緊急事態下でも歌舞伎町ホストクラブが営業を選んだ「特殊事情」 | FRIDAYデジタル

緊急事態下でも歌舞伎町ホストクラブが営業を選んだ「特殊事情」

ノンフィクション作家・石井光太が迫る歌舞伎町の深層

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コロナ禍でも輝く新宿歌舞伎町ホストクラブの広告看板

2021年4月25日から、東京では3度目の緊急事態宣言が発令されているが、新宿の歌舞伎町では、ホストクラブが堂々とネオンをともして営業をつづけている。

街から一般人が減ったため、普段以上にホストやホステス、それに裏社会の人間がはびこっているように見える。

振り返れば、ホストクラブが次々とクラスターを起こし、新型コロナウイルスの感染拡大の一因となったのは、1年前だった。方々から激しいバッシングも起きた。そういう意味で、ホストクラブは新型コロナの震源地だったと言えるだろう。

ホストクラブの経営者たちは、この1年の間に何を目にし、なぜ今、火に油を注ぐように営業をつづけているのか。

ホストクラブの50年史を描いた拙著『夢幻の街――歌舞伎町ホストクラブの50年』を踏まえ、コロナ禍における夜の街の1年を追った。

宣言から1週間で営業再開

さすがにコロナ禍では店内も閑散としている

2020年4月7日、第1回目の緊急事態宣言が発令された時、歌舞伎町にある約250のホストクラブは、要請に従って休業することを視野に入れていた。3月から有名店のオーナーたちがLINEのグループをつくり、それに向けて調整していたのだ。

大手である「エアーグループ」の会長の桐嶋直也の言葉だ。

「緊急事態宣言が出た時点で、グループ全体のお客さんの入りは4割減くらいになっていました。国から名指しされて休業を求められていましたし、業界最大手のグループダンディも従う方針だったので、うちも4月7日からグループとして休業の方針を打ち出しました」(『夢幻の街』以下同)

だが、実際に緊急事態宣言が出ると、1週間もせずにホストクラブが次々と営業を再開しだした。なぜか。

そこには独自のビジネスモデルが関係している。

ホストクラブの給与は、原則的に歩合制だ。1回の出勤に対してわずかな最低保障が出るが、収入の柱は売り上げに対する歩合だ。ホストの指名客が払う小計の約半分が収入になるので、小計10万円なら5万円が収入になる。

だが、店が休業になれば、ホストは交通費程度の最低保障しか手にできないので、貯蓄がある人でなければ生活もままならない。そうしたホストたちは、食べていくために「裏っ引き」と呼ばれる、店を通さない直営業をしかける。店にしてみれば、これをされれば収益のシステムが崩れてしまう。

さらに、宣言が発令された後も、複数の店は経営をつづけていた。こうなれば、ホストたちはそちらの店へ移籍して稼ごうとするだろう。

店にしてみれば、これが一番困る。なぜなら、客は店ではなく、個々のホストについているので、移籍されれば客も一緒に持っていかれてしまうからだ。そうなると、宣言解除後に営業再開しても、経営はなり立たなくなる。

こうしたことから、ホストクラブは4月の半ばから次々と営業を再開していった。その根底には「若者は重症化しない」という安易な思いもあっただろう。

「スマッパ! グループ」の代表である手塚マキは語る。

「大体のホストは20歳前後で、その日が楽しけりゃいいって考えていて、幹部が『自粛しろ』って言ったって耳を傾けるようなタイプじゃない。そういう人種だからこそ、ホストクラブという枠組みが必要なんです。その枠組みがなくなったら、確実に暴走しますよね」

「スマッパ! グループ」では、店の営業を再開することでホストをコントロールすることを選んだ。そちらの方が健全な状態を保てると判断したためだ。

40人中18人が感染

こうして歌舞伎町のホストクラブの多くは、4月の終わりには営業を再開したのだが、その代償は想像より高かった。5月から7月にかけて次々とクラスターを起こすことになったのだ。

初期の段階で大規模なクラスターを起こした店の一つが、老舗の「ロマンス」だ。ロマンスはゴールデンウイーク明けの5月10日以降まで休業していたが、歌舞伎町の流れに抗えずに再開した。

その月の終わり、一人のホストが体調を崩して病院へ行ったところ、新型コロナの感染が発覚。店は保健所と連携して従業員全員にPCR検査を受けさせた。結果、約40名の従業員のうち、18名の感染が発覚した。

この時、社長の三上麗は即座にクラスターを公表し、店の営業を中止することにする。三上麗の言葉である。

「保健所からは、店名を公開する必要はないと言われていました。それでも公表したのは、常連のお客様を守るためです。僕らは社会的には信用されない存在ですし、それでも構わないと思って、この道で生きています。ただ、そのぶん、お客様との信頼関係は絶対に必要です。そこで信頼を失えば、店として存続することは難しい。だから、我々としては社会のためというより、お客様のために公表したんです」

彼らは、自分たちがアウトローな存在であることを認識している。だからこそ、一般社会に背を向けていても、自分たちの顧客にだけは誠意を見せる必要がある。そうした姿勢が、クラスターの公表となったのだ。

時を前後して、歌舞伎町で次々とクラスターが発覚したことで、新宿区が動きだす。6月1日、住吉健一区長が、組合のつながりで知っていた手塚マキに電話を掛け、次のように相談した。

「新宿区は歌舞伎町での感染拡大を抑えなければならない状況にあります。区としてはホストクラブと敵対するつもりはなく、協力して二次感染を防ぐ対策を取っていきたい」

手塚マキは新宿区役所へ出向いて、役所とホストクラブが一緒になって対策をしていく青写真を描く。手塚マキがホストクラブのオーナーたちに声をかけ、定期的に役所で「新宿区繁華街新型コロナ対策連絡会」を開き、感染対策に取り組むことにしたのだ。

手塚マキは言う。

「初期にロマンスさんがクラスターを起こして、きちんと対応してくれました。それが一つのモデルとなって、ちゃんと行政と組んで対策をしていこうみたいな話の流れになったんだと思いますよ。ホストクラブの側も営業せざるを得ない以上、感染対策に取り組まなければなりませんでしたから」

店はシャンパンコールを中止し、ホストや客の人数制限を行い、マスクやフェイスガード等の使用を導入した。

後に、これが「新宿モデル」と呼ばれ、水商売における感染対策のモデルとして確立するようになる。

夏に起きた歌舞伎町を中心としたクラスターの波は、新宿モデルの取り組みによって落ち着いたかに思われた。だが、歌舞伎町全体では、見えないところで、様々なひずみが生まれていた。

「ロマンス」や「スマッパ! グループ」のように、役所や保健所と協力して感染対策を地道に行っていた店があった一方で、行政の指導を無視して稼げるだけ稼ごうとお祭り騒ぎの営業を行う店も少なからずあった。

行政に背を向けたものが成功者

不幸なのは、夜の街では正しい行いをした店が評価されるわけではないということだ。むしろ、行政に背を向けて目先の利益を奪い取ったものが成功者となる率の方が高い。

地道に感染予防をつづけたホストクラブ店のオーナーは匿名で語る。

「ちゃんと対策をやっていたところは夏くらいにはつぶれていきましたよ。コロナ禍で、ホストクラブに来る女の子なんて、感染予防のことなんて考えてなくて、とにかく今が楽しけりゃいいと思っている子ばかりです。それなのに、店の側が『シャンパンコールは中止』『ヘルプは席を話して二人まで』『ホストはマスクとフェイスガードを着用』なんてやってたら、来るわけないですよね。

お客さんの多くは、感染予防せずにお祭り騒ぎをしている店へ流れていきました。そういう店は、クラスターを起こしても公表せずに営業をつづけます。それに、他店の人気ホストも勢いにひかれてどんどん移籍する。コロナ禍における誘蛾灯みたいなもんです。店が繁盛する、人気ホストが移籍する、さらに儲かるという循環だったんです」

ホストクラブを利用する女性客の7、8割は、風俗をはじめとした夜の街で働く女性たちだと言われている。特にコロナ禍において、彼女たちの割合は高まる傾向にある。

彼女たちは、見ず知らずの男相手に体を売る寂しさを、ホストクラブに来てまぎらし、翌日の仕事の活力にする。そんな女性たちがホストクラブに求めるのは、役所に指示にしたがって感染対策を厳格に行う店ではなく、刹那の夢を見られる竜宮城のような空間なのだろう。

彼はつづける。

「コロナ禍が何を教えてくれたかって、歌舞伎町じゃ真っ当に感染対策なんてやっても逆効果だってことです。オーナーや幹部がいくら熱心に取り組もうとしても、遊びに来る女の子たちがそれを求めてないならどうしようもないですよね。理想と現実はまったく違ってことなんですよ」

3回目の緊急事態宣言が発令された後も、歌舞伎町でホストクラブのネオンが消えず、営業がつづけられているのは、このためだという。

国の支持に従っても負け犬になるだけだ。とにかく稼げるだけ稼いで生き残りを図るしかない。そんな思いで営業をしているのだ。

実際に、春から夏にかけて数十店のホストクラブが閉店を余儀なくされたが、そのテナントは繁盛しているホストクラブが借り受け、新店舗をオープンさせている。そのため、コロナ前と今とでは、全体の店舗数はほとんど変わっていない。

こうしたホストクラブの姿勢を批判するのはたやすい。だが、なぜ社会の中でこういうことが起きているのかを考える必要はあるだろう。

詳しくは拙著『夢幻の街――歌舞伎町ホストクラブの50年』を読んでいただきたいが、ホストも、女性客も、多くは若い頃に家庭や社会の問題によってレールから振り落とされた者たちだ。そんな彼らがなんとか裸一貫で生きていける場所が歌舞伎町だった。

社会の側は、長らくそれを放置してきたわけだが、それがコロナ禍において不制御な人々を生んだと言える。

ホストクラブを批判するだけでなく、そういう人間や店や街をつくっている社会の構造についても目を向ける必要はあるはずだ。

  • 取材・文・撮影石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『絶対貧困』『レンタルチャイルド』『浮浪児1945-』などがある。

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