破産から7か月…被害者が「カーシェア会社代表」に浴びせた怒号
5月10日、東京地方裁判所の家簡地裁合同庁舎で行われた債権者集会を「実況中継」
昨年秋、高級中古車のカーシェアリングを行う会社が突然、業務停止に陥り、600人以上の投資者が「ローン地獄」の被害を受けている問題が新展開を迎えた。
5月10日、東京地方裁判所の家簡地裁合同庁舎で、破産したSKY CAR SHAREグループ(以下Sグループ)の債権者集会が行われ、破産したSグループ代表の上ノ山章博氏が、集まった約50人の債権者の前に初めて姿を見せた。参加した債権者にとって、信じがたい光景が繰り広げられたのだという。
「初めから騙すつもりだったんだろ!」
東京地裁家簡地裁合同庁舎の一室。破産管財人である弁護士が淡々と『第 1 回債権者集会報告書』を読み上げた後、裁判官が「質問ある方は前に出て発言してください」と参加者に問いかけると、男性Aさんが真っ先に挙手をし、堰を切ったように話し始めた。
「そこに座ってるのが上ノ山さん(スカイカーシェアグループ各社の代表)だろ? なんだよ、この内容は?」
それまでのどんよりとした会場の空気は一転し、一気に緊張感に包まれる。
裁判官に「前に出て話をしてください」と促されるが、男性はこれを拒否。
しばらく押し問答が続いたあと、男性はしぶしぶ前に出て話を続けた。
「自転車操業で経営したり、闇金から借入したりして、こんなので上手くいくわけないことくらいわかるだろ!初めから騙すつもりだったんだろ!」
そして上ノ山氏の方を向いて続ける。当日会場で配布された報告書を指しながら
「ここに書いてあることはほとんど調べている途中ってことだけど、だったらこれは単なる紙っぺらじゃないか!違うのか?そもそもお前は債権者に謝ったのか?まず来てる人に謝ることからだろ!!」
再び会場の空気が張りつめる。
「上ノ山、謝罪…するのか」
恐らく誰もがそう思った瞬間、小さな声で呟くように上ノ山氏が謝罪の言葉を口にした。
上ノ山氏「申し訳ございませんでした」
男性Bさん「きこえねーよ!!!」
上ノ山氏「申し訳ございませんでした!」
男性Bさん「まだきこえねーよ!!!」
上ノ山氏「申し訳ございませんでした!!!!」
上ノ山氏は、結局、債権者たちの前で男性たちにあおられながら、3回、「申し訳ございませんでした」だけの謝罪の言葉を述べたのである。
上ノ山氏が債権者に直接謝罪するという話は昨年秋から出ていたが、それから7か月後に姿を見せて示した態度は、債権者の怒りを鎮められるものとは程遠いものだった。
漏れ聞こえてきた話によると、上ノ山氏は今回の債権者集会で土下座して謝りたいと話していたそうだ。ただ実際は、「土下座」とは程遠く、促されて謝罪の言葉を発しただけだった。
高級カーシェア投資「スカイカーシェア」とは
スカイカーシェアは株式会社 SERIAS、株式会社ランドコアサービス、株式会社anchor、株式会社コーディアルの4社が主体となって運営されていたカーシェアサービスのマッチングサイトである。昨年10月8日に事業停止を告知したカーシェアビジネスは以下のような形で運営されていた。
①紹介制度などによって投資者(合計約700名)を集め、投資者名義で高級中古車(実は事故車・水没車・盗難車もある激安車が大半)を仕入れ価格の3-4倍以上の価格でローンを組んで購入させる。
②投資者自身の名義でありながら、乗ったことも見たこともないその車は、「共同使用契約」を結んだ形にして完全にSグループ側に預け、シェア車両として運用。投資者は自分名義の車にも関わらず、自由に乗ることができない。
③投資者に一切の金銭的負担はないことがウリで、月々のローンや自動車保険代などは毎月Sグループ側から投資者の口座に入金されて、そこから信販会社や銀行に返済する形となり、保険会社に保険料として入金さていた。
④投資者は、契約(ローン審査が通った)時点でローン代金の1割、毎月1万円、契約期間は基本2年(Sグループの資金繰りが悪くなった時期に7年に延長してほしいと言われた投資者もいる)。契約終了後は満了金100万円をうけとれる。報酬内容は時期によって異なるが、「元手ゼロ」で合計200万円以上の報酬が得られることはほぼ全員一致していた。
破綻の理由は、上ノ山氏から投資者への謝罪メールによると、「質の悪いクルマが増えたことで修理のお金がかかった」というもの。実際、600台以上の契約車両があったが、2018年春に事業がスタートし、2020年夏以降、稼働していたのは約200台。数百台は工場で修理中だったり、事故で大破したりして貸し出しができない状態だった。
全体の9割以上が月ぎめでシェアされていたが、実際にシェア車両に乗っていた人の中には、まともな方法ではクルマを買えない暴力団等反社会的勢力…いわゆる「反社」または「反社」に近い組織の人間もいたことも分かっている。
700名におよんだ被害者の今
スカイカーシェアが事業停止を公表してから7か月以上が経過した今、700名の投資者たちはどうしているのだろうか。
一時は集団訴訟の動きもあったが、結局はほとんどが泣き寝入り状態とみられる。筆者が昨年秋より連絡を取り合っている約50名の投資者に改めて今の状況を聞いてみたところ、およそ以下のパターンに分別されていることがわかった。
①ローン返済を終えてクルマを売却
②自己破産をした
③個人再生で頑張る(裁判所から再生計画の認可決定を受け、借金を大幅に減額してもらう手続き)
④時効援用を決めた(5年の時効を使って借金から逃げること)
⑤ローン返済しながら契約車両に乗っている
⑥クルマの行方がわからない(被害届も受理されず、クルマも見つからず何もできない)
⑦シェアされたままで返されていない
選んだ道は様々だが、④の方法で借金から逃れることは現実的には難しく、⑥⑦はかなり気の毒というより悲惨な状況である。クルマがどこにあるかもわからないのに、ローンの支払いを続けているケースや、シェアしている人と連絡は取れているがのらりくらりと交わされて、結局クルマは返却されない、シェア料金も支払われないが、ローンの支払いだけ続けているなどといった状況もある。月額シェア料金も支払わずクルマを乗り続け、許可なく勝手に修理をして、その代金50万円の支払いを強要されている投資者もいる。
上ノ山氏が今回、会場に姿を見せることは誰も予想していなかったし、無理やりとはいえ、謝罪までしたことはかなり驚いた人が多かったように思う。昨年10月8日に事業停止を発表してから、上ノ山氏がFRIDAY本誌の単独インタビューに応じた以外は、彼を含むトップ集団は行方がわからず、都内のタワマンからも引っ越したという話だった。
その後、本部機能があった場所に廃棄されていたゴミの中からは、事業継続が怪しくなった8月下旬と、事業停止発表するの前日の10月7日に上ノ山氏本人から遠方に住む親族や側近の従業員の自宅住所あてにいくつかの荷物が発送されたことを示す伝票がみつかった。そして10月8日以降、事務所はもぬけの殻状態となっていた。
一連の流れは「夜逃げ」にも思えてしまう行動だが、いったい何を発送したのだろうか? 上ノ山氏のこれまでの行動からもにじむ人柄を今回改めて知らされた債権者からは「謝罪なんてどうでもいい。1万円でもいいからお金を返してほしい」という悲痛な声も聞こえているが…。
第2回の債権者集会は9月8日に予定されている。この時、上ノ山氏は再び姿を見せるのか。この4カ月の間に債権者の気持ちがおさまる姿勢を見せることが出来るのか。今のままでは債権者のみならず、親族も泣き続けることになる。
- 取材・文:加藤久美子
自動車生活ジャーナリスト
山口県下関市生まれ。大学卒業後は日刊自動車新聞社に入社。その後、フリーへ。『くるまのニュース』『AUTOCAR JAPAN』『ベストカー』などの自動車メディアへの寄稿も多く、年間約300本の自動車関連記事を執筆している。