ドラマ『ウチカレ』最終回後も余韻を残す“豊川悦司の存在感” | FRIDAYデジタル

ドラマ『ウチカレ』最終回後も余韻を残す“豊川悦司の存在感”

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北川悦吏子作品では欠かすことのできない豊川悦司。『ウチカレ』でも独特の存在感を示していた…
北川悦吏子作品では欠かすことのできない豊川悦司。『ウチカレ』でも独特の存在感を示していた…

女優・菅野美穂が主演するドラマ『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)。3月17日に最終回を迎えた今も、その余韻が視聴者の心を揺さぶり続けている。

「このドラマは、かつて”恋愛小説の女王”と呼ばれた小説家・水無瀬碧(菅野)と恋愛にまったく興味のないオタク娘・空(浜辺美波)のトモダチ親子が奏でるエキサイティング・ラブストーリー。世帯平均視聴率は初回10.3%を記録しながらも、その後は8%台を推移。最終回9.0%と決して視聴率的には合格点とはいえませんが、『TVer』による初回見逃し配信は、約200万回を突破して日本テレビ歴代1位を記録しています」(ワイドショー関係者))

このドラマの脚本を手掛けたのは、みずからも”恋愛の神様”と呼ばれる北川悦吏子。まるでセルフパロディのような自画像を描きながら、逆境にもめげずに自分の信じる道を突き進むヒロインを描く姿は、ドラマ『愛していると言ってくれ』『ビューティフルライフ』(共にTBS系)の頃となんら変わっていない。ところが北川作品は、‘18年に放送された朝ドラ『半分、青い。』(NHK)以後、若い女性視聴者の心も掴みつつある。

「北川は『半分、青い。』の頃、批判専門のハッシュタグまで作られ、ツイッターが炎上。しかし結果的には、朝ドラに若い世代を取り込むことに成功しました。プライベートは勿論の事、私的な感想など、朝ドラを手掛ける脚本家は炎上を怖がって黙して語らずが当たり前。

そんなご時世に、彼女は稀有な存在。今回の『ウチカレ』でも、放送終了後にみずからの思いを赤裸々に語りかけ、視聴者とツイッターでやりあう姿は、まるでボクシングの試合を見るようでスリリングでした」(前出・ワイドショー関係者)

そんな「ウチカレ」の中で、大きな存在感を示したのが豊川悦司だろう。

初登場シーンは、第7話。トヨエツ演じる一ノ瀬風雅が、とある島で流木を担ぎ浜辺を歩く。野性味溢れるその姿に目を奪われていると、トヨエツは流木に腰を据え、大きなおむすびに美味そうにかぶりつく。この瞬間、北川ワールドの玉手箱が音もなく開かれた。

「トヨエツが北川作品に出演するのは、これが4回目。ツイッターでも『私は豊川悦司を書くために生まれて来たんです!』と呟くだけあって、北川作品の中でトヨエツはいつも特別な輝きを放って来ました。

『愛くれ』では言葉こそ封印されたものの、手話を交わす大きな美しい掌で世の女性の心を鷲掴み。そして今回の『ウチカレ』では、トヨエツが担ぐ流木そのものが風雅の人生そのもの。今回の作品で伝えるべきメッセージが、ぎっしり込められていました」(放送作家)

そんなシーンを堪能できるのが、第8話。空が生みの親・鈴(矢田亜希子)と育ての親・碧を捨てた風雅の居場所を突き止め、碧と共に島へ渡る。そして流木を拾い、生計を立てている風雅と逢う。流木とみずからの人生を重ね合わせるように

「自然の力で岩にぶつかったり、波に揉まれたり、砂浜に打ち上げられたりしながら、時が経つごとに流木は強くなっていきます。旅する中で強くなって行く」

と語り始める風雅に、逢ったら鉄拳を喰らわせてやると息巻いていた空も、少しずつ魅せられていく。

そして、その夜。焚き火を囲む空と風雅。33歳の時、役者として絶頂期を迎えた風雅は、台本に書かれたセリフすら不自由に感じて、すべてを捨てて消息を断つ。

《僕は売れていろんなものを得たので、今度はいろんなものを捨ててみようと思いました。お金を捨てました。家を捨てました。全部捨てました。南の島の民宿で働き、路上で歌を歌ったりしながら、あらゆる場所へ行った》

空は「そんなんで暮らしていけるんですか?」と風雅に疑問をぶつける。すると、

《お金がなくたって生きていけます。人がいれば、いいんです。自分を助けてくれる人。自分が助けたいと思う人。持ちつ持たれつ。どこだって住める。世界中を自分たちの家にしたんです》

令和の今の時代には、あり得ない風雅の生き様。しかし、ある種のデジャヴュ(既視)感に囚われてしまうのは、私だけだろうか。このシーンにこそ、「ウチカレ」に込められたメッセージを垣間見ることができる。

「自由奔放で、一見享楽的に見える風雅の生き方こそ、70年代に若者達の心を捉えた中村雅俊主演のドラマ『俺たちの旅』(日本テレビ系)へのオマージュ。風雅の生き方は、主人公・津村浩介(カースケ)の30年後の姿と重なる。

そう考えてみたらどうでしょう。奇しくもこのドラマに中村雅俊が特別出演していることも、何やら意味があることのように思えてしまう」(前出・放送作家)

しかもこれは、失敗を恐れず明るく自分の信じる道を突き進むヒロインを描いてきた北川悦吏子から、傷つくことを極端に恐れる現代のSNS世代へのメッセージ。北川はリスクを背負いながら今もリングに立ち、SNS世代の若い視聴者に、”風雅のような生き方もあり!!”であることを、伝えようとしているのかもしれない。

やがて焚き火を囲む二人を、気だるさと甘悲しさを讃えるジャニス・イアンの「Will You Dance?」が優しく包む。会ったばかりの父と娘が島酒を飲み、焚き火の炎に包まれ溶け合うように踊る姿に、言葉はいらない。トヨエツは今回も、私達を酔わせてやまない極上の一滴を味あわせてくれた。

  • 文:島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • 写真Rodrigo Reyes Marin/アフロ

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