コーチが明かす「渋野日向子が実践し続けた、たった一つのこと」 | FRIDAYデジタル

コーチが明かす「渋野日向子が実践し続けた、たった一つのこと」

短期集中連載 安福一貴の「女子プロゴルフ界 プロフェッショナルトーク」 最終回

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提供:カーセブン

青木翔コーチ。2017年から2020年まで渋野日向子を指導し、トッププロにまで育て上げた

いまも続く「シブコフィーバー」は、いうまでもなく2019年の『全英オープン』制覇から始まった。この『全英』で渋野日向子のキャディを務めたのが、青木翔コーチである。

プロテストにも受からずにいた渋野を、出会ってわずか2年で「世界一」にまで押し上げ、日本人コーチとしては史上初の海外メジャー制覇を成し遂げた青木コーチ。一流のプロを育て上げる一方で、自らのゴルフスクールでトップを目指す子どもたちの指導も行っている。「トップとそうでない人の差」を彼ほど知る人物もいないだろう。

トッププロが実践していることは、決して特別なものではない。しかし、そうでない人との間には決定的な差がある——。青木コーチに「プロフェッショナルとして成功する」ための秘訣を聞いた。

第1回【「ポジティブシンキングはいらない」勝みなみ 1億稼ぐプロの思考】はこちら
第2回【「練習は短時間、研究は長時間」勝みなみ「トップ維持の秘訣」】はこちら

世界チャンピオンという絶景

世界一の光景――。

私もトレーナーとして指導していた片岡治大(当時の登録名は易之・埼玉西武ライオンズ所属)が侍ジャパンの一員として第2回WBCで世界の頂点に輝いたときに喜びを共有させてもらった経験がある。鳥肌が立った。叫びたくなる衝動を抑えるのに必死だった。「世界一になること」は世界一の絶景が見られるということだ。しかも、青木コーチは渋野のすぐ隣で、世界一の景色を味わったのだ。

「最後のパット、渋野はかなり強く打ったんですが、普通、あの強さだったら入らないです。でも、外れる気がまったくしなかった。4日間72ホールで唯一、打つ前から『このパットは入る』と感じていました。

ボールがカップへと消えてガッツポーズした後、フッとまわりを見渡すと(解説で来ていた)平瀬真由美さんが涙を流していた。日本のメディアの人も泣いていた。『あっ、これ、全英だった。オレと渋野はすごいことをやってしまった』って慌てましたね(笑)。あのときは自分たちの力とは違うものが働いたと思いました。でも、一番はやっぱり彼女の努力。苦労しながら頑張ってきたことがすべて出せましたね」

最初の指示は「試合会場まで一人で行け」

渋野が兵庫県にある青木コーチのゴルフスクールの門を叩いたのは2017年。当時の彼女はプロテストに落ちたアマチュア選手で、クラブのフェースの芯に球がきちんと当たらないボロボロの状態だったという。そんな渋野に出した青木コーチの最初の指導は、「親に頼らず自立すること」だった。

「ふつうは両親やスタッフが選手の送り迎え、試合の手配などをすることが多いんです。親に頼りきってしまうと、どうしても行動や考えに甘えが出てしまいます。僕は渋野に自分で考え行動できる選手になってほしかったんです。

なのでまず、『(地元の)岡山から僕のところにレッスンを受けに来るときは自分で車を運転してきなさい』と言いました。2018年にプロテスト合格した渋野はは、2019年のシード権獲得を目標にステップアップツアー(レギュラーツアーの出場資格を持たないプロ、新人、アマチュアが対象の大会。獲得賞金上位2名が翌年のレギュラーツアーに参加できる)に参加し、各地を転戦していたのですが、そこでも『自分でできることは自分でやりなさい』と伝えました。

試合会場まで車を運転し、出場登録の手配、宿の確保、ウェアの洗濯、練習もすべて一人でやりなさい、と。まだ10代のコがやり通すのは本当にきつかったと思います」

全英優勝後、記者会見に臨んだ青木コーチと渋野。メジャー制覇は日本人選手は44年ぶり、日本人コーチは初となる快挙だった

試合後もコンビニ飯を食べながら練習

渋野は青木コーチの言葉を忠実に守った。いや、その上を行って、驚かせた。

「うちのアカデミーでは毎日やらなければいけないパッティングのノルマがあります。カップの1mから5mまで50㎝ごと、計9ヵ所にボールを置き、短い方から打って7個成功させる、というものです。途中で3回失敗したら最初からやり直し。渋野も当初は3時間くらいかかっていましたね。

きつい練習なので、継続できない人も多いのですが、渋野は誰も見ていなくても、きちんとやっているのがわかりました。毎日のノルマなので、試合に出ているときもやらなければいけません。ラウンド後にやりますから、ノルマが終わるとゴルフ場も閉まる時間になっている。たいていの選手は、ホテルに帰るのですが、渋野は違いました。

晩御飯をコンビニで買って、近くのゴルフ練習場に行って食べながら21時とかまで別の練習を続けるんです。翌朝は午前3時くらいに起きないといけないから『明日に備えてもう寝ろ』と電話で言っても『もうちょっと打ったら帰ります』って譲らない。

最初だけではありません。プロになってからどんなときも、それこそ優勝争いしていようが、ずっと渋野はこれを続けていました」

継続する能力。これは紛れもなく、才能だ。トップアスリートには不可欠と言ってもいいだろう。4度の盗塁王を獲得した片岡の姿が思い出される。彼とは「この一歩で、人生を変えていこう」「この一歩で、僕、人生を変えるから」と言い合って、盗塁のスタートの練習に明け暮れた。

自主トレではスタートを切るときの最初の3歩の練習だけを1時間、2時間、延々と繰り返した。レギュラーを勝ち取り、結果を残すようになっても、そうした基礎練習をおろそかにしなかった。

片岡も渋野同様、愚直だった。

「これだけ練習してきた自分はうまくいく」

「効率的とか、科学的とか、もちろんあるんですけど、僕はなにより基本の積み重ねが重要だと思うんです。

自分がいい感じで打てたら終わり、というプロもいるし、プロを目指す研修生だと9割はそんな練習をしている。でも、それって自己満足の練習でしかない。

体の成長具合に合わせますが、うちのレッスンでは1日700~800球打たせるのは当たり前です。ノルマは大事です。『やり切った』という、小さな達成感にもなるし、終わらないと帰れないのでダラダラと練習をしなくなる」

そう語る青木コーチの指導を前時代的だと思う人もいるかもしれない。だが、重圧に押しつぶされそうになる勝負どころで、アスリートを奮い立たせてくれるのは、誰でもない、自分だ。

時間も忘れ、競技と真摯に向き合ってきた、過去の自分こそが最後の拠り所なのだ。優勝がかかったパットを打つ際<これだけ練習してきた自分が外すわけがない>と信じられるから、成功するのである。

「プロでも結果を出す選手はなんだかんだ言いながらもちゃんと練習するんですよ」と安福氏

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(↓この後も記事が続きます。↓)

「説明してほしい」は甘え

ただ選手を鍛え上げることが青木コーチの目的ではない。練習を重ねる中で、彼が選手たちに本当に求めるものは、<自ら考えられる力を身につける>ことだ。

「選手たちに大切にしてほしいことは、繰り返し同じことをやりながら自分で考え、覚えていくという作業です。

自分で考え、本気の覚悟を持って続けられる子は段々と強くなります。でも、僕から言われてやっているだけの子は伸びない。

もちろん選手からのリクエストに応えてメニューを考えますが、そのメニューの狙いは必要以上に説明しません。説明してほしいというのは甘え。自分で気づかないとダメなんです。自分で気がつけば10伸びるのに、僕が言ってしまったら0.1しか伸びない。

いつも優しく、丁寧にやるだけではダメ。突き放すこともします。伸びるためなら僕は選手からどう思われてもいいんです。この前もアカデミーの子が『スイングを見て欲しい』と動画を送ってきたんですが、動画だけでメッセージで自分の考えが添えられていなかった。そういうときは意図的に返信時間を遅くしたりします」

選手はコーチからの返信がないことで考えるだろう。「なぜ、返信をもらえないのか」「なにか怒らせるようなことをしてしまったか」。そう悩むことが、自分を顧みる時間にもなる。

長所を見つける。自己評価は価値がない

そんな中で自分自身を、特に長所を知ることが、成長の大きな後押しとなる。

「今はあらゆるデータ、数字が簡単に見られますが、注意が必要です。データというのは短所は見つけやすいんですが、長所は見つけにくいんです。自分の武器は、自分自身で見つけないといけない。『強気のパッティング』とか、『ピンを攻める』といった長所はデータでは出ません。

長所を探すには『どれだけ自分を見つめられるか』です。自分の長所と短所、『なにができてなにができないか』をわかった上でゲームを組み立てていかないとうまくいきません」

私もまったく同感だ。結果を残せていない選手の多くは自分を理解しておらず、有能だと思いすぎている。例えばミスショットをしても、風やライのせいにして終わりにする。番手や打つボールを決めたのは自分自身なのに、そのときの失敗と向き合おうとしないのだから大きな進歩は望めない。

また、結果を残せない選手は評価を自分で下してしまう。じつは自己評価にたいした価値はない。評価とは、あくまで他者がするものだ。そもそも試合の勝者は、審判や数字が決めるものだ。

「一番困るのは、『私、練習しています』『私、努力しています』と言う子。やるのは当然だし、練習の評価をするのはコーチである僕。そういう子は、どこかで過信しているんですよね」

短期的な目標はつねに一つ

過信があると、あれもこれもやろうとする。野球のピッチャーなら「ストレートを速くしたい」と「変化球の精度を上げたい」を同時に求めてしまう。二兎を追う者は一兎をも得ず。プロの世界で一つの要素を向上させるだけでも難しいのに、二つ同時にというのは難易度のレベルが全く異なる。そういった選手は早くに現役を退いている。

「あれもこれもじゃないですよね。まず1つの目標を潰す。そして、次。短期的な目標はつねに1つです。それもちょっと頑張ればクリアできるものにします。できないことを設定してもイライラしてしまうし、一気に進もうとして基礎をおろそかにするようになってもいけない。コツコツと自分がやるべきことをやるのが肝心です。

一方で固定概念にとらわれることのない長期的な目標も作ります。今、うちにアマチュアランキング1位の女の子がいるんですが『私、(アメリカ男子ツアー賞金王3回の)ローリー・マキロイになりたい』と言うんですよ。『なれ!』と言っています(笑)。本気でマキロイになるために何が必要か、一つ一つ小さな目標を立てて潰していってもらいたいです」

「選手が練習をする姿を何時間でも見守る。それが仕事」と青木コーチ

渋野が語った「自分はマジ、下手」

成功している人ほど、自分の能力を低く捉える傾向が強い。

「渋野も自分が下手だと思っていました。全英で勝ったあとも『自分はマジ、下手』ってよく口にしていました。

あるとき試合から帰ってきて、『勝(みなみプロ)ちゃん、うまい』とばかり渋野が言うんです。『たしかにうまいよな。じゃ練習しよう』って言うと、渋野は黙々とクラブを振り始めました。彼女におごりは、一切なかったです」

自信がないから、歩みをやめない。その努力が、結局は確信へと変わるのだ。

ゴルフバカにはなるな

青木コーチ自身も2020年の「レッスン・オブ・ザ・イヤー」に輝くなど、「日本一のコーチ」と称されているが、うぬぼれてはいけないと、もらった盾は実家に置いてある。

「自分が正解だなんて1つも思っていないです。教えているジュニアの子たち一人ひとりが、どうすればいい社会人になれるのか、いいプロゴルファーになってくれるのか。そのために今、何をしてあげたらいいのかなって、いつも模索しています。

石川遼君の活躍以降、ゴルフを始めるジュニアの数は増えました。それはうれしいことですが、一方で『ゴルフがうまければそれでいい』と、日ごろの生活をおろそかにしている子も多い。僕のアカデミーでは、学校の宿題をやっていなければレッスンに来ても球を打たさずに素振りだけやらせます。『学生の本分である勉強をしっかりやっていないなら球を打つ資格はないよ』って。ゴルフだけではダメです。世界で勝つには、人としてのレベルも上げていかないといけません」

いま、日本のゴルフ界は大いに盛り上がっている。しかし私は危機感も感じている。その一つがフィジカルトレーニングに対する科学的見地がほとんど浸透していないことだ。いまだに「トレーニングをすると筋肉が硬くなる」といった、運動生理学から逸脱したことを平気で言うゴルフ関係者がいる。本当にもったいない。

「僕も現状に危機感を抱いています。能力の高い『黄金世代』の選手たちが、この2、3年のうちに勝てなかったから、海外メジャーでの勝利というのは、再び何十年も空いてしまうかもしれない。選手はアスリートとしてのレベル、人としてのレベルを上げる。僕ら指導者はトレーニング、クラブ、スイングなどもっと勉強して、いかにシンプルに選手、ジュニアの子たちに伝えていかなければいけない」

青木コーチは最後まで謙虚にそう語った。ゴルフ界は恵まれた状況にある今こそ、新しい道へ踏み出すチャンスなのではないか。

この連載ではゴルフ界をとおして、成功する人たちの秘訣を探ってきた。

謙虚に自分を見つめること。目標を立てること。感情的にならず、課題を見つけ、ひとつひとつ地道にクリアしていくこと――。

成功への道のりは長く険しいが、その方法はある。そして、成功への道は誰に対しても開かれている。

「ゴルフ界が発展するためには、コーチやトレーナーなどの裏方の横の連携も必要だ」と意見が一致した青木コーチと安福氏

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  • インタビュー安福一貴

    1976年4月20日生まれ。東京都出身。学生時代は野球部・陸上部に属す。21歳から空手を始め、全日本空手選手権に出場し、中量級ベスト16入りする。その後、選手時代の経験、数年間のインストラクター経験と整体学、整骨学の知識を活かし、プロトレーナーとなる。高橋由伸・片岡治大をはじめとした多くのプロ野球選手、成田美寿々・小倉ひまわり他多数のプロゴルファー、及びトップアスリートのパーソナルトレーナーとして、トレーニングとコンディショニングの両面のサポートを中心に活動。2016年に東京都品川区にPersonal Training Gym「STARTUG」オープン。2020年に株式会社スタークレス設立。

  • PHOTO講談社写真部/柏原力、Motoo Naka/アフロ(2枚目のみ)衣装協力(安福氏)ニッキー株式会社

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