「台本のない世界が好き」中川家がアドリブコントにかける想い | FRIDAYデジタル

「台本のない世界が好き」中川家がアドリブコントにかける想い

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「自分たちのやりたいことができるという意味では、究極系みたいな番組ですね。ほんまにこんなにやりたいことだけやって大丈夫なんかな…と思いながらですけど」

緊張感、疲労感、充実感が交錯するかのようなコント番組特有の雰囲気を感じながら、もう中学生との約50分にわたるノンストップのコント収録を終えたばかりの中川家・剛に話を伺うと、笑いながらそう返ってきた。

現在BSフジでは、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』の王者など、お笑いの世界の第一線で活躍する芸人たちが、毎週日曜22時から24時半までの2時間半、5番組にわたって『BSフジ爆笑サンデー』を展開している。

錚々たる面子。その5番組の先鋒を務めるのが22時から放送の『中川家&コント』(2018年10月放送開始)だ。日常にある風景をそれぞれの目線で切り取り、台本なしのアドリブコントを中川家とゲストの芸人が繰り広げる。

台本がかっちり固まったバラエティ番組が主流の中、なぜこの番組は「アドリブ」で勝負するのか? そう問うと、中川家・礼二は「ドキドキする感じが好きなんですよ」と微苦笑する。漫才の頂点『M-1グランプリ』初代チャンピオンである中川家がコント“も”する理由――眼目を聞いた。

「若手の頃に、新喜劇にちょい役で出させてもらったりしたんですけど、どうしてもセリフが覚えられないんですよ。でも、『そこは自由でええわ』って言われるとできるんです。同じセリフを言うだけでも、『自由でええわ』って言ってもらえると、スッと出てくるんですよね。ああ、僕らはきっちり台本通りにやるのは無理なんやな……っていうことを、25年くらい前からわかってたんです」

悟ったかのように話す剛と、諦観が混ざった兄の言葉に深くうなずく礼二。「アドリブの方がやりやすいし、昔からそこだけは変わっていないと思う」、ともにそう認める。

「『それではどうぞ !』って言われると、萎縮しちゃうんですよ。『どうぞ』って言われて、パッとできるのがプロなんだと思うんですけど」と笑うが、『中川家&コント』を観ていると、アドリブだとは信じがたい、ネタのたたみかけに圧倒される。

「アドリブといっても、最低限の設定と、なんとなくの着地点は決めている」と裏側を明かすが、毎回、設定と着地点以外決まっていない中で、長尺のコントを走りきる。収録を見学すると、まるで目隠しをしながらドライブを楽しんでいるような感覚でいるように思える。

ホントは見えているんじゃないのか、いや見えていないのか――カースタントでおなじみ、タカハシレーシングさながらの無茶苦茶さと面白さ。ロバートとのコント終了後、汗びっしょりになっていた礼二の姿が、単なるコント番組ではないことを物語っていた。

礼二「思ってた着地点と違うときもあるので、それを探しながらやると50分くらいやってしまう(笑)。結局、カットすることにはなるんですけど、そのプロセスが楽しければ、いいもんができるんちゃうかなと」

「どこで終わりにするかは、もうスタッフさんに任せて……。客観的に見てる人が決めるのが、一番いいと思う。番組が始まった当初は、『本当にこれでいいんですか?』って何回も確認したのを覚えています」

『中川家&コント』は、中川家や井上聡(次長課長)らを中心としたライブ『ミニコントやりますのでしばらくお待ちください。』を基盤とした番組だ。

2017年、そのライブを直に観たBSフジ編成局編成部企画担当部長・谷口大二氏が、これをテレビでもやりたいと思い、番組を企画した。

「即興でユニットコントをやるというライブでした。言うなれば、シチュエーション大喜利です。最低限の設定だけ決めて、アドリブでコントをする番組があってもいいのではないかと。中川家のむきだしの面白さを最大限生かすための番組を具現化してみたいと思いました」(谷口氏)

昨年11月には、番組と連動する形で池袋サンシャイン劇場で『中川家&コント ライブSP』を開催。チケットは即完売。CM撮影をシチュエーションとしたユニットコントに参加したミキ・昴生が、「なんも聞いてへん!」と叫ぶ姿が爆笑を生み出していたのだが、「ミキには、ほんまに『CMの撮影にくるようなミキのまんまで来てください』としか伝えてない」と、礼二はあっけらかんと笑う。

「ゲストに来てもらった芸人たちも、結局長くやってくれるんですけど、長くやりたいんやろなって思うんです。出てもらった芸人たちからもそういう声を聞く。飢えているんかなっていうのは感じますね」

コロナ禍によるライブの不開催や入場制限などにともなうフラストレーションから、コントを自由に楽しみたいという芸人は多い。実際、「お客さんの前でネタができないのは単純にストレスですね。無観客でやることでコンビ間でもギクシャクしてる人はいると思います」と教える。

さらに、剛は「言葉と時間の制限にもストレスを感じる」と以前から抱いていた違和感を吐露し、驚くことに、漫才にも窮屈さを感じることがあるという。

たしかに、漫才は“決められたこと”が多いが――。

「漫才にしたって、決められた時間が来たら途中で終わらなあかんので、ストレスがたまるんです。ほっとけないと言うか、一個引っかかるところがあったら、アドリブとしてそれを言いたくなるんです。話がどんどん違う方向に行くけど、それが漫才やと思ってるんで。

でも、テレビだと「ネタ時間は3分、4分」という縛りがあることが多いからできない。しょうがなく、「せやろ?」「そやなー」で納得してやっています。ほんまやったら、そうじゃなくて食らいつきたいとこなんですけど」

一通りの掛け合いをして、「そやなー」と納得して次の展開へと足早に向かう。テレビで流れる漫才が、制約された漫才だからこそストレスを覚えるといい、簡単に納得しないで今なお食らいつく芸人として、後輩のブラックマヨネーズ・吉田敬の名前を挙げる。

「ああ言えばこう言う人間の代表なんですよ、吉田って。『黙っとけ、ぶつぶつのおっさん!』と思うけど、あんなおもろいおっさんいない。僕らも時間の制約がない中で、ずっと掛け合いをする漫才がしたいんですよね」

ギャグをしたら1ポイント、ノリつっこみをしたら3ポイントという具合に、お笑いやバラエティが決められた流れを重視する、言うなれば競技化していくからこそ、何が飛び出すか分からないアドリブや即興を大切にしたいと二人は語る。好きなようにコントをやるのも、「せやろ?」「そやなー」で済まさずに面白いことができるからだ。

では、中川家にはいまの『M-1グランプリ』は、どう見えているのだろう。漫才の最高峰の舞台でありながら、4分という短距離をいかに面白く、新しく完遂するか――いわば競技化された世界だ。

礼二「単純にかわいそうやと思います。僕も経験してますから。和牛が出なくなったのもわかりますよね。 4分に縛られるのは、ほんまはイヤやと思うんです。正直、続かないですよ。 先に残らないんですよ。競技用の4分をやったって」

「M-1で優勝したコンビって、それ以降は優勝したときのネタをやってないですよね」

初代王者にして、『なんばグランド花月』で海原やすよ・ともことともに大トリを務める二人だからこそ、板の上の重要さを説く。「何かに縛られてやっても、先に残らない」という言葉は、あらゆる仕事に通ずるのではないか。数字や小手先以上に、大切なものがある。

2021年は、『オレたちひょうきん族』(1981年5月~)から40年、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(1991年12月~)から30年を数える。その間、コント番組はずいぶんなくなってしまった。

「みんな、やりたいと思ってるはずですよね。そういう中で、コント番組をやらせてもらってるのはありがたいなと思います。個人的に、もっと長くコントを見てみたい気持ちがありますね。10分ネタを4本だけ流すコント番組とか見てみたい。やってみることで、何がダメなのか見えてくると思うんです。やらないと、何がダメなのかがわからないままじゃないですか」

だからこそ、『中川家&コント』では、「楽しみたいし、ゲストで来てもらった芸人ととことん付き合いたい」と話す。

「漫才を作ったり、コントを作ったりするのって大変だと思うんです。いまはトークバラエティが中心で、そっち(漫才やコント)をあまりやらなくていいみたいな風潮があるんで……僕らは多分ひねくれてるから、やらへんのやったら、それやるぞと。僕らが若手のときって、先輩にいろいろ引き出してもらったので、若手と一緒になったら引き出してあげなあかんなと。でも、それって伝統に則ってやっているだけ(笑)」

礼二「元々ある道をただ歩いてるだけなんですよね。時代の流れとか規制もありますけど、あればあるほど(笑)。どれだけかいくぐれるか」

2021年からは、『キングオブコント』の応募資格が改訂された。プロ芸人の即席ユニットによる出場が解禁されたことで、実力派のピン芸人同士のコンビやトリオが参加できるようになる。間口が広がる一方で、長年コンビやトリオを組んできた芸人にとっては、ライバルが一気に増えることを意味する。コンビ結成こそ92年だが、72年から兄弟として過ごす二人に、即席ではない、長年コンビやトリオで居続ける意味を尋ねると――。

「単純に続けることですよね。途中でやめると、もう1回やらなあかん。 続けていること自体が強みになるんじゃないですかね」

礼二「ある意味、頑固にやってかないと。どうしても流されやすい世界ですからね」

「怖いなぁ。キングオブコントのルールが変わるのも」

礼二「ユニット的なものになってしまうと審査しようがないですからね」

剛「僕らみたいなのも出ようと思えば出れるんやろうけど、失礼やなと思うし。50のおじさんがオーディション会場に行ってる場合ちゃうな、ってな?(笑)」

礼二「衣装持ってな(笑)。『キングオブコントに参加する中川家』は、別のコントのシチュエーションとしてとっておきます」

テレビの漫才やコントが競技化する中で、『中川家&コント』は「時代に逆行してる番組」と二人して笑う。だからこそ、面白い。最新鋭のスポーツシューズに心が躍ることもあるだろうが、それ以上に揺さぶられるのは競技者自身の原始的な躍動感だろう。定期的に『中川家&コント ライブSP』のような客前でのコント開催も視野に入れていると話す。

「伝統というか昔のやり方ですよね。ドリフもそうだったし。テレビがあってライブがあって。そうなってくれたらうれしい」

礼二「ライブでネタをやって、答え合わせをする瞬間が最高ですよね。自分たちは面白いと思ってやってるけど、本当にこれみんな面白いと思ってくれてんのかなと(笑)。ライブってそれを確認できる場なんです」

「番組が始まって2年半経ちますけど、大丈夫なんかなって、今も思ってますから(笑)。この番組でやってることが正しいのかどうか、また皆さんの前で答え合わせをさせてもらいたいですね」

<『中川家&コント』はBSフジで毎週日曜日・22:00~22:30に放送中>
https://www.bsfuji.tv/nakagawaketokonnto/index.html

  • 取材・文我妻弘崇撮影中村和彦

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