25歳ホームレス風俗嬢が0歳愛児を窒息死させた「悲しい背景」 | FRIDAYデジタル
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25歳ホームレス風俗嬢が0歳愛児を窒息死させた「悲しい背景」

ノンフィクション作家・石井光太が凶悪事件の深層に迫る。衝撃ルポ 第10回

数多くのホストクラブがある東京・新宿歌舞伎町
数多くのホストクラブがある東京・新宿歌舞伎町

2018年5月29日の昼下がり、新宿歌舞伎町のラブホテル街にあるコインロッカーの中から、乳児の腐乱死体が発見された。

小さな遺体は、ビニール袋につつまれ、黒いキャリーケースに入れられていた。肉体は腐敗して溶けており、死後数ヵ月が経過していると見られた。

警察が容疑者の逮捕を発表したのは、遺体発見から4日後の6月2日のこと。犯人は、25歳の風俗嬢。彼女は約2年にわたってホームレス同然の生活をしており、マンガ喫茶で出産してから殺害したと自白した――。

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その女性は、名前を戸川万緒といった。1993年の生まれで5人きょうだいの次女だった。

父親は単身赴任が多く、親代わりだった兄とはそりが合わず、ぶつかることも多かったそうだ。自分というものを持っていないタイプで、高校時代から周りに流されるようにタバコや酒に手を出した。

美容系の短大へ進学したものの、美容師になりたいという決意があったわけではなく、同級生から誘われて風俗の仕事をするようになった。彼女がホストクラブ通いをはじめるのは、間もなくしてからだ。夜の街では月に50万円以上稼いでいたが、そのほとんどを入れあげているホストに費やした。

公判で万緒はこう語った(以下、彼女のコメントは公判での発言)。

「短大へほとんど行かなかったので除籍になりました。この頃はホストにハマって外泊をくり返していたので、兄から『帰ってくるな』とか『死ね』とか言われて、もう嫌だと思って家を出ることにしたんです」

万緒は入れあげていたホストとともにアパートを借りて同棲をはじめる。家賃から生活費まですべて万緒が面倒をみることになった。

生活費を稼がなければならなくなった万緒は、風俗店の仕事とは別に、出会いカフェにも通うようになった。マジックミラー越しに男性がタイプの女性を指名し、別室で金額交渉をしてから、ホテルへ行く。いわゆる個人売春だ。

1年後、万緒は妊娠をする。同棲相手のホストの子か、客の子かわからず、レディースクリニックで人工中絶手術を受けた。これを機に2人の気持ちはバラバラになり、お互いに浮気をくり返し、口論が絶えないようになった。

やがて2人は浮気が原因で同棲を解消することを決める。お互いを罵り合った末、万緒の方がほとんど着の身着のままでアパートを立ち去ることになったのだ。

客とラブホで寝て普段は漫画喫茶

万緒は住む家を失い、歌舞伎町のマンガ喫茶を転々とした。実家との関係は悪いままだったし、相談できる友達もいなかった。

彼女は当時を振り返る。

「泊まりのお客さんがいる時はラブホで寝て、そうじゃない時はマンガ喫茶で寝ていました。男性とセックスする時はコンドームをつけてもらっていましたが、向こうからつけないでやりたいって言われた時は特別料金をもらって受けていました。ピルは飲んでいませんでしたが、外に出してもらってました」

出会いカフェに加えて、援デリ(裏風俗)でも働きだした。

月収は30万円~60万円だったが、彼女は貯金をするわけでもなく、またもやホストクラブに通いはじめる。売春で溜まるストレスをホスト相手に発散していたようだ。1回につき数万円をつかっていたため、稼いだお金はその晩のうちにすべてなくなった。

そんな彼女が再び入れあげたホストが、吉田利樹(仮名)だった。2人が男女の関係になるには時間はかからなかった。

利樹は語る。

「僕にとって万緒は顔も性格も好みでした。それで僕の方から告白して、2016年の7月31日から付き合うことになったんです。デリヘルで働いていたことは知っていますが、特に気になりませんでした。万緒も僕のことを好きでいてくれたので、じゃあ同棲しようという話になったんです」

ホストと風俗嬢の関係では、生活費は必然的に後者が負担することになる。だが、その日暮らし同然の生活をしていた万緒に、アパートを借りる金はなかった。

それで彼女はマンガ喫茶に荷物を置いたまま、歌舞伎町の格安ラブホテルで寝泊まりすることにした。毎日のホテル代は、その日に売春で稼いだ。見栄からか、利樹にはマンガ喫茶のことは内緒にして、実家に暮らしているので金には困っていないと語っていたようだ。

毎月の出費が次だ。

・マンガ喫茶 10万円

・ラブホテル 30万円

・食事、携帯その他 20万円

これだけで60万円になるので、月収がそれに届かなければ、その分は借金となる。2人で過ごす月日が長くなるにつれて、万緒はだんだんと身動きが取れない状況に陥っていく。

「妊娠しています」

2017年の6月、万緒は急に吐き気に襲われた。マンガ喫茶やラブホテルのトイレに閉じこもり、何度嘔吐しても症状は収まらない。つわりだった。

西新宿のレディースクリニックで診てもらうと、医師から次のように言われた。

「妊娠してます。今日で11週と1日ですね。あと5日で初期中絶の期間を過ぎてしまいますが、うちはすでに予約で一杯なのでできません。中期中絶はやっていませんので、他のクリニックへ行ってください」

借金だらけの万緒は、十数万円の中絶費用をすぐに用意できなかった。中期中絶になれば受け入れ先は限られるし、値段も3倍近くに跳ね上がる。肩を落としてクリニックを去った。

万緒はどうしていいかわからずに結論を先送りにし、同じ生活をつづけた。病院から連絡があったが、お金もなく、気分も悪かったので応じなかった。実家へも、怒られるのが怖くて相談しなかった。

妊娠の事実から目をそらしたところで、お腹の子供はどんどん育っていく。気がつけば、利樹や買春客とセックスをする際は、お腹の膨らみを隠すために服を着たまま行為をしなければならなくなっていた。

彼女はこう語る。

「どうしたかったんだろ……。わかんないけど、陣痛がはじまったら、病院へ行くのかなって漠然と思っていました……。でも、怖くて全部を現実として受け入れられなかったので、考えないようにしていました」

1月の下旬のある日(本人は日にちの記憶がない)、マンガ喫茶にいた万緒に陣痛が襲いかかってきた。ずん、ずんと骨盤に響くような痛みが一定間隔で襲ってくる。

この場に及んでも、万緒は病院へは行かず、ネットで痛みを和らげる方法を検索し、陣痛に合わせて呼吸をするなどしていた。パニックになってどうしていいか判断がつかなくなっていたらしい。

彼女はつづける。

「痛みでわけがわからなくなってました。一度だけ『痛い!』と叫んだと思いますが、隣の部屋とは板一枚しかありませんから、聞こえてしまうかもしれないと思って、それ以降は声を出さないようにがんばっていました。何時間陣痛があったか覚えていません」

初産の場合、陣痛の平均時間は10~12時間と言われている。おそらく半日は個室で痛みにもだえていたはずだ。

やがてその時が訪れる。彼女の産道から赤ん坊の羊水で濡れた頭が現れ、そのまま滑り落ちるように回転しながら出てきたのである。

万緒は、ゆっくりと体を起こして床に横たわる赤ん坊を見た。しわくちゃの顔には赤い血がついていた。彼女はタオルで血を拭いてから、床に転がっていたハサミを手に取ってへその緒を切った。

その時、赤ん坊が急に泣き声を上げた。彼女は驚くと同時に、とっさに手で赤ん坊の口をふさいだ。だが、赤ん坊の声はどんどん大きくなっていく。

――このままじゃ、隣の人にバレて、店員を呼ばれてしまう!

彼女はタオルを赤ん坊の口にかぶせ、上から手で押しつけた。赤ん坊は泣き止まずに手足をバタバタと動かす。彼女はさらにつよく手で口を押えつづけた。

どれくらいそうしていただろうか。気がついた時には、赤ん坊の泣き声は止んでいた。

自分のしたことが怖くなった彼女は、赤ん坊の死体をビニール袋に入れて、黒いキャリーケースの中にしまった。わずか2畳の個室では、そうするしかなかった。

万緒は語る。

「キャリーケースは個室の入り口近くに置いていました。見るのが怖くて、あんまり個室には帰らないで、彼氏とラブホに泊まっていました。寝ている最中も、赤ちゃんのことを思い出して不安になりましたが、怖くなるので考えないようにしていました」

日に日にキツくなる悪臭

キャリーケースに入れた赤ん坊の遺体は1週間、2週間と経つにつれて悪臭を放つようになっていった。たまに帰ると、臭いがきつくなっているのがわかる。

出産から約1ヵ月後の2月28日、万緒は店のスタッフに気づかれるのを恐れ、遺体を外へ移すことにする。そしてスーツケースごと運び出し、利樹とよく泊まるラブホテルの隣のコインロッカーにしまった。料金は、1日300円だった。

その日から、万緒は毎日コインロッカーへ通い、300円を入れつづける。だが、売春とホスト遊びの中で、危機感が摩耗していったのだろう。約3ヵ月後の5月22日を最後に、コインロッカーへの課金を止める。

5月29日、コインロッカーの管理会社が、支払いの期限超過が一週間を過ぎていることから強制的に解錠した。こうしてスーツケースの中に入った嬰児の遺体が発見されたのだ。

通報を受けた警察は、すぐに周辺の防犯カメラを解析した。そこには、2月28日にキャリーケースをコインロッカーに入れる万緒の姿が映し出されていた。

6月2日、警察はマンガ喫茶を取り囲み、出てきた万緒を逮捕。後に彼女は逮捕時の心境をこう語った。

「ちょっと、ホッとしました」

日本では、1年に何件もの嬰児殺害事件が起きている。

これまで私は『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』(新潮文庫)等で何件もの同様の事件を取材してきたが、共通するのは女性たちが一様に目先の快楽に溺れ、結論を先延ばしにし、パニックになって慌てて殺害している点だ。

詳しいことは拙著をお読みいただきたいが、そうなる背景には、本人の生まれ持っての特性もあるのだろうが、人間関係の劣悪さ、極度の貧困といった様々な問題が横たわっていることにも目を向けなければならない。それらの社会的要因が相まって、こうしたあまりに悲しい事件が起こってしまうのだ。

万緒のゆがみは、殺めたわが子に対する次のような言葉からも読み取れるだろう。

「子供に対して思うのは、私のところじゃなく、他の人のところに生まれたら幸せになったのにってことです。子供に名前はつけてません。事件後につけようかなって思ったけど、私がつけるのもおかしいと思ってやめました。あの子の骨は、お父さんが家のお墓に埋めてくれました」

裁判官は、彼女に対して懲役4年6ヵ月の判決を下している。

  • 取材・文・撮影石井光太

石井 光太

ノンフィクション作家

'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

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