家のもがきやあがき、空回りしつつも、必死に自分の人生に誇りを求めるリアリティだ。

やはり北川悦吏子作品は、自身の半径5メートル以内のリアルを描いてこそ、輝く。そのうえで、大量のリアルオタク女子に反感を抱かせてしまった「オタクの娘」設定がスタートダッシュの足枷となってしまったのは、なんだかもったいない。

しかも、第一話からところどころで匂わせていたものの、2月10日放送分では、血液型から菅野美穂と浜辺美波が実の親子ではない疑惑が噴出した。ここからがおそらく本題なのではないかと思うのだ。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

  • イラストまつもとりえこ写真アフロ

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